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第二章幕間 第7話

夏輝はラッキーとライラックに指示を飛ばす。


「ラッキー、ライラ stand」


 2頭は立ち上がるがまだ動かない。それを確認した夏輝はシルヴァに言う。


「片手を前に突き出してゆっくり近づいて。犬は相手の匂いを嗅ぐのが挨拶だから、まずはラッキーとライラックにシルヴァの匂いを覚えさせるんだ」


「わかりました……」


 右手を前に出し、おずおずと近づくシルヴァ。実はこの行動にはもう一つ意味があった。そのもう一つの意味とはラッキーとライラックによる探知をシルヴァに適用するためである。

 シルヴァが突き出した手をラッキーとライラは、ゆっくりと嗅ぐ。


「少し……くすぐったいです……」


 匂いを覚えた2頭は夏輝の指示なく、また座る。どうやら上手くシルヴァの匂いを覚えたようだ。


「まずは……ラッキーからにするか。彼女はラッキー。ゴールデンレトリバーって犬種で、女の子だ。ラッキー、stand」


「わっ……!」


「立ち上がると結構大きいだろう?大きいけど性格はいたって温厚。無闇に人を襲うことはない。ただ遊ぶの大好きだからまともに遊ぶとこっちが倒れる。さぁ、撫でてみようか」


 シルヴァが右手を差し出すと、頭を擦り付けるラッキー。元々、夏輝のセラピードッグの様な役割を担っているため、シルヴァの気持ちには敏感であった。ラッキーは徐々にシルヴァに近づく。彼女の手はラッキーの頭から首、体、尻尾までを撫でた。そのまま後ろを回りこもうとするタイミングでシルヴァが若干の怯えを示した。それを感じ取ったラッキーは、後ろを回るのを止めるとシルヴァの正面に戻り座る。どうやらシルヴァがどこまで許容できるかを図っていたようであった。


「次は、ライラックだな。コイツはライラック。皆はライラって呼んでる。ジャーマンシェパードっていう犬種でコイツは男の子だ。ライラ stand」


「わぁ……」


「コイツもそれなりに大きいだろう?性格は勇敢で賢く、忠誠心が高い。それからコイツも運動量が多い。2週間に一度くらいのペースでラッキーと一緒にドッグランに連れて行くんだけど……毎回俺が倒れるまで走らされる。後、コイツは俺よりも黒髪のお姉さんの言うことをよく聞く。なんでだろうな」


「アンタが雅ちゃんに伴わせてるんじゃなかったの?」


「コイツが知らぬ間に付き添ってんだ。俺の指示じゃない」


 夏輝達が話す傍らシルヴァは先程と同じく手を突き出してライラと距離を縮めようとしていた。ライラは興味半分警戒半分であった。その為、自分からシルヴァに近づく為に動こうとする。それに気づいた夏輝がライラを止めようとしたその時、雅がシルヴァの隣に立ち短く言う。


「ライラ stay!」


 その一言でライラは大人しく座る。雅に促されシルヴァは恐る恐るライラを撫でる。それを見た雅はシルヴァに言う。


「もっと両手で撫でるといいわよ。この子、ちょっと強めに撫でられるの好きだから」


 雅は両手でライラの顔を包むとワシャワシャと撫でる。心なしかライラも嬉しそうである。雅と交代したシルヴァは、意を決したように両手でライラの顔を包むと、雅と同じように両手を動かす。その間ライラは微動だにせず、ただただ受け入れていた。そんな2頭とシルヴァを見て芽衣が言う。


「どうやら2頭とも仲良くなれたようだな」


「あぁ。ラッキーとライラックにシルヴァの匂いも覚えさせた。これでもし誘拐されても必ず見つけられる」


「まぁ、簡単にシルヴァを連れて行かせはしないがな」


「当たり前だろ。俺達は世界最高の家政戦闘組織だぞ」


「その通りだ」


 芽衣と話す夏輝の肩を叩く者がいた。振り向けば栞が立っていた。


「ここって夏輝君の職場でしょう?」


「そうだけど……」


「じゃあ……お仕事の時の服あるのよね!着て欲しいなぁ〜」


「えぇ……交流会の時見たろ?もういいじゃん」


「いいじゃないか。着るくらい。華恋は見たことないんだろう?」


 渋る夏輝に芽衣が追撃する。その声色はどこか楽しんでいるかのような声色であった。件の華恋を見るとどこか期待するような眼差しであった。夏輝はため息を吐いた後、全員に5分待つように言うと更衣室に消えた。

 5分後、夏輝は執事服を着て戻ってきた。自分の隣に立った夏輝を見て華恋は言葉を溢す。


「これが噂の……兄様の仕事着ですか」

 

「あんまジロジロ見んなよ……そういうの慣れてねぇんだ」

 

「やっぱアンタその服似合うね。癪だけど」

 

「姉貴は何が気に入らねぇんだ」

 

「はぁい、2人とも写真撮るから並んでね〜」

 

「並ぶとますます武家のご令嬢とその付き人に見えるわね」

 

「そうでしょうか……少し照れますね……」


 照れたような華恋を見て夏輝のイタズラ心に火がついた。華恋に対し、右手を胸に当てて一礼すると告げる。

 

「……なんなりとご用命を"お嬢様"」

 

「……!ズルいのです!兄様は!そういうところが!」


 不意打ちを喰らった華恋は、夏輝の胸をポカポカと叩く。対する夏輝は笑いを堪えられないようであった。それを見ていた雅がポツリと呟く。


「いいなぁ……華恋ちゃん……」


「お姉さんはお兄さんのことが好きなんですか?」


「うぇっ!?ええっと……う〜んと……」


 アタフタする雅を見てシルヴァが続ける。


「私は、お兄さんとお姉さんはお似合いだと思います。お兄さんの足りない部分をお姉さんが。お姉さんの足りない部分をお兄さんが埋めてるって"お母さん"が言っていました」


「今……なんと……?」


 シルヴァの言葉に反応したのは芽衣。信じられないものを見たような顔をしていた。


「今……私のことを……なんと呼んだ……?」


「えっと……"お母さん"……です」


 服の裾を掴んで、俯いたままそう告げるシルヴァ。芽衣はシルヴァに近づく。シルヴァは怒られるのではないかと目を瞑るが彼女が感じたのは圧迫感と芽衣の体温であった。


「そうか……やっとか……やっと私は……シルヴァの母になれたのか……」


「私は……私は……ずっと呼びたかったです……けれど……私だけが他の子よりも先に家族を持って良いのかわかりませんでした……そんな時に背中を押してくれたのがお兄さんでした……お母さんも心のどこかで呼ばれるのを願っているって……だから決めたんです。今日、新しい家族ができるのなら……私も本当の家族になりたいって……その第一歩が"呼び方"でした」


 それを聞いた芽衣は更にシルヴァを抱き寄せると震える声で告げる。


「シルヴァ……私の元に来てくれて……私を母と認めてくれて……ありがとう……」


「お姉さんも……私のお母さんになってくれて……ありがとうございます……」


 この日、シルヴァは芽衣と本当の家族になった。そして神山家の家系図にシルヴァの名前が加わることとなった。ちなみに夏輝は芽衣の写真を撮り損ねた。

第二章幕間、完結です。

明日から第三章。これからもよろしくお願いいたします。

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