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第三章 第13話

「待ってろよ……雅……今行くからな……」


 立ち乗り式のジェットスキーを駆りながら夏輝は芽衣との会話を思い出す。


「今回は閉鎖空間の緊急水上任務だ。夏輝、準備は」

 

「いつでも」


 今回の任務は水上の為、銃は持てない。持ちうる武器は自分の頭と体のみである。夏輝は白い七分丈のズボンに青いシャツ、ベージュの防刃ベスト、黒いブーツのリゾート用水上任務の服装に着替えると、両手に指抜きグローブをはめ握り込む。


「持ってきて正解だったな……まぁ使うとは思ってなかったがな……」


「私もだ。現場の途中までクルーザーで連れてゆく。お前はそこからジェットスキーで突入しろ」


「了解。使えるジェットスキーは?」


「これだ」


 芽衣はクルーザーの後部に積まれているエメラルドグリーンの立ち乗り式ジェットスキーを示した。


「高出力かつ軽量化されたものになる。必ずお前の力になってくれるだろう」


「そうか……そろそろ出立ポイントだな。俺は出るぞ」

 

「よし。夏輝が先鋒だ。場を混乱させたら本隊の私達も乗り込む。いいな」


 その言葉に累と沙羅は頷くと、夏輝に告げる。


「気をつけてくださいまし。無茶と無謀は違いますのよ」


「わかっています。無茶して勝てるなんて思ってませんよ」


「気をつけてね……あ、でも私の獲物も残してね……」


「なるべく残しますね。ただ俺1人で終わった時は……すいません。諦めてくださいね」


「夏輝」


「なんだよ」


 芽衣は夏輝の目を見ると、肩に手を置き告げる。


「死ぬな。必ず生きて帰ってこい」


「………約束する」


 夏輝はクルーザーからジェットスキーに乗って飛び出すと占拠されたW.Iリゾートに急行したのだった。



 見張りは水飛沫を上げ、高速で近づいてくるジェットスキーを見つけると、キラーホエールに叫んだ。


「ボス!ジェットスキーがすげぇ速さでこっちに向かってます!」


「いちいち報告するな!撃ち殺せ!」


 部下は視線を海に向けるがその姿はなかった……


「消えました!」

 

「消えただと……」

 

「コイツ海に潜ったんだ!」


「海に潜った!?ソイツは俺達の敵だ!撃ち殺せ!」


 キラーホエールがそう叫ぶと同時に水中から銀色の水飛沫を上げ、エメラルドグリーンのジェットスキーが飛び出す。それを操っているのは雅が待ち望んでいた人物であった。


「夏輝君……!」


「なんだあのクソガキは!?」


 夏輝はジェットスキーを操りながら、キラーホエールを見つめていた。雅に銃を向けていた"ヤツ"を。夏輝の目には"絶対に逃さない"と強い意志が込められていた。キラーホエールは部下に命じ、銃を構えさせるが夏輝は次々とジェットスキーで水を浴びせていく。


「おいおい、どうなってる。こっちは銃を持ってるんだぞ。アイツは水だけで俺達を追い出すつもりか?舐めやがって……!オイ!アイツを叩き落とせ!」


 その命令と共に3台のジェットスキーが出撃し、夏輝を追う。夏輝はジェットスキーを少し潜らせて捻り急旋回、水飛沫で追手の視界を塞ぐと同時に方向転換すると、追っ手の1人はそのまま直進しクラッシュした。さらに前方から2人乗りのジェットスキーが近づいてくる。後部座席の男の手には棒状の武器。文字通り叩き落とすつもりだ。夏輝は男が武器を振る瞬間に姿勢を低くし回避すると空振りしたジェットスキーは救助用ゴムボートのスロープを飛び、ショップに突っ込んだ。


