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第三章 第4話

入浴の為に服を脱いだ栞と雅は、シルヴァの体を見て絶句した。それもそのはずで、元々シルヴァは世界的な人身売買組織から救い出された孤児である。芽衣達が救い出すまで、商人達から苛烈な"躾"をされていた。特にシルヴァは他の子を庇っていた為、更に酷かった。その傷跡が体の至る所に残っているのだ。

 雅と栞は言いたいことが多々あったが夏輝の言葉通り、普通に振る舞った。浴槽に使ったタイミングでシルヴァが告白した。


「私の体……気になりますよね……傷だらけでお姉さん達みたいに綺麗ではありませんから……」


 俯きながらそう話すシルヴァ。栞と雅は何も答えずに彼女の話を聞く。


「お母さんにも言われました。"この傷を消すこともできる"って……でもお兄さんに言われたんです。"その傷跡はシルヴァが友達を守った証だ。誇りこそすれ恥らう必要はない。胸を張れ"って。だから私は……この傷跡も愛そうと思います」


 どこか優しい顔つきで胸を張るシルヴァを栞と雅は思わず抱きしめる。


「貴女は強い子ね。貴女がそう言うのなら私達もその傷跡も一緒に貴女を愛するわ」


「誰がなんと言おうとも私達はシルヴァちゃんの過去を否定しないからね。いつでも話したい時に話してね」


「はい……!私も聞きたいことがたくさんあります……!」


「何かしら?なんでも答えてあげるわよ」


「本当ですか!だったらずっと気になっていたんですけど、どうしてお兄さんの体にも傷跡が多いんですか?」


「ちょっと待って?その話、お姉さんに詳しく聞かせてくれる?」


「私も聞きたいかな」


「えっとですね…………」


 シルヴァの暴露による3人のバスタイムは長く続くのであった………


 およそ30分後、リビングのソファには倒れ込む栞と雅、シルヴァの姿があった。扇風機と団扇の風を送りながら呆れたように夏輝が言う。


「あまりにも遅いから姉貴と華恋に入浴ついでに見に行かせてみれば………のぼせ上がってるって………どんだけ浸かってたんだよ………」


「えへへ……お姉ちゃん……ちょっと張り切りすぎちゃった……」


「長風呂しすぎましたね……」


「暑いですぅ……」


「あぁもう……とりあえず水飲んで体冷やせ」


 夏輝は3人に氷水と氷嚢を渡すと、濡れタオルを新たに取り替える為に洗面所に消える。3人は顔を見合わせるとまるでイタズラが成功したかのように笑うのだった。


 玲、華恋、夏輝が入浴を終えるといよいよ食事となる。テーブルの上には夏輝お手製の夏野菜カレーが並んでいた。


「これ……兄様が私の時に作ったものでは?」


「そうだぞ」


「夏輝……アンタまた腕あげた?華恋に作った時より美味しくなってるじゃん」


「当たり前だろうが……まぁ今回、肝心なのはシルヴァだけどな……」


 夏輝の目線の先には、ピーマンを前に力むシルヴァがいた。少しした後、意を決したようにピーマンを口にする。咀嚼した後、ポツリと呟いた。


「美味しいです……」


「そうだろう。夏の時期のピーマンは肉厚で甘味があるのが特徴なんだ。それに結局は調理法次第だ。なんでもかんでも嫌だと言うのは簡単だが挑戦してみなければ良さもわからんからな。口にあったようで何よりだ。サラダも上手くできてるし大成功だな」


「そうね。ピーマンもちゃんと食べられたわね〜。えらいえらい」


「えへへ……」


 しばらく経った頃、シルヴァは空になった皿を見る。彼女としては少し足りないところであったが、お世話になっている身としてはそんなこと言えるわけもなかった。だがそんなシルヴァを見つめる人物が1人。夏輝であった。そんな夏輝の目線に気づいた玲が言う。


