第二章 第15話
結局、夏輝達が現場を離れたのは明け方であった。ブラック・ベティーの車内で夏輝はボヤく。
「もう眠い……この後学校かぁ……屋上で1日寝るか……いや、いっそのことサボるか……?」
「夏輝」
「わかってるよ。行くのは行くさ。でもちゃんと授業受けられる気しないんだが」
「それでも出席はしておけ。出席日数や単位は大事だぞ。継続は力なりと言うだろう?」
ブラック・ベティーは神山家の前で止まった。芽衣はベティーを降りた夏輝に告げる。
「装備はメカニックの方に点検に出す。使用した際に感じたことや改善提案を1週間以内に提出してくれ。それから体のメンテナンスを怠るな。また仕事が決まれば呼ぶ。今回もご苦労だった」
「はいよ。お疲れさんでした」
「では、またお疲れ様でした」
「お疲れ様……またね……夏輝君」
ベティーは3人を乗せたまま走り去った。夏輝はそれを見送ると家に入る。寝ている家族を起こさぬよう全ての動きは静かに。この程度のスニーキングスキルは朝飯前であった。
「ただいま……っと」
そろりとドアを開けるとダイニングテーブルに人影が。見れば雅がテーブルに突っ伏すような形で眠っていた。足元にはライラが丸まって眠っていた。
「一晩中待ってたのか……悪いことしたな……」
夏輝は雅にタオルケットをかけるとキッチンへ。両手鍋を開けるとそこにはカレーが入っていた。
「約束……守ってくれたのか……」
鍋を火をかけ、その間に冷蔵庫に保管されていた米を適当に注ぎ電子レンジに。雅を起こさぬよう静かに盛り付けると雅の正面に座る。両手を合わせるだけの挨拶にとどめるとやっと夏輝は朝食にありつけるのであった。
「美味いな……」
手早く食べ終えた夏輝は、食器類を洗うと雅の近くに"ありがとう。美味かった"と書き置きを残し時計を見る。
「2時間くらいしか寝られねぇな……まぁ、仕方ないか」
そう溢すと夏輝は自分の部屋へ上がり、ベッドへ潜り込む。
「ラッキー……2時間後に起こしてくれ……」
それだけ言うと、ベッドにはラッキーがいる状態でそのまま爆睡するのであった。
「んん……今何時……?」
目が覚めた雅は傍に置いてあった自分のスマートフォンを確認しようとする。その時、肩から何かが滑り落ちる。見ればタオルケットであった。
「なんで……?」
首を傾げつつもテーブルを見ると、夏輝による書き置きが置いてあった。それを見た雅は急いで2階に向かう。しかし夏輝の部屋に入ることはできなかった。なぜなら夏輝の部屋の前にはラッキーが鎮座していた。
「ラッキー……退いてくれない?」
雅のその問いかけにフルフルと首を振る。まさしく番犬であった。ラッキーと雅が押し問答していると、隣の部屋のドアが開く。出てきたのは玲であった。
「どうしたの……雅ちゃん……」
「あ、玲さん。起こしちゃいましたか……ごめんなさい……ラッキーが中々退いてくれなくて……」
「ラッキーが……?あぁ、夏輝の部屋の前にいたのね。ならたぶん夏輝は寝てるわ。ラッキーは夏輝にとって安眠装置だもの。たぶんだけどラッキーは意地でも動かないわよ」
「そうなんですね……」
「だからさ。私達はいつも通りにしましょう。色々言いたいことあると思うけど、アイツが起きてからでも十分でしょう?」
「そうですね……私、着替えてきますね」
そう言って階段を降りていく雅を見送った後、玲は夏輝の部屋を見て呟く。
「全く……あんまり心配かけるんじゃないわよ……夏輝」
きっかり2時間後、夏輝は体にかかる重みで目を覚ます。目の前にはラッキーの顔があった。
「ありがと……ラッキー……」
夏輝はベッドから起き上がるとのそのそと着替える。体調は最悪。睡魔が常に首に手をかけている状態であった。ラッキーの先導により覚束ない足取りで階段を降りる。リビングに入ればそこにはいつもの光景があった。
「おはよう、夏輝。アンタ凄い顔だよ。何時に帰ってきたの」
「2時間前……雅は?」
「もうじきくるよ。アンタ今日は休んだ方がいいんじゃない?」
「いや……出席しねぇと……日数と単位がピンチ……」
「アンタ割と余裕あるでしょうに……全く……生徒会の仮眠室使っていいから適当な時間に寝なさい」
「そうする……サンキュー……姉貴」
夏輝がそう答えたタイミングで、後ろのドアが開く。見ればそこには雅が立っていた。
「あ……雅……ただいま……」
「おかえり!」
雅は夏輝に抱きつくが夏輝の足取りは覚束ない。なんとか踏ん張ると、雅を抱き止める。
「聞いたぞ……頑張ったんだってな……お疲れ」
「夏輝君もね……無事で良かった……」
「言ったろ……簡単に死ぬわけないって」
「それでも心配だったの」
「そっか……」
ふと夏輝は気になることを聞くことにした。
「如月と謙也は?どうなった」
「上手くいったみたい。今日も杏ちゃんからメッセージきてたもの」
「そっか……今日学校でも色々と聞いてみるか……後、謙也にお礼言っておかないとな……」
「そうだね」
「2人共イチャイチャするのは良いけど、時間マズイわよ。私は先に行くからね」
玲の言葉で時計を見た2人は焦る。
「ヤバいのはわかるけど、体動かねぇ……眠すぎる……」
「しょうがない。私が手繋いでいってあげようか?」
「頼む……」
「えっ……?」
雅としては冗談であったが予想以上に夏輝が素直であった為、面食らってしまう。それを見ていた玲は雅に耳打ちする。
「言い忘れてたけど、めちゃくちゃ疲労困憊の夏輝って普段の倍ぐらい素直だからね。発言には気をつけた方がいいよ」
「初耳なんですけど……」
「初めて言ったからね。ほら夏輝。急ぐよ」
「はい……」
夏輝は雅の手を引き玄関に向かう。なんとか状況を理解した雅も夏輝と玲と共に靴を履き玄関に立つ。
「それじゃあ2人共留守番頼むわよ」
「よろしくね」
「頼むぞー………」
玄関には2頭の元気な鳴き声が響く。今日もまた平凡な1日が始まったのであった。




