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第5話

 次の仕事かぁ……依頼主はどこだろうか。沙羅先輩からもらったクッキーをつまみながら考える。

 正直、ウチの依頼料は安くない。当たり前だ。上質な身の回りの世話に高度な警護・戦闘スキルを持つボディガード。上流階級にも通ずる完璧な接客に、必要とあればトラブル対処や諜報活動も行う。日常利用として1日雇うだけでも軽く50万近くかかるし、高リスク任務なら1日で100万をも軽く超える。月額契約なら4桁万円近い。


「次は長期契約じゃねぇといいな」


「安心しろ。今回の依頼は1日だ。前回みたいに1ヶ月身辺警護をしながら家事代行サービスってわけじゃない」


「よっしゃ!それなら楽だな」


「私としては、もっと長くてもいいのですけどね」


 アレはキツかった。土日祝日と平日の放課後は毎日依頼主の家だったからなぁ。勤務時間も22時ギリギリまで。場合によっては過ぎたりもしたから毎日寝不足だった。累さんはなんかイキイキしてたけど……ホントあの人のバイタリティどうなってんだか。俺?俺はもうそりゃアレですよ。帰ったらシャワー浴びて、飯も食わずに死んだように寝てたよ。流石にあの時は周りのみんなも玲すらも優しかったな……


「ところで夏輝。お前、来週の週末は空いてるか?」


「来週の週末?あー……そうだな。学校の交流会があるくらいだし、それ自体に行くつもりもないから暇だぞ」


「あら、行かないんですの?」


「はい。俺あんまり歓迎されてないっぽいんで」


「なんでだろうね……夏輝君、とってもいい人なのに……」


「俺の能力不足ぅ……ですかねぇ……」


「私と沙羅ちゃんが卒業してから少しは変わったかと思いましたが変わらずですね。くだらない家柄主義がまだ残っているなんて」


「というよりも、俺に取り立てていいところがないってだけかと」


 実際、同じ家庭の姉貴なんかは上手く立ち回ってるから俺の能力不足ってとこだろう。実際、姉貴は俺より数倍優秀だし。


「そうか。ならお前には交流会に出てもらう」


「は?どういうこと?話聞いてたか?」


「もちろん。今回の依頼主は、私達の母校。つまり、お前の通っている学校だ」


「マジ?」


「マジマジ。大マジだ。依頼内容は交流会開催中の警備と給仕。それから生徒の不良行為の防止」


 なんとなく合点がいった。たとえどれだけ進学校でいいトコの学校だとしても、不良行為を行う生徒はいる。特に昔から親に甘やかされ、金と権力をさも自分の力かのように錯覚する不良のなり損ないみたいなボンボンが。そういう輩が大人数が集まるとこういったシチュエーションでは良くない事をする。そういったことを防止する観点でも依頼が来たのだろう。


「で?いくらで請け負ったんだ?」


「夏輝君?そういうのは聞くものではないですわ」


 やんわりと累が注意するが構わず芽衣が言う。


「75万」


「破格だな。安すぎるんじゃねぇか?」


「学園長の頼みだからな。母校割引さ。場合によっては毎年の長期契約も見込めるからね」


「先行投資ってヤツか?」


「少し違うが……まぁそんなものだ」


 そういうと芽衣は、デスクに見取り図を広げる。


「会場は食堂だ。広さはそれなりになる。私達は厨房からドリンクを給仕しつつ異常がないか見回る。もし不審点があれば速やかに連絡すること」


「中だけ?周辺の警備はどうなる?」


「そこは学園のスクールポリス(校内警官)が行う。まぁ、あちらさんもプロだから無関係な不審者を素通りさせる訳はないだろうさ」


「そうじゃなきゃ困る」


「私達の装備は?」


「会場内を動き回ることから最低限度の装備とする。ただ、ボディガードも兼ねる為、武器の携帯は許可する。見えない位置に隠す様に」


「腰のホルスターダメなのかよ」


「ダメに決まっている。目立つだろう」


「服装を変えればワンチャン……」


「ダメだ。返ってお前が不審者の仲間入りだぞ」


「それはそうだけどよー。このままじゃ俺丸腰だぜ?」


「ジャケットくらい着たらどうだ」


「アレ、動きづらくて……あんまり好きじゃないんだよなぁ」


「ならお前だけ銃火器はナシだ」


「正気か?ううむ……それなら伸縮警棒にするか。これならバレにくいだろ」


「それが無難だろうな」


 まぁ、銃なんて使わない方がいい。変にリスク背負いたくないし、周りに身バレするのも勘弁だ。この前、栞姉に『なんだか火薬みたいな匂いがする』って言われた時は終わったと思ったな。とりあえず今回の任務は大人しく目立たないようにしていよう。それにしても捜査対象の企業名どっかで聞いたことあるような……どこだっけか……う〜んと……

 1人で考え込んでいると沙羅先輩から聞かれる。


「どうしたの……夏輝君……考え事?」


「え?あぁ特には……大したことではないですよ」


 そう答えるがジッとこちらを見つめる沙羅先輩。実は沙羅先輩は昔からこうで、何か隠し事をしようとすると一発で看破してくるのだ。おかげでこの人にトランプで勝てたことがない。何度、俺のお菓子を巻き上げられたことか……


「夏輝、何かあるなら言え」


「いや何でもない。と言うより喉の辺りまで出かかってるけど出てこねぇそんな感じだ」


「そうか……思い出したなら速やかに報告しろ。それから、今回は全体を見つつある人物に特に注視してもらいたい」


 そう告げると芽衣はテーブルに1枚の写真を取り出した。その写真は、俺が予想していない人物であった。

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