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第三章 第9話

公海某所。燃料を満載したタンカーが航行していた。風は凪。波も穏やかで絶好の航行日和。しかしそんな空気は艦橋にいるレーダー員と見張りの言葉で消え去った。


「船長!14時の方向から複数の船影!」


「なに?レーダーに反応は!」


「微弱ながらあります!どうやらジェットスキーのようです!」


「見張り!双眼鏡を使え!報告を続けろ!」


「船長!8時の方向からも来ます!挟まれました!」


「なんだと……!」


 見張り員は双眼鏡を除くと微かに見える影を追う。そこに見えたのは黒塗りのジェットスキーとクルーザー。そしてタンカーであった。タンカーとクルーザーには"シャチ"の旗が翻っていた。


「船長!オルカです!オルカが来ます!」


「ちぃっ………!緊急周波で呼びかけろ!近くの船、飛行機、ヘリなんでもいい!誰かに知らせろ!手空きには武器を持たせろ!」


 船長は副官に武器庫の鍵を投げ渡すと自身は周囲に知らせる為に無線に呼びかける。


「メーデー、メーデー。こちらプロダクトタンカー"パシフィック・クラウン"。現在海賊による襲撃を受けている!至急助けを求む!誰か!いないのか!」


『……こちら駆逐艦"イージス・センチネル"そちらの信号をキャッチした。そちらの船の特徴と現在地を知らせ』


「こちらパシフィック・クラウン。特徴は白い艦橋、ブルーの船体。現在地は………」


 現在地を知らせる船長であったが帰ってきたら返答は希望していたものではなかった。


『了解。これより向かう。到着時刻はおよそ30分後。先行して哨戒ヘリを向かわせる。それまで何とか持ち堪えてくれ。危険だと判断すればすぐさま逃げるように』


「ぐっ………パシフィック・クラウン了解」


 無線が切れた船長は、船員に告げた。


「軍が来るまで30分。何とか持ち堪えるぞ……!」


 その目は覚悟の目であった。

 一方で連絡を受けた駆逐艦も慌しかった。先ほどの通信員から報告を受けた艦長は別の艦へと指示を出す。


「こちらイージス・センチネルより空母"ストーム・ブレイカー"へ。近くで救難信号を発信している船あり。哨戒ヘリと偵察機の発艦求む」


『ストーム・ブレイカー了解。シグナル確認これより発艦開始する』


 空母ストーム・ブレイカー甲板は忙しくなる。レインボーギャングと呼ばれる作業員が偵察機を誘導すると、カタパルトに車輪を嵌め込む。スターターはパイロットが親指を立てたのを確認すると、右手を横に突き出した。それを合図に偵察機はカタパルトによって射出された。それを確認した後、甲板後方からは哨戒ヘリが2機発艦。信号を受けた座標へ向かうのであった。



「ボス。先鋒がタンカーに到達しました。どうやら船員の奴ら戦うつもりです」


「くだらんな……全員殺せ。証人は残すな。燃料をいただいたらタンカーは爆破しろ」


「わかりました」


 その時、オルカの上を素早い何かが通り過ぎた。見れば軍の偵察機であった。


「厄介ですね。どうしますか」


「この間奪ったミサイル。アレを使って撃ち落とせ」


「了解」


 部下の1人は黒塗りのタンカーの甲板に出ると、携帯式の対空ミサイルを構えた。覗き込んだディスプレイが偵察機を捉え、ロックオンの文字が出る。アラートの後、引き金を引くとミサイルは発射された。

 偵察機はフレアとチャフをばら撒くも虚しくミサイルは直撃。偵察機は爆散し墜落した。


「おそらく哨戒ヘリも来る。全て撃ち落とせ。墜落現場に人をやれ。生き残りを出すな。しっかり殺せ。行け!」


 キラーホエールの一言で複数のジェットスキーが墜落したであろう現場へ向かう。オルカはパシフィック・クラウンにタンカーを横付けするとホースを伸ばしてゆく。それを見たキラーホエールもパシフィック・クラウンに乗り移ると先鋒の部下の報告を受ける。