「ねぇ夏輝。アンタこれどれくらいの量あんの?」


「3日分くらい」


「あっそ。じゃ追加もらうから」


「どうぞ。どうせ俺も食うし」


 玲は自分の皿を持つとシルヴァに言う。


「シルヴァちゃんは?どうする?」


「え……?えっと………その……」


 キョロキョロと周りを見るシルヴァ。それに気づいた栞や華恋が口々に言う。


「玲ちゃん、私も〜」


「玲姉様!私の分も欲しいです!」


「ハイハイ順番ね」


「姉貴。俺のも」


「自分でやれ。シルヴァちゃんは?」


「私も……欲しいです……」


 おずおずと皿を差し出すシルヴァに対し玲は答える。


「お姉さんに任せなさい」


「シルヴァ。自分のやりたい事は言ったほうがいいぞ。我慢してもなんの得にもならないからな」


 夏輝は自分の皿をシンクに入れると冷蔵庫にあるフルーツを出していく。


「食べないの?」


「姉貴達がお待ちかねのスイーツ作んの」


「そ。よろしく」


 玲の声を背後に聞きながら夏輝は戸棚から5つ、大きめサイズのグラスを取り出すと共に冷蔵庫からフルーツを取り出す。苺、巨峰、オレンジ、キウイ、リンゴ、バナナ、カットパインとカットマンゴー。更にはブルーベリーやラズベリーまでもがあった。


「婆ちゃん……おまけしすぎだろ……なぁ!大盛り欲しいの何人だ?」


 夏輝が聞けば、ダイニングには"5人"分の手が挙がっていた。


「今日はシルヴァもいるし……ちょっと豪勢にいくか……フルーツ嫌いなやついないだろ」


 夏輝はペティナイフを取り出すと各フルーツをカットしていく。まず苺と巨峰を洗い、ヘタを取ると4分の1カットに。苺は一部サイコロ状にカットしていく。りんごは皮を剥き、同じくサイコロに。塩水に漬け変色を防ぐ。ブルーベリーとラズベリー以外のフルーツも同じようにカットするとボウルに分けておく。残りのフルーツを冷蔵庫に戻しペティとまな板を片付けた時、隣に1つの影があった。そちらを見ればシルヴァが隣に立っており、その目はキラキラとしていた。


「お兄さん……!なんだが宝石みたいですね……!」


「そうだな。これからこのグラスを宝石箱にするから見ていくといい」


 そう告げた夏輝は冷凍庫からは業務用のバニラアイスクリーム、冷蔵庫から生クリーム、戸棚からクラッカーとウエハースを取り出すと並べる。クラッカーをチャック付きのポリ袋に入れると夏輝は麺棒をシルヴァに渡す。


「その棒でこの袋を叩いてくれ。ある程度粉々になるまでな」


「わかりました……!」


 シルヴァが大きく上に振りかぶって棒を下ろせば殴打音が響く。ある程度砕いたところで夏輝はシルヴァから麺棒を回収し告げた。


「ふむ……上出来だ」


 そのタイミングで華恋がキッチンに入ってきた。どうやら洗い物を持ってきたようだった。


「お皿、置いておきますね。兄様」


「サンキュー……シルヴァ、これは皆に内緒にな」


 華恋が全員分の皿をシンクに置き、戻ったのを確認すると夏輝はカットした苺をシルヴァの口に放り込む。苺を初めて食べたであろうシルヴァは更に目を輝かせながらコクコクと頷いた。

 グラスの1番下にアイス、次いでクラッカー、その上に生クリーム、フルーツ、アイス、クラッカー、フルーツ、アイスの順に載せ、アイスにウエハースを差し、カットした苺とブルーベリー、ラズベリー、最後に生クリームを盛れば家で簡単にできるフルーツパフェの完成である。5つ手早く作り終えた夏輝は、余った材料を片付けると、グラスをトレーに載せて配膳した。


「ほらよ。お待ちかねだろ?」


「わはー!待ってましたぁ〜!」


「なんかフルーツ多いね。今日のは」


「八百屋のお婆さんからおまけでたくさんフルーツを貰ったんです」


「なんだか食べるのがもったいなく感じますね」


「本当に宝石箱になりました……!」


「夏輝。アンタこっち方面進んだら?」


「こういうのは趣味でやるからいいんだよ。仕事でやると義務感に追われちまう。写真撮るのはいいけど、溶けて崩れる前にさっさと食べたほうがいいぞ」


 夏輝はスプーンをそれぞれに渡すと洗い物に戻る。キッチンから見えるダイニングには女性陣の黄色い声がしばらく響いていた。

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