第二章 第12話
夏輝と沙羅が見張りを葬り去っているのと同時刻。芽衣と累は倉庫の内部にいた。そこには恰幅の良い男や派手に着飾った女が多数とコンテナが2つ。その光景を見て芽衣は累に言う。
「ここまで腐った人間が多くいるとはな」
「裕福な人ほど娯楽に飢えるものですもの……ですがこの光景、夏輝君が見れば"全員性格悪そう"とでも言いそうですわね」
「間違いなく言うだろうな。アイツの嫌いなタイプの人間だ」
芽衣が話していると、倉庫に設置されたステージに1人の男が上がる。H.T.Gのリーダーだ。
「ladies and gentleman ようこそお越しくださった。今宵は皆様のお目に適う商品を多数ご用意させていただきました。是非、ご覧ください。あぁ!それから……お支払いはCash onlyですので……お間違えのないように。私達も皆様もまだ捕まりたくはありませんからねぇ」
リーダーの一言で会場からは笑いが起きる。芽衣は小さく舌打ちし、累はもはや何も言わなかった。リーダーが、他のメンバーに合図するとコンテナが開かれる。中には多数の子供と年若い女性がいた。
「よし並べろ」
「さっさと出てこい!」
コンテナの中にいる者達は皆、手錠と足枷をつけており、それぞれ鎖で繋がれていた。
「まるで奴隷商人だな……反吐が出る」
芽衣はインカムで警察に指示を出す。
「金の取り引きが確認できた瞬間に乗り込んでください。全員纏めて現行犯です」
『了解した。全チーム待機を続ける』
『ヘリボーン部隊了解。周辺空域で待機する』
芽衣は累を連れて、会場内を歩く。連れられてきた"商品"の近くに立つ見張りの手には棒状のスタンガンや鞭などが握られていた。
「奴隷の即売会のようだな……」
芽衣は吐き捨てるようにそう呟く。その時1人の女の子が目に止まる。周りの者より倍以上は痛めつけられてるようだった。芽衣は近くに立つ見張りへ尋ねる。
「この子は?」
「コイツですかい?コイツは後ろの3人と同じとこからきたんですが、他のヤツを"躾"する時によく庇い立てしやがってですね。こっちとしても傷モノにはしたくないんで、手加減してたんですが遂に躾係がキレましてね。少々手荒にやっちまったんですわ」
「ほぉ………話しても?」
「もちろんですよ。おい!起きろ!」
男は少女にスタンガンを当てる。
「ぎゃっ……!」
「良かったな!テメェのことを買ってくれるかもしれねぇぞ!ちゃんと自己紹介しろよ」
背の高い少女は芽衣を見ると告げる。体は震えていたが目つきだけは反抗する気力を失っていなかった。
「何かするなら私にして!他の子達には手を出さないで!」
「ったく……自己紹介しろっつったろ!」
またも見張りはスタンガンを押し当てる。その時、恰幅の良い男が来た。
「素晴らしいですな。自分を犠牲に他の者を守ろうとするその精神。賞賛に値しますぞ」
男は少女に目を合わせると言う。
「私はそんな子が壊れるのが好きでねぇ……決めたよ。君達4人、纏めて買おう。君を椅子に縛りつけた後、他の3人で楽しませてもらうよ。君はどんな顔をするんだろうねぇ」
男は立ち上がると、付き添いにアタッシュケースを持って来させる。ケースの中には現金が入っていた。
「幾らだね?」
「不良品込みなんで……5000万でございます」
「安い買い物だね。ほら丁度だ」
男が現金を見張りに渡したのを見て芽衣が累に聞く。
「抑えたか」
「もちろんですわ」
「よし……失礼、ご主人」
「なんだね?ぐっ……!」
4人の少女に手を伸ばそうとしていた男を芽衣は、"加減なし"で蹴り飛ばした。芽衣のブーツから独特の"排熱音"と"変形音"が響く。芽衣は会場全体に響く声で叫ぶ。
「即売会は終わりだ!」
ざわざわとする一同を無視して、芽衣はインカムに手を当てると一言。
「突入しろ」
その言葉と共に倉庫の入り口が大きく開かれ、武装警官隊と装甲車が出口を塞ぐ。裏口のシャッターは装甲車が強行突破、周辺を特殊部隊が固め、倉庫の窓からはヘリボーンした部隊がガラスを突き破り、会場を見下ろせる2階通路へ展開した。
だが、組織もただ黙って見ているわけではない。庫内にいる者達は銃を抜くと警官隊に発砲する。逃げ惑う購買客、突然のことにしゃがみ込み頭を抱える子供、トラウマが呼び起こされた者……現場は悲惨の一言であった。そんな最中、リーダー格の男が複数の護衛を連れて、倉庫から逃亡を図る。芽衣はそれを見逃さない。
「待て!」
「マズい!急げ!とっととここを去るぞ!お前達!足止めをしろ!」
リーダー格の男が告げると、芽衣の周囲を10人ほどが取り囲む。芽衣は一瞥すると、累に告げる。
「外に出て、沙羅達と共に逃げたヤツらを追え。指揮は任せる。この場にいる雑魚の相手は私だけで十分だ」
「かしこまりましたわ」
累が歩いて包囲網から出ようとすると1人の男が立ち塞がるが……その男は一瞬で包囲網から消えた。芽衣が腹を蹴り飛ばしたのだ。蹴られた男は吹き飛ばされた後、転がると起きなくなった。どうやら気絶したらしい。
「言ったはずだ。お前達の相手など私だけで十分だと」
芽衣のブーツがまたも変形する。このブーツは技術者が作成したオリジナルである。特殊な変形機構とシステムにより、足回りの出力を大幅に上昇させる。これにより蹴りによる攻撃だけでなく、跳躍、走破などあらゆる面において有利を取ることができる。
「くたばれ!」
大振りの鉄パイプを体を逸らして回避。軽く跳躍すると男の顎に膝蹴りをお見舞いする。次に突き出されたスタンガンを蹴り飛ばすと、唖然とする男の顔面にハイキック。男は数メートル飛んでいった。
「次は誰だ?もっと骨のあるヤツが欲しいな」
「ソイツを殺せ!」
それを合図に大挙として押し寄せるが芽衣の敵ではなかった。ある者の攻撃は片足でパリィをし、跳ね返された時に大きく隙ができた土手っ腹に、ミドルキックを打ち込めば男は蹲ったまま立ち上がらず、別の者には相手の攻撃を跳躍で回避、後ろに回り込む。相手が振り向いたタイミングで再度跳躍、横面に膝蹴りを2発叩き込むと着地。そのままバク宙の要領で顎を蹴り上げノックアウト。芽衣は手を使わずに9人の男の山を作り上げた。
最後に残ったのは、ガタイの大きな男。体の至る所に血管が浮き出ているあたり、違法薬物による筋力増量といったところだろうか。
「ほぉ……少しはやれそうなヤツが出てきたじゃないか。精々、楽しませてくれよ」
「H.T.Gに刃向かった罰を受けるがいい!」
戦いは第二ラウンドへともつれ込んだ。




