第二章 第16話
人身売買組織を壊滅させた日から1週間後。下校しようとした夏輝のスマートフォンにメッセージが入る。差出人は芽衣。内容はというと……
"新武装の使用所感を未だに貰っていないとメカニックがブチ切れていたぞ。今日、事務所で書け"
とのことだった。
「えぇ……1週間以内ってちょうど1週間後でもOKってことじゃないのかよ……」
「どうしたの?夏輝君」
「ボスから出頭命令。今日事務所に寄って帰ってもいいか?」
「うん。私も着いていってもいい?」
「大丈夫だろ。そうと決まればさっさと行こうぜ」
「うん」
夏輝と雅が歩くこと20分。2人は事務所入り口の前にいた。
「そろそろ夏休みだなぁ」
「そうだね」
「雅は?何か予定あんのか?」
「私はね……友達と水上リゾートに行かないかって誘われたの」
「ふ〜ん……」
夏輝が事務所の扉に手をかけた時、向こう側からドアが開かれた。それにより夏輝はドアに頭を打つことになった。
「いった………!」
「大丈夫?」
「頭割れたかもしれねぇ……誰だよ……!向こうから開けたの!」
夏輝が見れば、ドアを開けていたのは銀の髪にグレーの目をした少し背の高い少女であった。その少女を見た夏輝と雅は同時に心の中で叫んだ。
(誰!?)
「えと……あの……ごめん……なさい……」
「いや気にしなくていい……これくらいは慣れてる……」
「それにしても貴女は?どこから来たの?」
「それについては私が答えよう。とりあえず入るといい」
雅の疑問に答えたのは芽衣であった。2人と少女を事務所に招き入れると、夏輝にノート型パソコンを渡す。
「お前は所感を書きながら聞け」
「氷もらっていい?」
「構わん。シルヴァ。夏輝に氷を渡してやれ」
シルヴァと呼ばれた少女は、冷凍庫から氷嚢を取り出すと恐る恐る夏輝に渡す。手と体は若干の震えが生じていた。
「大丈夫……ですか……?」
「ん……大丈夫大丈夫。俺、最強だから」
夏輝はなるべく優しい声色で答える。それを聞いたシルヴァはホッとした表情をするが怯えたように芽衣の隣に座る。それを見た夏輝は思い出したように言った。
「もしかしてその子ってさ……」
「あぁ、私達が1週間前に助けた私の"主人"だ」
「やっぱりな。それにしてもなんでここに?」
「少々複雑なんだが……彼女には身寄りも戸籍もないんだ。もちろん国籍もな。他の子達は孤児院に行ったんだがこの子は行かなくてな……私に会いたいと言ったらしい。それで今の状況を聞いたらそういうことだったから、私が引き取ることにしたよ」
「マジかよ……」
夏輝と雅がシルヴァを見れば、彼女の首元には芽衣の懐中時計がぶら下がっていた。
夏輝はメカニックに送るメールの末尾に
"追伸:そんなんだから納期も婚期も遅れかけるんじゃないですか?イカれメカニック"
と爆弾を添えると送信ボタンを押す。メカニックからは抗議がくるだろうが自分のアドレスではなく芽衣のアドレスなので夏輝にはノーダメージである。
「なぁ、ボス。その子、対人……いや男性恐怖症だろ」
「よくわかったな。その通りだ。どうも男性に対する恐怖心は根深いらしい」
「俺の一挙手一投足に怖がってたからなぁ……俺はちょっとずつ仲良くなるかぁ」
「一応お前のことは信頼できると話してはいるし、雑に扱ってもいいとは言ってあるがな」
「雑には扱わないでくれ……」
夏輝の嘆きを他所に雅が聞く。
「名前は芽衣さんが付けたんですか?」
「そうだ」
その返答に驚く2人。芽衣の過去におけるネーミングセンスを思い出し驚愕する。
「ウソだろ……?あんなにネーミングセンスがないボスが?」
「ちょっと信じられません……」
「お前達、失礼すぎるだろう……」
呆れる芽衣だが、それを聞いたシルヴァが言う。
