第三章 第6話
芽衣と夏輝が話し込んでいるのと同じ頃、某所にある船舶解体場。通称"船の墓場"にて複数の人影が集まっていた。男達が囲むのは大量の木箱。箱には"Top secret"と書かれていた。その中でも一際目立つ男がいた。左目には眼帯、スキンヘッドで顔には大きな傷跡。黒を基調とした軍服のようなものを身につけ勲章がぶら下がっている。この男こそが現代最強の海賊"オルカ"を率いる"キラーホエール"であった。キラーホエールは、箱の中にある数々の兵器を確認すると部下に告げた。
「おい、戦利品の試験を始めろ」
「はい」
命令された男は組み立てられた固定バルカン砲に付くと、押し金トリガーを押し込む。バルカン砲はバレルを高速回転させると目にも止まらぬ速さと轟音で弾丸を発射した。10秒ほどの射撃で標的にしていた船の分厚い外板を貫き、その後ろにあった解体前の小型船舶を蜂の巣にしていた。キラーホエールはタバコに火をつけると次の兵器を試させる。次の兵器は対戦車ロケットであった。部下はロケットを構えると照準を合わせ発射。着弾した小型のクルーザーは爆音と共に跡形もなく吹き飛んだ。
「素晴らしいな……工廠は?どれくらいの進捗だ」
「船の武装はほぼ完了。後は内部工作の為に派遣したスパイからの連絡待ちです」
「そいつは重畳」
「ボス!」
「なんだ」
その時、キラーホエールに呼びかける男が1人。オルカにおけるシステム担当の男だった。
「当日のリゾートにおける顧客リストです。調べたところ一般人もいますが、それなりに富裕層も多いですよ。今回はかなり引っ張れそうです」
「そうか……先に潜入させた者から連絡は?」
「つい5分ほど前に。"問題なし。計画通りに"とのことです」
「ふむ。"ネズミ"は?何か吐いたか?」
「いいえ。色々と試しましたがひたすらに否定を繰り返すだけです。身辺調査の結果でバレているとも知らずに……哀れなヤツです。おい!連れてこい!」
男が叫ぶと2人がかりで引きずられてきた者がいた。体の至る所には夥しい数の傷があり、過酷な尋問が行われたことを匂わせていた。キラーホエールは男の頭を掴み言う。
「何か言いたいことはあるか?」
「俺は……!裏切り者じゃない……!」
「そうかそうか。お前がそう言うのならそうなんだろうな。だが一度失った信頼は取り戻せないんだ。わかるだろ?」
キラーホエールは男に笑顔で答えた後、銃を引き抜き男の眉間を撃ち抜いた。その表情は"無"であった。
「始末して鮫の餌にしろ。俺は船を見に工廠に行く」
「はい」
キラーホエールは、そう指示すると工廠に向かった。
立ち込めるオイルの匂い。溶接により飛び散る火花。工廠として使用している巨大な廃タンカーの中では、今まさに船の整備が行われていた。
「技術士!首尾はどうなっている」
「ボス!ちょうどいいところに。今、先鋒用の船がある程度完成したところです。いかがです?」
陸上げされたクルーザーには数々の武装が施されていた。船体は黒。これは"オルカ"の所属であることを知らしめる為であった。目を引くのは前方の甲板に取り付けられた最新のバルカン砲。操縦席にはソウドオフタイプのショットガン。高出力エンジンに味方に居場所を知らせる為の爆音のホーン。屋根にはためくのはシャチを描いた海賊旗。元がクルーザーである為、人員輸送も可能。まさに奇襲攻撃用の船であった。
「バルカン砲が思ったより重かったのでエンジンの出力を更に上昇させました。まぁ……ある程度危険ですが大丈夫でしょう」
「構わん。下っ端などいくらでも補充が効く。船の方が大事だ。ジェットスキーの方は」
「同じく出力は上昇させました。舵の効きも効率化させてあります。ただスピード重視ですので武装はありません」
「問題ない。攪乱や逃亡者の始末の為だ。それでいい。飛行機と俺の船は」
「飛行機には手を加えていません。正直アレが限界です。貴方様の船はこちらに」
技術士が示したのは大型クルーザー。黒に塗り固められておりところどころに金細工とシャチ特有の白い模様が描かれていた。トップにある操縦席の後ろには玉座と思しき物もあった。前方の甲板には重機関銃が備え付けられており、棟梁の船とはいえ戦闘力はそれなりにあるようであった。
「新しい戦術の習熟度は?」
「ちょうど今、海上で訓練中です。ご覧になりますか?」
「行くぞ。技術士!後は任せるぞ」
「仰せのままに」
恭しく頭を下げる技術士を尻目にキラーホエールは副官と共にタンカーのマストトップに上がる。海上ではジェットスキーや飛行機に繋がれたロープを持ち曳航される水上スキーヤーが見える。彼らが疾走する先には船に備え付けられたジャンプ台。ジャンプ台目前でスキーヤーはそれぞれロープを手放すとそのまま飛んだ。着水は成功と失敗が半々程度であった。
「いかがでしょうか」
「奇襲を行うにはあの程度で十分だ。失敗して死ぬ奴がいるとすればソイツの実力不足だ。換えはきく」
キラーホエールは海上にいる部下を尻目に副官に告げた。
「明朝、我々は国を狩るシャチとなる。出立の儀をやる。全員を燃料船に集めろ」
「かしこまりました」
副官がその場を去ると、キラーホエールは桟橋に横付けされているタンカーに乗り込む。燃料貯蔵室に行くと燃料の管理をしている部下に聞く。
「おい。後どれくらい動ける」
「へい。全力行動なら後一回。散発的な奇襲であれば5回ほどかと」
「略奪の前に燃料補給が必要か」
「そうなりやす。ちょうど2日後にこの近海をタンカーが航行しやす。狙い目はそこかと。我々の航路上にいるのが悪いので」
「フッ……それもそうだな。ウォーミングアップにはちょうどいいだろう。新しい武器も試したいところだ」
キラーホエールは燃料室を後にすると艦橋へと到達する。タンカーの上甲板には多くの部下がいた。副官から渡されたメガホンを構えると叫ぶ。
「兄弟達よ!魂を無くした民達よ!この時がきたのだ!復讐を果たす時が!ある者は家族を!ある者は土地を!ある者は故郷を奪われた!だが、今宵!我らは呑気な鯨に噛み付くのだ!我々こそが簒奪者である!支配者であると!」
キラーホエールの言葉に甲板上の部下達は聞き入っていた。
「明朝、この墓場を出立し我々は嵐となる!邪魔する者は全て壊し!殺し!奪い尽くせ!我らの怒りを見せつけ、真の海洋の支配者は誰かを知らしめるのだ!」
その言葉に空気が震えるほどの歓声が響き渡る。
「さぁ!準備をしろ!最初の目標はリゾート地だ!地上で肥え太った豚どもが我々の様なシャチに敵うはずもない!鯨への見せしめとして全て奪い尽くすのだ!」
その言葉で各々散っていく部下達。更にキラーホエールは続ける。
「エンジンに火を入れろ!」
至る所で武装クルーザーやジェットスキー、水上飛行機のエンジン音が響く。
「武器を持て!」
部下達の手にはアサルトライフルやショットガン、ナイフ、ナタなどが持たれていた。
「嵐の王!海洋の覇者!ワイルドハントの始まりだ!」
その言葉と共にオルカは闇に紛れて出航した。キラーホエールは玉座に座ると呟いた。
「待っていろ。世界中の醜く肥えた豚どもよ。真の支配者は誰かその目に焼き付けるがいい……!」




