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第4話

 歩く事20分。俺が着いたのは、一階がガレージになっている2階建ての事務所だった。表札にはこう書かれている。

 "Perfect Clearing"

 ここが伯母が経営している家事代行サービス会社である。俺は階段を登り、事務所のドアを開けた。


「お疲れ様です」


「あら、夏輝君。お疲れ様」


 出迎えてくれたのは、ヴィクトリアンメイドスタイルのメイド服を着た銀髪の女性であった。彼女は"赤城 累"さん。この会社で2番目に偉く誰にでも物腰柔らかい人物だ。


「お疲れ様です、累さん。ボスいます?」


「えぇ、奥にいますよ」


「ありがとうございます」


 事務所の中を進むと一際大きなデスクがあり、そこに2人の人物がいた。


「あ……お疲れ様……夏輝君」


「お疲れ様です。沙羅先輩」

 

 少しオドオドした小動物のような小柄な女性は、

"雨宮 沙羅"先輩。お菓子作りが上手く、いざという時、頼りになる人。それから……


「来たか」


「そりゃ呼ばれたからな」


 髪をポニーテルにまとめた女性がいた。彼女が伯母の"柏木 芽衣"である。男装が似合いそうなほど整った顔立ちであり、妹の母とは似ても似つかない。


「それでボス。なんで呼んだ?」


「今期のテスト。受けてないのはお前だけだからね」


「もうそんな時期かよ」


「そうだよ。今からでいいかい?」


「拒否権ないだろ?いいさ。着替えた方がいいか?」


「そのままで構わん。行くぞ。累、沙羅。私とコイツは地下に行くから電話と来客頼む」


「はぁい」


「が……頑張ってね。夏輝君」


 2人に見送られて、一階へ。ガレージを抜けて地下への階段を降りる。


「なぁ、ガレージに止まってるバカデカいバイク。アレ誰の?」


「累のだよ」


「マジ?ギャップエグいな」


 雑談をしながら、階段を降り着いたのは全面コンクリートの射撃場。


「さて、始めようか」


 そう告げると、厳重にロックされた武器庫を開ける。


「アンタのは……コレだね」


 手渡されたのは、映画『ジョン○ウィック」で主人公が使用しているハンドガン。


「それと、弾倉。弾数は10発、距離は10メートル。弾種は……」


「ゴム弾だろ。わかってる」


 銃とマガジンを受け取ると、射場の机に置いた。


「じゃあ、装備をつけろ」


 イヤーマフとゴーグルをつけ、両手はボスから見える位置に。


「チャンバー確認」


「スライド、ホールドオープン。チャンバーよし」


 薬室内に異物がないか確認。


「マガジン装填」


「装填よし」


 マガジンを装填。

 

「スライドリリース」


「リリースよし」


 リリースレバーを押し、スライドを前進させ薬室内に弾を装填する。


「構え」


 両足は肩幅。力を抜き両手で、正面に構える。アイソレススタンスである。


「安全装置解除」


安全装置を解除し、いつでも撃てるようにする。


「撃て」


 その一言で射撃を開始する。引き金を引く時は力まず指の腹でまっすぐ引く。射撃場内に発砲音が反響する。薬莢が右側に落下し、金属音をたてる。撃つ時は何も考えず、反動は無理に抑えようとせず自然に任せる。10発撃ち切りスライドがオープンの状態になった。


後はボスの指示に従い、射撃前と同じ状況に戻る。違うのは火薬の匂いが充満しているかどうかだ。


「装備を外せ。怪我や体の異常は?」


「ない。毎度思うがこんなに手順を踏む必要あるか?」


「ある。意味はわかっているだろう。ゴム弾とはいえ人を傷つける武器だ。特別な許可を貰って私たちは所持を許されている。大きな力は正しく使わなければならん。それに安全面を考えるとこの方法が一番いい」


「だからボスはこの時、必ずホルスターに銃を入れてるんだっけか」


「そうだ。万に一つお前や他の者が私に銃を向けた時、即座に鎮圧できるようにな。さて、結果を見ようか」


 10メートル先にあった的がこちらに近づいてきた。


「さてと……10点が1発、残りは9点か……ギリギリだな」


「まぁ……」


 ホルスターに入った銃を撫でながらボスが言う。


「構わん。普段からコイツは使わないほうがいい。ちなみにだがお前の点数は、この中で最下位だからな」


「知ってた」


「日々、精進しろよ」


 そう言うとボスは銃とマガジンを回収し、武器庫に厳重にしまった。


「今日の予定はこれだけか?」


「いや、次の仕事の話もするから呼んだ。戻るぞ」


 俺達は、地下室の射撃場を後にした。それにしても次の仕事か……楽なのだといいんだけどなぁ。

 階段を登りながら他の2人の成績を聞く。


「累は97点。沙羅は99点だ。私は98だった」


「沙羅先輩惜しかったんだな。後1点で、ボスの奢りでメシだったのに」


「そんな簡単なことではない。しかし沙羅の的には弾痕が9発分しかなかった。意味はわかるな?」


「おんなじところに撃ったのか!?」


「そうだ」


「やっぱあの人イカれてるわ」


 沙羅先輩は、普段小動物のようにオドオドしているが仕事においては人が変わったようになる。特に荒事の対処の時はそれはもう……ボス曰く『私達全員が本気でやり合って1番強いのは間違いなく沙羅だ』というくらいには強い。そんな沙羅先輩だけど、お菓子を作るのが得意でよく貰うことがある。めっちゃ美味い。

 累さんは、誰にでも物腰低く丁寧な人だ。仕事においては完璧の一言に尽きる。事務所の掃除や来客のおもてなしなんかも率先して行ってくれている。一度、俺が1番年下で下っ端だから変わろうとしたら『好きでやっているから構わない』と意味深な圧をかけられてしまった。ボスも『累がいないと会社が回らない』なんて言っていた。それでいいのか、経営者。


「戻ったよ」


「おかえりなさいませ」


「お……おかえり……どうだった?」


「ギリギリでしたよ。沙羅先輩は凄いっすね」


「え……えへへ。ありがとう。そうだ。コレよかったら」


 そういって渡されたのは、綺麗に包装されたクッキーだった。


「ありがとうございます」


「頑張ったからね……ご褒美だよ」


 封を切って一枚食べてみる。やっぱり美味い。店出せるんじゃないかな。コレ。と思っているとボスがデスクに着いて言った。


「さて、全員揃ったな。じゃあ次の仕事の話を始める」

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