「ボス!船員は全員死にました。しかしコイツら軍に救援要請送ってましたよ」


「わかっている。対策はある」


 その時、背後で爆音が響く。キラーホエールと部下が見れば次は哨戒ヘリが撃墜されていた。


「見ろ。綺麗な花火だろう?奪われた友軍の兵器で死ぬとは……哀れみを超えて笑えるな」


「流石ですね……船員の私物なんかも漁っても?」


「好きにしろ。燃料を貰ったらこの船は吹き飛ばす。その時に戻ってこなくても知らんぞ」


「それはもちろん……ボス、死体はどうしますか?」


「始末……いや、俺に考えがある」


 顎に手を当てながらキラーホエールは不敵な笑みを浮かべるのであった。



 駆逐艦イージス・センチネルでは哨戒ヘリとの通信が途絶したことを受け、急遽現場へと急行していた。


「哨戒ヘリとの通信は?」


「ダメです!応答ありません!」


「呼び続けろ!」


 センチネルの艦長は海図盤に拳を振り下ろすと怒りをあらわにする。


「オルカめ……!この忌々しい海賊どもが!」


「艦長!間も無く現場となります。それから……言いづらいのですが……」


「どうした……」


「偵察機とも連絡が取れません……おそらく……」


「クソぉぉぉぉぉぉ!」


 またも海図盤に拳を振り下ろした艦長。海図盤にはヒビが入っていた。


「艦長。パシフィック・クラウンが見えました」


「スクリーンに出せ」


 CICにある大型スクリーンには煙の上がるパシフィック・クラウンが映っていた。


「臨検隊を編成しろ。生存者を探せ」


「はっ!」


 駆逐艦の右舷から武装した兵士が16人、2隻のゴムボートに分乗する。ゴムボートを下ろす際、作業員が何かに気づいた。見れば海面には哨戒ヘリの機体番号が書かれた尾翼が浮いていた。回収作業を艦に任せてアルファチームとブラボーチームはパシフィック・クラウンへと近づいた。その時1人の兵士が言う。


「なぁ、船から何かぶら下がってないか?」


「ん?なんだ……アレはっ……!」


 兵士の目に映ったのは悍ましい光景であった。なんと船の船舷には船員と思しき死体がぶら下がっていた、出血の量から見て既に息絶えていると思われる。


「悪魔どもめ……!こちら臨検隊、船員を発見。しかし手遅れのようです。遺体収容の為、駆逐艦を近づけてください。我々は船内の捜索に向かいます」


「センチネル了解」


「よし。行くぞ」


 隊長ともう1人は、ワイヤーを発射する。発射されたワイヤーはタンカーの手摺りに巻きつき強力に固縛された。ワイヤーを引き、強度を確かめると全員に登るよう合図する。


「登るぞ。全員落ちるなよ。死体から流れる血でサメがウヨウヨしている。注意しろ」


「了解」


 まずは2人が登り、甲板をチェック。その後2人ずつ登ると全員が揃った。


「アルファチームは前部甲板からブラボーチームは後部甲板から捜索する。その後船内の調査に向かう」


 チームで分かれ捜索を開始しようとした時、1人の隊員が気づいた。その隊員の目には見慣れた飛行服が映っていた。


「隊長。もしかしてアレって……」


「パイロット達か……!変更だ!捜索の前にパイロット達を救助する」


 軍医と数名の部下でパイロットの近くへ。残りは周辺警戒と駆逐艦への連絡を行っていた。


「軍医、どうだ?」


「まだ息はある。急いで艦に収容すべきだ」


「わかった。味方のヘリは既に近くにいる。収容してもらい艦へ運ばせよう」


 数分後、パイロット達の上空ではヘリがホバリングしていた。担架と共に降りてきた救難員がパイロットを動かそうとするとパイロットが話した。


「………ろ」


「喋るな!きっと助かる!」


「……げろ………だ」


「なんだ!どうしたんだ!」


 隊長がパイロットの口に耳を近づけるとパイロットはハッキリと告げた。


「ワナだ……逃げろ……」


「!?」


 パイロットを動かすと何かのピンが抜ける音、そして壁にぶつかりながら何かが落ちていく音がした。パイロットの背中を見ればおそらく手榴弾のものであろうピンとワイヤーによるトラップの形跡が残っていた。手榴弾が落ちた先は……燃料貯蔵庫であった。


「……!?全員退避………!」


 そう言い切る前にタンカーは爆音を響かせ真っ二つに爆発した。その衝撃は駆逐艦を大きく傾け、艦橋のガラスが吹き飛ばすと共にホバリングしていたヘリコプターのバランスを崩し墜落させるほどであった。船員を含む死者48名、重軽傷者78名。軍に対する史上最悪の海上テロであった。

 そんな現場の上空を飛ぶ一機の水上飛行機。オルカの水上飛行機であった。座席から見たキラーホエールは満足そうに告げる。


「ふむ……少しばかり威力が足りんかったか?まぁいい……いい景気付けになったな。今夜は祝杯だ」


 その物言いはまさに冷酷で残虐。現代最強の海賊の棟梁であった……キラーホエールを乗せた飛行機は爆炎を尻目に飛び去っていった……



 リゾート襲撃予告の日まで後……1日………

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