第三章 第2話
夏輝と雅、そしてシルヴァは商店街を歩いていた。雅の連絡のおかげか店先にいるのはほとんどが女性だった。
「シルヴァちゃんはどんな食べ物が好き?」
「私は……まだわかりません。どれも初めてだらけで決められないんです。でもピーマンは嫌いです」
「ふふっ……そっか。夏輝君、ピーマン嫌いを克服できる料理ある?」
雅は、シルヴァと少し離れて隣を歩く夏輝に聞く。夏輝はしばし考えた後、答える。
「あるぞ。華恋のピーマン嫌いを克服させたのが。それにシルヴァとの約束も同時に果たせそうだ」
「約束?」
「あぁ。メニューは頭の中で完成したから後は買い出しだけだな。まずは……肉屋だ」
夏輝達が肉屋に到着すると店先には女将がいた。
「やぁ!いらっしゃい!雅ちゃん、夏輝。久しぶりだね」
「久しぶりってほどでもないだろ。遂この間も来たんだから」
「はぁ〜……!この生意気坊主め。ウチの主人といい勝負だね。雅ちゃんも手を焼いてるでしょう」
「えぇ……まぁ、そこそこですね」
「全く……それでその子が件の子かい?」
肉屋の女将は、雅の後ろに隠れるシルヴァを見る。シルヴァは更に雅の後ろに隠れる。
「そんなに怖がらなくてもいいよ。取って食いはしないから」
「いや、その子若干の対人恐怖症あるんだよ。無理に詰めないでやってくれ。後、おっさんは呼ばないで。あの人、いい人だけど声と体デカいからシルヴァがパニックになるかも」
「あら。そういうことなのね。わかったよ。とりあえずは様子見ね。それで?今日は何を買いにきたんだい」
「合い挽き600gくれ」
「はいよ。それにしても3人並んでるとまるで親子みたいだねぇ」
「親子?若すぎんだろ。せめて兄妹がいいとこだ」
「そうかい?最近は学生結婚てのもあるんだろう?」
「あはは……それは大学生とかじゃないですかね……流石に高校生は無理ありますよ……それにシルヴァちゃんにはもうお母さんがいますから。私達は訳あって1週間ほど預かることになったんです」
「そうかい。シルヴァちゃん……だっけ?夏輝に余計なこと教えられないようにちゃんと雅ちゃんといるんだよ」
「………はい」
夏輝は、女将から商品を受け取りながら噛み付く。
「揃いも揃って俺をなんだと思ってんだよ」
「この街きっての問題児だよ。ほらサービスだ持っていきな。熱いから気をつけなね」
女将は夏輝達にコロッケを3つ手渡す。受け取ったシルヴァはどうすればいいか迷っているようだった。それを見た夏輝は手本を見せるかのように齧り付く。シルヴァも見様見真似でコロッケを齧ると目を輝かせた。
「美味しいです……!」
「そりゃそうよ。ウチのコロッケは商店街一だからね。夏輝、次はどこに行くんだい?」
「八百屋だな」
「連絡しといてやるよ。暗くならない内にさっさと行きな」
「そうする。サンキュー」
「あの……ありがとうございます。次はお母さんと来ます」
「待ってるよ」
女将と別れ、夏輝達は八百屋を目指す。シルヴァは振り向きながら何度も女将に手を振っていた。
八百屋に着いた夏輝達を出迎えたのは年若い女性であった。
「やっほー。雅ちゃん、夏輝君。元気?」
「おぉ。それなりに。そっちこそ婆ちゃん元気か?」
「元気元気。今、中にいるけど呼んでこようか」
「マジ?サンキュー」
八百屋の娘は、店の中に消えた。その時夏輝は1つの妙案を思い付く。メモとペンを取り出すと何かを書き込んでいく。雅が不思議に思っていると、書き終えた夏輝はシルヴァに目線を合わせるとメモを見せて告げる。そのメモには全てふりがなが書いてあった。
「よし。シルヴァ、野菜の注文をしてみようか。このメモに書いてあることを婆ちゃんに伝えるんだ」
「え?」
「心配しなくていい。書いてあることを読むだけだ。隣に雅もいるし、俺も近くにいるから大丈夫だ」
夏輝がシルヴァにそう告げると同時に、店の奥から1人の老婆が現れた。彼女は夏輝と雅を見ると口を開く。
「よぉ来たねぇ。夏坊、みやちゃん。知らぬ間に大きくなって。今日はどうしたんだい?」
「久しぶりだな。婆ちゃん。ちょっと買い物にな」
「そうかい。してその子が?」
老婆はシルヴァを見る。シルヴァは一瞬たじろぐが、雅の手を強く握ると挨拶した。
「えと……こんにちは……私はシルヴァといいます……!今日は……欲しいものがあって来ました……!」
「ほぉ〜。ちゃあんと挨拶できるのかい。偉いねぇ〜。何が欲しいのかな?私に教えておくれ」
シルヴァはメモを見ると老婆に教える。
「えっと……にんじん5本となすを5本。それから……雅お姉さん、これなんて読むんですか?」
「ん?これはね4分の1って読むの」
「わかりました。かぼちゃを4分の1、玉ねぎを3個と………」
そこで言い淀むシルヴァ。雅がメモを覗き込むとそこには"ピーマン7個"の文字が。苦笑いする雅と口を閉ざすシルヴァ。それを見た老婆は言う。
「あぁ。夏坊、華恋に作ったアレを作るつもりだね。ということはシルヴァちゃんはピーマンが嫌いなのかい?」
「………はい………」
「そうかそうか。そうだよねぇ。ピーマンは苦いものねぇ。でも夏坊に任せればちゃんと美味しくしてくれるさね。さて、何個欲しいんだい?」
「7個……です」
「おや、これはまたたくさんだねぇ……夏坊、ちょいと多くやないかい?」
「いや、6人で食うから割と量は欲しい」
「なら南瓜も増やしな」
「割るのがめんどいから4分の1にしたんだけど……」
「もう一つ4分の1買うといいさね。さてと、可愛いお客様の商品を用意しようかねぇ。そうだ。奥から"アレ"持って来ておくれ」
「わかったよ。お婆ちゃん」
娘が店の奥に消えると同時に、老婆は先ほどまでのゆったりとした物言いがウソかのようにテキパキと野菜を袋詰めする。野菜の入った袋を夏輝に渡した後、老婆は更にバスケットを雅に渡す。見ればそこにはたくさんのフルーツが入っていた。
「あの。これは?」
「サービスさね。どうせ夏坊は食べ切ったご褒美にフルーツパフェでも作るだろうからね」
「婆ちゃん………ネタバレやめてくんね?」
「ほっほっほ……これも長年の勘さね。可愛いお客さんや、また来てね。いつでも歓迎するよ」
「私も待ってるからね」
「はい。またお母さんと来ます。ありがとうございます」
シルヴァが八百屋のお婆ちゃんと娘にそう返すと、3人は商店街を後にする。夕陽が照らす3人の影の距離は最初よりも少し近くなっていた。




