第二章幕間 第5話
2日後、芽衣と夏輝と共にベティーで学校に来た華恋は生徒会室にいた。夏輝と芽衣は"ベティーに飯を食わせるついでに洗車してくる。終わったら連絡してくれ"と告げると走り去っていった。
桜華女子附属中学生徒会の今回の議題は、夏休み明けの行事における招待者の選定と各予算の振り分けである。配布資料を用意している最中、華恋は友人……とも呼べるか微妙な関係の役員に声をかけられた。
「華恋さん?少しよろしくて?」
「えぇ。何かありましたか?」
「実は………」
予想外の質問に、華恋は思わず聞き返した。
「紹介して欲しい人がいる?」
「えぇ!貴女が休み前の時にお迎えに来てた男の方。あの方を私に紹介して欲しいんですの!」
「そうはおっしゃられても……私、あの方との面識もあまり……」
「何をおっしゃってるのかしら。彼、貴女のお兄様でしょう?」
「……ッ!どうしてそれを……」
「家の者に調べさせましたの。あの方こそ私の伴侶に相応しいですわ!」
まるで夢見る乙女のような言い方で告げる名も知らぬ役員の女子生徒。それを見て華恋は呆れた返事をしながら思う。
「はぁ……」
(この方めんどくさいですね。なんとかして兄様を諦めさせなければ、雅義姉様がまた悩む羽目に……そうだ。あの手でいきましょう)
「構いませんよ。この会議が終わり次第お呼びしますね」
「当然ですわ!では、この後、お待ちしておりますわ!」
「では後ほど」
(礼の一言もないとは……それでも淑女なのでしょうか。とりあえず兄様に連絡ですね)
華恋はスマートフォンを取り出すと夏輝に"ある人物を連れて迎えに来てくれ"とメッセージを飛ばす。すぐに夏輝からは「OK」と返事がきたのであった。
ちなみにだが、華恋も親や家の力を振り翳し、自分で努力しないヤツが大嫌いである。兄妹そっくりだ。
時は過ぎ放課後。華恋は件のお嬢様を連れ夏輝を待っていた。すると、正門前に停車したベティーのドアが開いた。
「華恋。何があった」
現れたのは夏輝。ちょうど、栞と玲を事務所に連れて行った後のようで後部座席にはラッキーとライラックがいた。
「兄様。実は……」
「初めましてですわ!私、華恋さんの友人であの大手企業である"麗蘭グループ"の1人娘。名前を……」
「あら?夏輝君?どうしたの?」
彼女の自己紹介の途中、夏輝の背後から姿を現したのは夏輝に連れてこられた雅であった。
「いや、なんかいきなり挨拶されてさ……」
「ちょっと貴女。人の話を途中で遮るのは無礼ですわよ!それに……見窄らしいですわね……わかったら大人しく引っ込んでいなさい!」
その言葉に堪忍袋の尾が切れたのは華恋であった。一息吐くと冷たい声色で告げる。
「貴女が引っ込んでいてください」
「なっ……!華恋さん!?どういう意味ですの!」
「そのままの意味です」
華恋は彼女を睨みつけると改めて告げる。
「紹介します。兄様の神山夏輝と」
「どーも」
「その"婚約者"の神崎 雅さんです」
「!?」
その言葉に1番驚いているのは夏輝と雅。どうやら雅は理解しきれていないようで、隣の夏輝もイマイチ話が見えていないように見受けられる。
「えっ!?婚約者!?ちょっと華恋さん!どういう事ですの!?」
「どうもこうもありませんよ。そのままの意味です」
「いや、別に俺と雅は婚約者とかじゃ……」
「シャラップ。兄様」
「ウス………」
華恋のもの言わせぬ迫力に夏輝も思わず黙るしかなかった。
「そういう事ですので、残念ながら兄様のことは諦めてもらうしかありません」
「そ……そんな……!ですが……!そんな女よりも私の方が……!」
「それから言っておきますが、兄様は努力をせず他人を嘲笑う方が大嫌いです。それを踏まえて、もう一度ご自身の性格を顧みてから出直してくださいね」
華恋は冷たく言い捨てると頭を下げて夏輝と雅に言う。
「兄様、雅義姉様。お手数をおかけして申し訳ありませんでした」
「そりゃ構わんが……婚約者ってのは……」
「とりあえず事務所に向かいませんか?シルヴァさんにも会いたいですし……雅義姉様がフリーズされてますので」
「おぉう……マジか……雅、行こうぜ……ダメだ反応しねぇ。手ェ繋いで乗車させるか。またなんか困ったことあれば呼べよ」
「はい。ありがとうございます。兄様」
夏輝は雅をベティーに乗せると、華恋にも手を貸す。
すると華恋は夏輝の服の裾を掴みクイクイと小さく引っ張った。これは昔からの癖で華恋が夏輝や姉達と話す時に無意識の行っている行為であった。それに気づいた夏輝は華恋の口元に顔を近づける。
「どうした」
「全く……兄様は心配性ですね」
「当たり前だろう。大事な妹だ」
「ふふっ……ありがとうございます」
そう呟く華恋だったが言葉の端には嬉しさが滲んでいた。
事務所に着いた夏輝達。芽衣はシルヴァを呼びに行くと告げた後少し席を外していた。夏輝は人懐っこいラッキーとライラックがシルヴァに飛び掛からぬようリードを持ちながら先ほどの出来事を栞と玲に話す。
「てなことがあってよ」
「だから雅ちゃんと手を繋いでたのね〜」
栞が紅茶を飲みながらのほほんと言う。
「声かけても体揺すっても反応しないから焦ったぜ」
「そりゃそんなことあったらフリーズするよ。今もまだフリーズしてるしね」
容赦のない物言いをする玲。視線の先には空中を見つめたままの雅がいた。
「ん〜………とりあえず……どーすっかな……」
「何を?」
呆然とする雅の前にお茶を出しながら栞が問う。
「婚約者云々の話。とりあえず否定しておいた方がいいだろうなぁ」
「はぁ?なんでそう思う」
「いや、俺の婚約者扱いは雅に迷惑かかるし……アイツも嫌だろ。こんなヤツの相手とか」
そう告げるといきなり雅が叫ぶ。
「そんなこと!な……い……よ……?」
だが徐々に言葉が尻すぼみになっていった。それを見た栞と玲は口々に言う。
「とりあえず今はそのままでいいんじゃない?」
「栞姉……そんな無責任な……」
「いや、今のままがベストだろ」
「姉貴まで……なんでだよ」
理由を知りたがる夏輝に2人は続ける。
「今回みたいな厄介な呼び出しは減るだろ。確実に」
「いや、そもそもこういった呼び出し自体あんまないけど……」
「夏輝君もアルバイトに支障が出るのは避けたいでしょう?」
栞が問う。雅は先程の発言を思い出しまたも悶絶していた。
「そうだけど……」
「じゃあ決まりね」
「決定だな。お前に拒否権はないぞ」
「えぇ……マジか……」
かくして夏輝の外堀は策士である妹に埋められてしまったのだ。




