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第二章幕間 第6話

夏輝の外堀が埋められた話をしてから数分、夏輝の足元で伏せていたラッキーとライラックが立ち上がると、しきりに辺りを見回している。心なしか耳と尻尾の動きも激しい。それを見て夏輝は2頭に命令を出す。


「ラッキー、ライラ stay」


 その命令に従い、2頭は座る。しかし顔は一つのドアを向いていた。ドアが開くとそこには芽衣と少々様子見のシルヴァがいた。夏輝はラッキーとライラックが飛び掛からぬようリードを少し強めに引く。2頭は大人しく座ってはいるが尻尾は荒ぶっていた。

 芽衣は膝をつき、シルヴァを前に出すと告げる。


「ほら、改めて挨拶だ」


「は……はい。えっと……その……」


 俯いて言葉に詰まるシルヴァ。しかし誰も何も言わない。シルヴァが話すのを待っていた。その時、栞が言った。


「一度会っているとはいえ、たくさんの人の前で挨拶するのは緊張するわよねぇ〜。わかるわ。その気持ち。私も新しいクラスを受け持った時、クラスの皆に挨拶するの緊張するもの」


「それホントか?俺の担任になった時、緊張してなかったろ」


「それを悟らせないようにするのが大人なの」


 栞は自然な動作でシルヴァの前で目線を合わせると、自分の名前を告げる。


「こんにちは。私は栞。貴女のお名前は?」


「シルヴァ……と言います……よろしくお願いします……」


「うんうん。シルヴァちゃんね。よろしく。挨拶できるなんていい子いい子」


 栞はシルヴァの頭を撫でると、玲と華恋に手招きする。呼ばれた2人もシルヴァにそれぞれ挨拶した。華恋との対面はうまくいったようであったが、玲には少し怯えの色が見えた。


「あら……もしかしてアタシ……ダメ?」


「いや、違うと思う。たぶん髪色じゃね?姉貴だけ茶髪だろ」


「そっかぁ……髪かぁ……黒に染めた方がいいかな?」


「う〜ん……俺としては髪染めは髪を傷めるからやらない方がいいと思う。それに姉貴の髪色、地毛だろ?尚更やめた方がいい。まぁ距離感的には俺よりも近いんだし少しすればシルヴァも慣れると思う」


 夏輝がシルヴァを見れば、コクコクと頷く。


「今まで……髪の毛茶色の人見たことありませんでした……ちょっとビックリしました……それから……」


 シルヴァは華恋に目を向ける。


「華恋お姉さんの着ている服も……初めて見ました……なんていうお洋服ですか……?」


「これですか?これは"着物"というものです。触ってみますか?」


 華恋が袖を出すと、シルヴァはおずおずと触る。着物生地の触り心地に驚いているようである。

 それを見て、夏輝と芽衣は話す。


「とりあえずは成功……だな」


「あぁ。シルヴァの味方がまた増えたのは私としてもありがたい……だが、一つ聞きたい。どうして華恋は和装なんだ?」


「あれ?言ってなかったか?華恋は"和"の系統に対して異様に強いぞ」

 

「そうなのか……私達は西洋のおもてなしをルーツとしているから真っ向から反対だな」

 

「もうさ、所作の一つ一つが綺麗なんだわ。後、めっちゃ丁寧」

 

「着物も相まって映えるな。あの子は」

 

「料理も上手いからな。俺、たぶん日本食は勝てねぇぞ」

 

「フッ……見なよ。私の甥っ子と姪っ子を」

 

「なんでアンタが得意げなんだ」


 ドヤ顔をする芽衣を他所に夏輝は続ける。


「それに俺は華恋に勝てない」

 

「なんだ。お前らしくないな。それは精神的にか?肉体的にか?」

 

「両方」

 

「両方?お前が妹に弱いのは知っているが肉体的に勝てないことはないだろう。仮にもウチの戦闘要員だぞ?」

 

「そりゃ手段選ばなきゃ勝てるとは思うけどさぁ……アイツ"和"の系統に対して異様に強いって言っただろ?」

 

「それは聞いたが……待て……まさか」

 

「アイツ、武道もめっちゃ強い。俺が習った方がいいレベル」

 

「思わぬ伏兵だな」

 

 感心する芽衣を見ながら、更に夏輝が畳み掛ける。


「特に薙刀と剣道、アレが上手い」

 

「薙刀とはまた珍しいな」

 

「槍とはまた違った動きだし、参考になる部分もあるから時折教えてもらってる」

 

「剣道は?」

 

「アイツ、まさかの二刀流なんだよな」

 

「二刀流だと?竹刀はそれなりに重いはずだが」

 

「重いんだけど、それを感じさせない動きの軽さ。もはや異次元。それでなんで二刀流にしたのかも聞いたんだわ」

 

「なんと言ってたんだ?」

 

「"兄様が昔、華恋を守ってくれた時に二刀流だったから"だって。覚えてねぇよそんなの」

 

「兄の背を追ったわけか」

 

「まぁ、何が言いたいかって言えばウチの妹は"健気で可愛くて最強"ってこと」

 

「溺愛しているなぁ」


 苦笑しながらそう答える芽衣。その2人を見たのか華恋がこちらにやってくる。


「どうした」


「いえ、私の名前が聞こえたのでお呼びかと」


「華恋はウチの常識枠って話」

 

「むむ……兄様達が異常なだけです」

 

「華恋も苦労しているなぁ」

 

「誰のせいだとお思いで?」

 

「俺含む上3人?」

 

「正解です。褒めてあげます」

 

「妹に褒められるとか……複雑ぅ〜」


 背伸びした華恋に頭を撫でられる夏輝。その表情は複雑そのものである。夏輝は構わず続ける。


「華恋も割と独特だからな?対岸の火事ぶってんじゃねぇぞ」

 

「そうでしょうか?」

 

「そうだよ。まず服装だな。今の時代好き好んで和服着る人って少ねーぞ。似合ってるからいいと思うけどさぁ」

 

「慣れれば動きやすいですよ」

 

「後は呼び方だな。姉様、兄様って今日び聞かんぞ。しかも俺達だけじゃなく雅にも姉様言ってるだろ」

 

「しっくりくるのです。雅"義姉"様も家族の様なものなのです」

 

「う〜ん……あながち間違いじゃないから強く言えん……」


「全部言い負けてるじゃないか。いつもの口の強さはどこにいった」


「だから華恋には勝てねぇって言っただろ」


「末恐ろしい妹だな」


 談笑する3人の前に複数の影が。見れば栞、玲、雅、そしてシルヴァが立っていた。シルヴァの目は、目の前に座るラッキーとライラックに向けられていた。夏輝はシルヴァに目を合わせると告げる。


「よし。遂に俺の相棒を紹介する番だな」


 大きく頷くシルヴァの目はキラキラと輝いていた。

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