第三章 第14話
キラーホエールは戦況を見ていた。ドーナツ状のプールの対岸では部下2人が夏輝に翻弄されていた。
大柄な男が夏輝に戦鎚を振り下ろす。夏輝はそれを奪った盾で弾き返すと、そのまま顔面をバッシュ。よろけたところで腹を蹴りプールに落とした。背後から迫るもう1人に対しては、振り向きざまに相手の右手のストレートを左手で牽制し右手で顎を横一閃。脳が揺れて酩酊しているところを足を刈り、言葉のまま背中から叩き落とし沈黙させた。
キラーホエールはその状況を見ながら、隣にいる副官に尋ねる。
「おい、コイツら誰に鍛えられたんだ」
「ボス。貴方です」
それを聞いたキラーホエールは副官を殴り飛ばすと激昂する。
「手段は問わん!アイツを殺せ!今すぐだ!」
夏輝は周囲を見回した後、上階にいる雅達に手招きする。しかし背後からも新たな敵が迫っていた。
「夏輝君!後ろ!」
「……!?」
夏輝は後ろから羽交締めにされ、両手を封じられる。もがくが振り解けそうにないと判断した夏輝は後頭部を思い切り相手の鼻っ面に直撃させた。敵はあまりの衝撃と痛みに思わず手を解く。夏輝は正面を向き対峙すると構えをとり、不敵に笑った。それを嘲笑と捉えたのか男は力任せの大振りな右ストレートを繰り出した。夏輝は左手を添えるとその攻撃を逸らし、大きくできた隙に潜り込むと肘打ちを鳩尾に叩き込む。相手が腹を抑え屈んだところを踵落としで地に伏せさせた。麻里奈と美雨が降りてきたのを確認すると夏輝は告げる。
「お前らは、ホテルに戻れ。見張りはどうせ俺の相手をしに出てきてる。部屋に戻って窓から離れ鍵を閉めろ。助けが来るまで出るな。わかったら早く行け!」
「神山はどうすんの!?」
「俺はやることがある。さっさと行け!」
「麻里奈!行きましょう」
2人が建物に入ったのを確認したタイミングで雅も降りてきた。夏輝は苛立ち半分、安堵半分の気持ちで雅に言う。
「クソが。無茶しやがって……!無事で良かった」
「私も少しは強くなったでしょ」
「足、震えてるぞ」
再会も束の間、キラーホエールが空に向けて発砲し吠える。
「お楽しみのところ悪いが、その嬢ちゃんは俺達と先約があるんだ。おい、3枚に切り刻んで魚のエサにしてやれ」
その一言で組み立て設置されていた最新型のバルカン砲が唸りをあげる。夏輝は雅の手を引き走る。背後では弾丸が当たり火花が散り、跳弾する。立ち止まることは"死"を意味していた。物陰に隠れると夏輝は雅に言う。
「お前はこのまま行け。俺はコイツらを処理しなければならない。部屋に戻って窓から離れろ。鍵をかけて、バリケードを作れ。俺が来るまでそこから動くな。いいな」
「わかった……気をつけてね……」
夏輝は雅の手を握り告げる。
「必ず生きて帰ってくる。待ってろ」
その一言で二手に別れる。一瞬雅は夏輝の方を振り返るが夏輝から「早く行け!」と言われ走り出す。
敵はどちらを狙うか迷っているようだが、雅に対して発砲する。しかしそれをキラーホエールがやめさせる。
「待て待て!女を狙うんじゃねぇ!男を狙え!蜂の巣にしろ!」
再び夏輝に対してバルカン砲が火を吹いた。夏輝は、ジップラインのタワーまで移動し身を隠す。すると突如銃撃が止む。僅かに顔を覗かせてみるとどうやらバルカン砲に不具合があったようだ。
「おい。どうした」
「弾が詰まった!」
「使えねぇな!俺がこの手で葬り去ってやる……クソ!コイツも弾切れか!もっと強力な武器を持ってこい!クソガキ1人に俺の野望を邪魔されてたまるか!」
キラーホエールはショットガンを構えるが、カチカチと引き金を引くのみで弾は出なかった。その隙に夏輝はタワーを登り移動すると2階のテラスへと戦場を移す。
夏輝の正面にはエマージェンシーBOXから取り出したであろう斧を片手に襲ってくる男。上段からの大ぶりを体を半歩逸らし、紙一重で回避。攻撃には確実に殺意がある。続けて繰り出される横振りもバックステップで回避すると斧が壁に刺さり一瞬動きが止まる。その隙を逃さない。顔に1発、腹に1発喰らわせるとそのままプールへと蹴り落とした。
「クッソ!なぜアイツはまだ生きている!俺はアイツの死を望んでいる!さっさと殺せ!なんで!コイツは動かねぇんだ!」
キラーホエールはバルカン砲の押金を押しながら無理やり動かす。するとバルカン砲は再び唸りを上げ弾丸を発射する。しかし銃口が向いていたのは夏輝を仕留めようとタワーを登っていた部下の方向であった。梯子を登る部下の周りには火花が散った。
「ちょっと!ボス!」
「当たってないからいいだろうが!」
キラーホエールはバルカン砲を撃ちながら夏輝に照準を向ける。壁には弾痕が残り、ウォータースライダーに使用していたウォータータンクには穴が空いていた。
夏輝が背後から迫るもう1人に気づき組み合いになっていると突然その男が血を吐き、プールへと落ちていった。見ればキラーホエールの構えるバルカン砲からは煙が上がっていた。
「マジか……!味方ごと撃ちやがった。クソッタレが!」
「ふむ………当たらんかったか」
そうキラーホエールがボヤいた時、副官が大型の細長いアタッシェケースを持ってきた。ケースには"anti tank launcher"と書かれていた。
「ボス、こちらです」
「よくやった。お前も行け。アイツを殺せ」
「はい」
副官が去った後、キラーホエールがアタッシェケースから取り出したのは軍の輸送船から強奪した対戦車ロケットだった。
この惨劇はホテルへ避難していた雅達3人にも見えていた。2人が恐怖に震える中、徐に雅が呟いた。
「行かなきゃ………」
「えっ……?」
「雅ちゃん!?何言ってるの!?」
「雅ダメだって!死んじゃうよ!」
「わかってる!わかってるけど……私は……!ただ指を咥えて見ているなんてもう嫌!今度は私が夏輝君を守る番だから……」
雅は麻里奈と美雨を抱き寄せると短く告げた。
「ごめん。2人共、私が出たらすぐに鍵を閉めて」
雅はジーンズとシャツ、それからスニーカーに手早く着替えると部屋を出て行った。2人はその姿をただ見送ることしかできなかった。道中、雅はエマージェンシーボックスから照明弾を発射する拳銃を入手すると誰ともなく呟く。
「待っていて……夏輝君。今度は私が守ってみせるから……」
その声色は雅の決意を表しているような力強さであった。




