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第三章 第7話

オルカによる襲撃予告日の2日前。夏輝達は標的となるリゾート地に到着していた。照りつける太陽、白い砂浜に、エメラルドグリーンの海。ビーチの目の前に聳え立つ高級ホテル。公式サイトには高さ30メートルの10階建て、部屋数は約500室とあった。


「おぉ〜……すっげぇな………」


「世界有数のリゾート地ですもの。私も何度か訪れたことはありますが、いつ来ても美しいですわね」


「何度もって……沙羅先輩は?来たことあります?」


「私は……初めてだね……暑い……」


 夏輝は扇子を取り出すと、沙羅を扇ぐ。


「美味しい話には裏がある。まさにその通りですね」

 

「タダでリゾートだと思ったら依頼だった……虚しい」

 

「なんか……いつも通りですね……」


 支配人と話していた芽衣が戻ってくる。3人と合流すると今回の作戦についての指示を飛ばす。


「今回の配置だが……夏輝。お前はスナイパー。私と累、沙羅で近接及びターゲットの無力化を行う」


「マジ?なんで俺がスナイパーなんだよ。室内近接格闘なら俺の十八番だぞ」


「この中で1番適性が高いのがお前だからだ。お前は身のこなしが軽いから射撃後すぐにポイントを変えられるだろう。それに今回は乱戦が予想される。全てを見渡せる場所からの援護射撃は欲しい」


「了解……ポジションの下見してくる……」


 夏輝はガンケースを肩にかけるとトボトボと関係者専用階段へと消えた。それを見た累が芽衣に聞く。


「芽衣さんらしくありませんわね。夏輝君を後方支援に回すなんて」


「ボス……もしかして夏輝君を巻き込みたくないの……?」


「あぁ………言いづらいがその通りだ。夏輝はまだ若い。これからまだまだ可能性に溢れている。シルヴァのように。今回の相手は手加減なんぞしてくれない。文字通りに殺しにくるだろう。私は身内が死線にいるのに冷静に指示を出せる自信がない」


「ではそれを本人に伝えるべきですわ。今のままでは夏輝君は誤解してしまいますわよ」


「ボスは……意思疎通ヘタクソだからね……ちゃんと話さないと……」


「そうだな……少し抜ける。準備を頼む」


「お任せください」


「OK……任せて……」


 手を振る累と沙羅に見送られる芽衣は夏輝が消えた関係者専用階段を駆け上った。


「はぁ……はぁ……階段で屋上まで登るもんじゃねぇな……失敗した……!大人しくエレベーター使えばよかった……!」


 夏輝は、膝に手をつきガンケースを放り出すと屋上の縁へ向かう。屋上からはビーチが一望することができた。心地の良い海風に波のさざめき。時折、家族連れだろうか笑い声も聞こえてくる。まるで2日後には戦地になることなどウソのようだった。


「天気予報では当日の天候は晴れ。風は少し強めかぁ……弾道管理が大変だな。フレンドリーファイアは避けたいし……たぶんホテルの中を空っぽにして引き込んで戦うことになるだろうから……沙羅先輩が外で暴れるのを援護しつつ突入してくる敵の口減しってとこだな」


 監視員の見張り台、貯水タンクの裏、巨木の上など使えそうな場所を地図にマークしていく。


「それにしてもマジで暑い……最大の敵は日光かもなぁ………海面とスコープの反射をなんとかしたいし……キルフラッシュ使うか……」


 スコープに細工を施している時、階段を上がってくる足音がした。見ればそこには少し息を乱した芽衣が立っていた。芽衣を見た夏輝はまたもビーチに目を戻す。


「どしたの?ボス」


「お前に少し話したいことがあってな」


「話したいこと?」


「あぁ。今回の配置についてだ……」


 夏輝は芽衣に向き合い正面から見つめると告げる。


「心配しなくてもちゃんと仕事はする」


「わかっている……ただ今回の配置については私の私情が含まれていることを伝えにきた。無論上司としては失格だ。だがそれ以前に私はお前を失いたくない」


「………」


「もしお前が死ぬようなことがあれば、私は妹であるお前の母親にも姉妹にも……雅君にも顔向けできん……お前は常々言っていたな"護衛対象と自分が生き残ればベスト、対象が生き残り自分が死ぬのはベター、対象が死に自分が生き残るのはバッドエンド"だと……それと同じだ。私の中でのベストは対象もお前達従業員も全員が生き残ることだ。決してお前の実力を信頼していない訳ではない。そこだけは理解してくれ」


「はぁ……そんなこったろうとは思ってたよ……意味もなく後方支援に回すなんてありえないだろうし、そもそも俺を出勤停止にすれば全部解決。だけど連れてきたってことは……まぁそういうことだろ。ボスは口下手すぎるんだよ」


「耳が痛いな……」


「安心しなよ。簡単には死なないから。それともなんだ?一番弟子が信頼できないか?」


「いや………期待してるぞ。我が弟子よ」


 芽衣が去ろうとすると夏輝がいつになく真剣なトーンで芽衣に言った。


「ボス…….なんだか嫌な予感がする。こう……漠然とした考えだが……纏ったらまた報告する」


「わかった。お前の勘はよく当たる。何か気づいたら報告しろ」


 芽衣は関係者専用階段を降りていくのだった。その背中を見送ると夏輝のスマートフォンが震えた。メッセージの差出人は雅。一枚の写真が添付されており確認すると、どうやら向こうも無事に着いたようだ。


「W.Iリゾートね……」


 W.Iリゾート。世界初の海上リゾート地である。その特徴はなんといっても四方が海に囲まれている点。リゾートへは送迎船で向かい、リゾート全体が円状の形をしており、壁に囲まれている。プールは海水を引いて作られており、一番大きなプールは視力検査で使うランドルト環の上向きの様な形である。外部の海と直結しており高い透明度と深さを誇る。緊急時には船舶が直接侵入できるようにゲートが備え付けられると共にリゾートへの外部には複数の桟橋が設けられている。


「なんでもあるな……飛び込み台もあるのかよ」


 ランドルト環の切れ目が陸となっており正面には大きなタワーのような施設がある。全部で4階建て程度であり、2階からは飛び込みを行うことができる。3階からはジップラインが対岸まで伸びており、海を目下に眺めながら滑ることができる。最上階は見張り台であり不審船舶や自然動物の警戒監視を担っている。そこから時計回りに見ると次は巨大なゲートがある。近くにはコントロールセンターがあり、船舶侵入の際には利用客への呼びかけや船舶の誘導を行う。180度反対側。タワーの向かいにはホテルがあり、レストラン、ショップなども入っている。もちろん全部屋オーシャンビューである。

ホテルの右側にはテラスが、サンベッドと日除傘がありリラックスすることができる。最後にウォータースライダー。タワーの左側にあり巨大なウォータータンクが目印。かなりスピードが出るそうでこのリゾートの目玉の一つだ。

 各プールサイドの端々にはスロープがあり、緊急時にはゴムボートによる救助体制も万全である。


「それにしても金属剥き出しか……熱そうだな……ただ普通に行きたいな……ゲートは両開きか……各階層は階段だが……場所によってはハシゴか……まぁハシゴは整備用通路だな」


 夏輝は雅に"楽しんで。何かあったら連絡しろ"とだけメッセージを飛ばすと狙撃ポイントの確認作業に戻る。だが夏輝の胸の片隅にはいいようのない不安感が渦巻いていた……

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