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第三章 第1話

夏休みが始まって約1週間。夏輝と雅はシルヴァが事務所で勉強する傍ら、夏休みの課題を消化していた。


「夏輝……どうしてここでやるんだ……家はどうした家は」


「いや……俺も雅も元々はそっちでやるつもりだったんだけど、姉貴も華恋も受験だからさ。あんま邪魔しない方がいいよなーって思って。後、電気代」


「事務所の電気も無料じゃないんだぞ……」


「その分稼いでるからいいだろ」


 夏輝はペンを置き、背伸びをすると雅に言う。


「そろそろ休憩にしようぜ。集中力切れてきた……」


「そうね……課題も大半終わらせたし……シルヴァちゃん。休憩しましょう」


「あ……はい」


 シルヴァの返答を聞いた夏輝は、共用の冷凍庫からアイスキャンデーを3本取り出すと雅とシルヴァにそれぞれ渡す。封を切る夏輝を他所目にシルヴァは少し戸惑っていた。アイスキャンデーを加えながら夏輝が問う。


「シルヴァ?どした?」


「咥えながら喋らない!」


「あ……えっと……お母さんが食べ過ぎはお腹痛くなるから毎日はダメって……」


「別に1日くらい大したことないさ。だろ?ボス」


「はぁ………まぁこれも経験か……シルヴァ、今日は食べてもいいぞ」


 それを聞いたシルヴァは何かを思い付くと冷凍庫へ。持ってきたのは新たなアイスキャンデーであった。


「ならお母さんも一緒がいいです」


「……!そうか……ありがたく貰うよ」


 芽衣がアイスキャンデーの封を切ったタイミングで夏輝が聞いた。


「で?次の仕事は?」


「リゾート施設の警備だ」


「リゾート施設ぅ?」


「そうだ。お前は"S&Tリゾート"を知っているか」


「私、知ってますよ。Sea&Travelリゾートですよね」


「あぁ、まだ表に出してはいない情報だがそこに襲撃予告が届いた。差出人は"オルカ"」


「"オルカ"……なぁまさかだけどさ、そのオルカってよ……」


「お前の予想通りだ。現代最強の海賊と呼ばれているあの"オルカ"だ。中東地域においては各国の軍隊派遣によるシーレーン防衛でめっきり聞かなくなったが、それ以外の地域では未だに名を轟かせている。既に今年で3隻の商船が被害に遭っている。予告は1週間後。我々はその2日前に現地入りし準備する」


「了解……そういえば雅も友人に誘われてリゾートに行くって言ってたな……まさかここか?」


「違うよ。私達が行くのは"W.Iリゾート"(ウォーターアイランドリゾート)。場所はそこそこ近いけどね」


 その言葉に一抹の不安がよぎる夏輝。しかし、自分が雅を拘束するのはお門違いと考え何も言わなかった。


「あ、俺達が任務でいない間シルヴァはどうするんだ?ウチに預けるか?それともボスの知り合いの孤児院か?」


「私も最初は孤児院に預かってもらおうと思ったんだが……向こうも手一杯でな。里親の条件が厳しいんだ」


「条件?」


「あぁ。帰化しておらず日本国籍であること。過去3年以上において犯罪をしていないこと。子供がいないこと。給付金や支援金の不正受給がないこと。中流家庭であること。それから、抜き打ちの訪問に理解があること。それくらいか」


「めっちゃ厳しいな。子供がいないことってのはアレか?実子と養子で愛情に差が出るかもしれないからか」


「それもあるが、トラウマ発動を防止する為でもある。こんな状況だ。おそらくお前の家に預けることになる。シルヴァは了承済みだ」


 夏輝がシルヴァを見ると、シルヴァはコクコクと頷いていた。


「了解。とりあえず3日ほどトライアルでウチに来させるか?」


「そうなるな……そのまま大丈夫そうなら継続だ。早速だが今日から頼んでもいいか?新たな環境には早めに慣れさせたい」


「ちょい待ち。栞姉達に聞いてみる」


 夏輝はそれぞれ栞、玲、華恋に事情を説明する。数秒後には全員から了承の返事がきた。


「いけるぞ」


「それは良かった」


「ただ、帰りにシルヴァの分の食材の買い出しとかで商店街連れて行くけど……シルヴァ大丈夫か?」


「ううむ………」


「なら私が商店街の方にシルヴァちゃんのこと伝えておきますね」


 雅はスマートフォンを操作するとある人物に連絡する。二言三言話した後、通話を終了した。


「商店街の会長さんは理解してくれたよ。連絡くれたらなるべく女性の配置を多くするって」


「雅……いつの間に女会長とのパイプを……」


「処世術の一つよ。お買い得な情報も貰えるもの」


「女性のネットワーク怖ぇ……」


 夏輝がスマートフォンを見れば、時刻はもうすぐ夕刻であった。2人が帰宅の準備を始めたのを見て、芽衣もシルヴァに泊まりの荷物を取りに行くよう指示する。数分後、事務所の玄関には夏輝と雅、それから少し大きめのリュックサックを背負ったシルヴァがいた。


「それじゃ、シルヴァ預かるな」


「すまないな。よろしく頼む。シルヴァ、私がいつも言っていることは覚えているな?」


「はい。知らない人について行かない。怪しいものには近づかない。交通ルールは守る。何かしてもらったら"ありがとう"を言う。危ない時はブザーを鳴らす。です」


「その通りだ。夏輝、道中頼むぞ」


「わかっている。雅、シルヴァから手離すなよ」


「もちろん。商店街の方には連絡済みだからいつでも行けるよ」


 夏輝は事務所の玄関を開ける。シルヴァは振り返り、芽衣に一言告げた。


「お母さん。いってきます!」


「あぁ。いってこい。ちゃんと向こうで言うこと聞くんだぞ」


「はい!」


「夏輝。余計なこと教えるんじゃないぞ」


「私が監視してますから大丈夫ですよ」


「俺への信頼度なさすぎだろ……」


「お兄さん……大変なんですね……」


 シルヴァはそう呟くと、芽衣に手を振る。芽衣もそれに振り返すと3人は事務所から帰っていった。見送った芽衣はコーヒー片手に自分のオフィスにある椅子に座るとポツリと呟く。


「仕事以外で誰かを見送るのは久しぶりだ……それに……なんだか事務所が静かに感じるね………」


 その声色はどこか哀愁を含んでいた。

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