第三章 第11話
夏輝達が囮を迎撃していたころ、W.Iリゾートを見つめる集団があった。黒塗りに金細工、シャチの海賊旗を掲げたクルーザーを中心とする現代最強の海賊"オルカ"であった。
「よし。始めろ」
キラーホエールはタバコを吹かすと無慈悲に告げる。その一言でジェットスキーの集団がW.Iリゾートに向けて侵攻を開始した。
異変に気づいたのはタワーにいる見張りであった。地平線から迫る黒い波。望遠鏡で覗くとシャチの海賊旗が見えた。
「……!オルカか!こちらタワー見張りから本部。オルカと思しき集団を確認!ゲートの閉鎖と客、従業員の避難を求めます!」
「本部了解。各員緊急配置に付け」
本部からの指示を皮切りにあらゆる場所で避難指示が飛ぶ。また一部のセキュリティ人員は消化用放水銃をアクティブにすると侵入者に備える。武器を持てないこの国ではこれが限界の対抗策であった。セキュリティチームの隊長は見張りに無線を飛ばす。
「何か見えるか!」
「飛行機です!水上飛行機が南から接近中!」
「なに!?」
水上飛行機がプールに向かって銃を撃つと細かい水柱が立ち上がった。多くの客や従業員が逃げ惑う中、この混乱に動じていない者がいた。工具箱を持っていた男である。男は以前細工を施した配電盤を操作するとセキュリティシステムにある保安本部へ続く経路の監視カメラをオフにする。その後、男は銃を隠し持ち保安本部へと向かうのだった。
「飛行機がまた戻ってきます!」
「………!」
飛行機は上空を過ぎる際に何かを落としてゆく。元軍人である隊長の目にはそれがハッキリとわかった。爆弾だ。
「皆伏せろぉぉぉぉぉぉ!」
その言葉と同時に響く爆音。見れば壁には大きく穴が開いていた。そこから見えるのはスロープを使い飛び込んでくるジェットスキーであった。工具箱の男はそれを確認すると保安本部へと侵入した。
「誰だ!ここは関係者以外立ち入り禁止だ!」
「…………」
「聞いているのか!今すぐここから……」
「………うるさい」
1人の職員が問い詰めるがその会話は乾いた発砲音で遮られた。工具箱の男は迷いなく職員を撃ち殺していた。呆気に取られ動けなくなった他の職員を男は容赦なく撃ち殺していく。保安本部が静かになったのを確認すると、男はスマートフォンでキラーホエールに連絡を取る。
「本部の制圧が完了しました。いつでもゲートを開けます」
「よくやった。先鋒が突入するゲートを開け」
「了解」
男はコントロールパネルにある"Open"のボタンを押す。すると監視カメラに映るゲートがゆっくりと開き始めるのであった。
「ヤツらを上陸させるな!」
上方に設置された放水銃から強烈な水流がジェットスキーに襲いかかるが所詮は水。オルカの面々は全く気にも止めていなかった。そんな時、ゲートにいた隊員の1人が大きく手を振っていた。隊長がそちらを見ればゲートがゆっくりと開き始めていた。開いたゲートからホーンをかき鳴らしながら侵入してきたのは前甲板にバルカン砲を備えた武装クルーザーであった。銃手は重音が響くバレルを回転させると押金を押し、弾丸をばら撒いた。弾丸は壁や通路に反射し火花を散らしゲート上にいた隊員を容易く撃ち抜く。撃ち抜かれ転落した隊員は海の底へと消えた。またもセキュリティチームに対して大量の弾丸をばら撒くバルカン砲。圧倒的な火力の前にセキュリティチームは隊長含む数名のみという、ほぼ壊滅状態になってしまった。
「呆気ないヤツらだな。ん?オイ!お前!どこにいくつもりだ!」
「待て……!撃つな……!うっ……!ぐはっ……!」
銃手と輸送してきた兵が降り立ったのを確認した操縦手。その時、タワー3階からゲートに続く通路にセキュリティチームの生き残りを見つけた。だが操縦手は、無慈悲にソウドオフショットガンで隊員を撃ち殺した。
「キラーホエール様に合図だ!」
その言葉を皮切りに、クルーザーに装備された爆音のホーンが鳴らされた。ホーンを合図にキラーホエールが乗り込むクルーザーが侵入してくる。キラーホエールはところどころ煙の上がるリゾートを見て満足そうに微笑む。プール中央の小島に降り立つとそこにはセキュリティチームが両手を拘束され捕えられていた。それを一瞥したキラーホエールは副官に聞く。
「他の従業員と客は?」
「大ホールにて大部分を拘束してます。現在ホテル各階層の部屋を蹴破り残りを捜索中です。しかし判断が早かった幾つかの船は出航して逃走しました。いかがしましょうか」
「放っておけ。大した脅威にもならん。中継の用意は」
「こちらに。いつでも開始できます」
「始めろ。我々は本気だと言うことを示す」
副官が示す先には大型のカメラが設置されていた。キラーホエールはカメラの前にセキュリティチームを連れてくるように指示するとカメラの前に立つ。
「全世界の諸君。私が"オルカ"の棟梁。キラーホエールだ。さて……諸君はなぜ我々がこのようなことを行ったか疑問に思うことだろう。簡単だ。我々の要求は"国"だ。我々は大国により家族を失い、土地を失い、故郷を失った。今、新たな故郷を求めている。そこでだ……ここにいる者達を無事に返してほしければ、極東にある無人島。あの島を譲渡しろ。我々は新たな国を建国し新たな国家を作る。無論、現在各国の刑務所に収容されている仲間も返してもらう。期限は……そうだな。半日もあれば充分か?もし進展が確認されなければ………」
キラーホエールは1人のセキュリティを躊躇なく撃ち殺した。
「こうなる。政府諸君には懸命な判断を期待しているよ。ではご機嫌よう」
中継を終えるとキラーホエールは部下に指示する。
「コイツらはまとめて処分しろ。それと今の映像、大ホールの人質にも見せたか?」
「えぇ」
「そいつは結構。どの道全員生きて帰す気もないが……まぁ希望を持たせるくらいならいいだろう」
「ボス。スマートフォンや連絡手段は奪わなくてもいいんですかい?」
「構わん。どこに連絡しようとも動けまい。タワーに見張りを立てろ。ミサイルも持たせるんだ。近付く航空機は全て撃ち落とせ」
「わかりました」
その時、キラーホエールに近付く男がいた。先に潜入していたスパイの男である。
「ボス。ただいま戻りました」
「そうか。よくやった。この作戦が上手くいったのはお前のおかげだ。どれ褒美をやろう」
「いえ……褒美など……」
「まぁまぁ遠慮するな」
キラーホエールは男を島とタワーを繋ぐ陸地に連れて行くと、男の腹を蹴り飛ばしプールに落とした。
「ボス……!?何を……!?」
「褒美だ。受け取れ」
キラーホエールは男に向かって発砲した。男は力なく沈んでいき海底に消えた。そんなキラーホエールの耳に聞こえてくる音があった。見ればリゾート上空に一機のヘリコプターが飛んでいた。それを見たキラーホエールは短く告げた。
「おい。撃ち落とせ」
その言葉と共にヘリコプターに向かってミサイルが放たれるのであった。