「私は……お姉さんがくれた……このお名前……好きです……」
「そっか……ならいいんじゃね。俺は神山 夏輝。お姉さんの……友達?部下?みたいなものだ。よろしく」
夏輝はシルヴァを怖がらせないよう小さく手を振るだけでとどめる。おそらく手を挙げると彼女はトラウマがフラッシュバックするであろうとの考えであった。
「私は神崎 雅。お姉さんのお友達。よろしくね」
「よろしく……お願い……します……」
反対に雅はシルヴァに近づくと、右手を差し出す。雅としては彼女が信頼できる人物を増やすことが先決であるとの判断だった。シルヴァは夏輝に小さく手を振りかえした後、雅の手を握り返事をした。
「累さんと沙羅先輩には?」
「既に紹介してある。特に沙羅とは波長が合うのか姉妹のような関係だよ。シルヴァにとってもそれだけ親しくなれる者がいるのはいいことだ。色々と学んでほしい」
「余計なことも学ぶと思うぞ。爆弾製造技術とか、効率的な敵の屠り方とか」
「いいじゃないか。それでこそ私の"娘"だ」
「親バカすぎる……この組織のまとも枠は俺と累さんだけかよ……」
「夏輝君?貴方も大概おかしいからね?シルヴァちゃんに余計なこと教えちゃダメよ。いいシルヴァちゃん。彼から変なこと教えられたら私に言うのよ?」
「わかり……ました……雅……さん」
「累さんと沙羅先輩も受け入れたってことは……シルヴァのポジションはどうなんの?見たところまだ10歳前後だし、学校にも通わせるんだろ?」
「もちろんだ。だが今から小学校に編入させたとて、ついていくのは厳しいだろう。だからしばらくは私達で色々と学ばせる。中学から編入だ。目下、目標は"桜華女子学院附属中学"だ」
「あぁ、あそこか。妹の華恋がいるとこだな。あそこ全寮制だぞ。大丈夫か?」
「それまでにある程度克服させる。大丈夫さ。彼女は強い」
そう言い切る芽衣。夏輝も雅も芽衣がそう言うなら大丈夫だろうとそれ以上意見を言うことはなかった。
「それでポジションは?ボスが統括執行責任者だろ?累さんが執行補佐で……沙羅先輩が立案、戦闘要員その1。俺が現地調査員兼暴力担当だろ。雅は一応外部協力者って立ち位置だし……」
「でしたら、彼女にはこの会社のお手伝い兼看板娘になっていただくのはいかがでしょう」
声をした方を見れば、累と沙羅が立っていた。2人はシルヴァに近づくと言う。
「彼女は頑張り屋さんです。前に進もうと一生懸命頑張っているのですから、それに見合ったポジションでなくては」
「うん……シルヴァは可愛いから……看板娘に……ピッタリ」
「私もいいと思います。背伸びしつつも頑張っている直向きな姿はやっぱり見ていて可愛いですから」
「満場一致ならそれで」
芽衣はシルヴァの前に跪くと、彼女の目を見て告げる。
「さてシルヴァ。ここには君の味方しかいない。やりたいこともなんでもできる。それを踏まえて……君は何が"したい"?」
シルヴァは芽衣の後ろに立つ面々を見回す。いつも綺麗なお姉さんに、美味しいお菓子をくれるお姉さん。今日初めて会ったけど、嫌な気がしない黒髪のお姉さんに、少し恐怖を感じるけど笑顔が優しいお兄さん。そして、私を助けてくれた人。少なくともこの人達は私の味方なんだ。そう理解したシルヴァは言う。
「私は…………!」
シルヴァのやりたいことを聞いた全員は思わず微笑む。そして芽衣がシルヴァの目を見て一言。
「YES,My Master」
こうして"Perfect Clearing"に新たな仲間、シルヴァ が加わったのだった。
無事に第二章も終わらせることができました。
ここまで愛読いただきありがとうございます。
次回より第二章 幕間その後、第三章スタートとなります。
これからもよろしくお願いいたします。