「ちぃ……小賢しい野郎だ!撃ち殺しちまえ!」


「はいよ」


 夏輝の背後についた2人乗りジェットスキー。後ろに乗る男はアサルトライフルを取り出すと、引き金を引く。夏輝は右に左にジグザグに船体を振り、回避していくと背後には銃弾による水柱が立っていた。夏輝は視界の端にもう一台のジェットスキーが参戦したのを見つけるとそちらに向かう。正面からも敵。背後からも敵。挟み撃ちで高速接近してくる2台に対し、あわや衝突というところで船首を沈めるとまたも潜った。2台はお互いを回避できず衝突。乗組員は派手に水へと落水した。


「使えないヤツらだ……結局俺がやらなきゃならんのか……」


 キラーホエールは夏輝にショットガンを向け、雅から意識をずらす。その瞬間、男の腹に強烈なキックが刺さった。芽衣に教わった不意打ち。雅の決死の一撃であった。

 

「ぐっ……クソが!ガキが舐めやがって!撃ち殺してやる!」

 

その場を離れる雅の背にショットガンが向くがすぐに視界が遮られる。夏輝がまたも水を浴びせたからだ。

 

「お前の相手はこのオレだ。雅!2人を連れて逃げろ!」

 

「〜〜〜〜〜ッ!テメェら!あの女共を追え!絶対に逃すな!」


 激昂するキラーホエールに対し、夏輝は雅の成長に驚き半分怒り半分の複雑な感情だった。雅達を追う敵に対し容赦なく水をかけ、妨害する夏輝。しかし敵もただやられるわけではなかった。


「おい。もっと強力な武器を探せ」


「ボス。コイツはどうです?うっ………!」


 キラーホエールに部下が対戦車手榴弾を投げ渡すと同時に、夏輝はタワーとプールの中心の島へ続く道を飛び越える。その際、部下をプールに蹴り落とし無力化した。キラーホエールはピンを抜くと高らかに叫ぶ。


「来い!魚野郎!俺と正々堂々勝負だ!」


「魚野郎って……魚はお前らだろ……あ、シャチは哺乳類か……」


「くたばれ!クソガキ!」


 夏輝の進路上に投げられた手榴弾は着水すると巨大な水柱を上げ、爆発した。その爆発はオルカの手から逃れる雅達からも見ることができた。


「夏輝君!」

 

 雅の叫び声と共に激しく立ち上る水柱。その中を突っ切るようにジェットスキーが飛び出してきた。雅が安堵するのも束の間、背後からも迫り来る足音がする。


「いたぞ!このクソガキ共が!」


「雅!見つかった!急がなきゃ!」


「逃げるよ!」


「逃げるったってどこに!」


「ここじゃないどこか!上に上がって!」


「待ちやがれ!」


 水上の敵を粗方翻弄した夏輝は怒号が聞こえる方を見る。そこには追手に追われる3人の姿があった。しかし距離は遠く、陸路では間に合わない。夏輝はジェットスキーを止めると、見張り台のあるタワーに登る。雅達がいるのはほぼ対岸。使えるものがないか見回す夏輝の目にジップラインが入った。ロープに手を通すと足場を蹴り出しプールの上を滑空する。


「追い詰めたぞ……"歯向かうものには死を"オルカのモットーでな。大人しく死んでくれ」


「……!」


 雅は麻里奈と美雨を背後に庇うように立つ。しかし方や銃を持つ成人男性、方や平凡な女子高生。戦力差は圧倒的であった。ジリジリと距離を詰める男。死を覚悟した3人。だが次の瞬間、目の前の男は吹き飛ばされた。見れば、ジップラインの勢いそのままに夏輝が男を蹴り飛ばしていた。手早くジップラインから手を外すと立ち上がりかける男の顔を再び蹴り気絶させた。夏輝は唖然とする3人に怪我がないことを確認すると、下を覗き込んで告げる。


「ここにいろ。俺が下にいるヤツらを片付けるまで降りてくるな。いいな」


 頷く雅を確認すると夏輝は滑り棒に飛びつき一階へと消えた。

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