第二章 第11話
深夜、取り引き現場である貿易港から少し離れた駐車場に停めたブラック・ベティーの車内で夏輝達は最後の確認を行う。
「私と累で取り引き現場に出向く。夏輝、沙羅、2人で私達が通った後に見張りを手早く始末しろ。既に現場近辺には警察の特殊部隊が潜んでいる。商品を確認し、相手が金を受け取った時点で特殊部隊が踏み込む。我々はそのバックアップだ。逃亡しようとするグループの構成員を片っ端から捕えろ」
「了解……なぁ、一つ聞いていいか?」
「なんだ。言ってみろ」
夏輝は累の首元を指差して問う。
「なんで累さんはチョーカー着けてんの?」
「これはカモフラージュですわ。我々は商品を購入しにきた太客。その客がそういった事をしない訳がありませんもの。ちなみにこのチョーカーにはカメラが埋め込まれております。現場にいる特殊部隊の皆様にも共有できますし、何より動かぬ証拠になりますわ」
「なるほどね……理解しました」
「お前達は少し離れた場所からフェンスを飛び越えて侵入しろ」
「了解」
「頑張り……ます……!」
「よし……時間だ。今日、ここで全てを終わらせるぞ」
芽衣と累が出発したのを確認し、夏輝と沙羅も行動を開始する。
「さっき、雅から連絡がありましたよ。向こうは終わったみたいです」
「そっか……私達も頑張らないとね」
2人は軽々とフェンスを飛び越えると守衛が駐留する事務所に近づく。最初の任務は守衛がグルであるか否かの確認。何も知らなければそのまま放流。もしグルであればその場で制圧し、侵入者有という情報を遮断するのが目的である。夏輝と沙羅は芽衣からの連絡を待つ。
芽衣がゲート前にベティーを止めると守衛が問いかける。
「今日はどういったご用件で?」
「荷物の受け取りにね。海外からの輸入品だから直接確認したいんだ」
「場所は……第三倉庫……ほぉ……アンタらもそのクチか……今日の"商品"は活きがいいのが多いらしい……俺もおこぼれに預かりたいモンだねぇ……ほら、通っていいよ」
「感謝する」
ブラック・ベティーが走り去るのを見て、男はボヤきながら事務所に戻る。
「それにしても、あんなナリでもああいう趣味があるとはなぁ……人は見た目でわからんね……さてと……残りの業者は……」
男が椅子に腰掛け、コーヒーを片手にリストを捲ったところで男の意識は途絶えた。
「事務所制圧完了っと……沙羅先輩、次行きましょう」
「うん」
夏輝と沙羅は守衛を結束バンドで拘束し用具室に閉じ込めると、次のターゲットへと狙いを定める。次に狙うのはコンテナの合間に配置されている武器を持った見張りであった。
「沙羅先輩の予想通り、ツーマンセルですね……」
「私が左を……夏輝君は右をお願いね……」
「了解です。静かにいきましょう」
夏輝と沙羅は男の背後に音もなく忍び寄る。2人の見張りはタバコ片手に談笑していた。
「今のクルマが今日最後の参加者か?」
「そうらしいぜ。なんでも飛び入り参加してきた金持ちらしい」
「かぁ〜!いいねぇ、金持ちは。しかも隣にエラく美人な召使も抱えてたろ。いいよなぁ」
男がそう言って隣を見れば、相方の姿はなかった。左右を慌てて見回す男。その男の前に靴が落ちてきた。上を見れば、チェーンに首を拘束された相方がもがいていた。一瞬の出来事に戸惑う男の首に温かいものが触れるとそのまま首を圧迫される。男はもがくが遂には意識を手放した。
「2人制圧……」
「この調子でいきましょう」
「うん……やっぱり便利だね。コレ」
沙羅はSMGの脱落防止の為のチェーンを見る。夏輝は2人を拘束し、無線機を分解。銃も弾倉の弾を全てぶち撒けると沙羅と共に更なるターゲットを"捕食"する為に動く。
道中の見張りを全て始末した2人はコンテナの陰からクレーンを見る。
「アレが面倒ですね」
「夏輝君、やれる……?」
「やってみせますとも」
そう告げると夏輝はクレーンを登り始める。夏輝が配置についたのを確認すると、沙羅は堂々と道を歩く。狙撃手は沙羅の行動に困惑していた。
(誰だ?こんな時間に……子供……?商品が逃げ出したか……?どちらにせよ始末しないとな……悪いな……嬢ちゃん……)
男がスコープ越しに沙羅に照準を合わせた時、沙羅が男を見る。その目は確実に男を捉えていた。
(目が……あった……!?こちらに気づいた……!?いや……そんなはずはない……向こうからこちらは見えないはずだ……!)
もう一度、男がスコープを除けば、沙羅が手を振っていた。確実に気付かれている。
(クソッ……!先に始末するか……?報告が先か……!?)
沙羅はスコープ越しに男の後ろを指さしていた。それに釣られた男が見たのは、満月を背景に警棒を振りかぶった夏輝の姿であった。一撃で倒れた男に夏輝は言う。
「アンタら、一応傭兵だろ……戦場での迷いは命取りだって学んでないのか……?沙羅先輩、狙撃手制圧です。後は倉庫の出入り口だけですね」
「了解……」
巨大なスライド扉の前には3人の見張り。先程までと違うのは全員重装備であるということ。
「ちょっと不味いですね。1人1つとしても取り逃がしかねないですよ」
「時間はかけたくないよね……夏輝君……1人で2人制圧できない?」
「バカみたいに音出していいならできますけど?」
「ふーん……できないんだ……」
沙羅の煽るような目付きに夏輝は言う。夏輝は冷静に努めて言う。
「………できらぁ!」
完全に勢いでの返答であった。
「俺が右と真ん中やるんで、左端頼みますよ」
「任せて」
夏輝は、素早く見張り2人の背後に接近する。その途中、夏輝は腰に所持していた三節棍を展開していた。
2人は音も無く、3人の後ろを陣取る。夏輝と沙羅は目配せした後、行動を起こした。
沙羅は素早く相手の正面に回ると、そのまま相手の右手を自身の体に引き寄せる。そのまま飛びつき、両足で相手の右脇と首の頸動脈を締め失神させた。一方の夏輝は、三節棍のスタンモードを起動する。見張りの肩を叩き、振り向きざまに首にスタンを当てれば、2人とも気を失った。
「ね?できるって言ったじゃないですか」
「装備使うのは……反則……まだまだ……だね」
「反則もクソもないでしょ……俺、頑張りましたよ?」
2人は突入に備え、スライド扉の前に待機する。夏輝と沙羅の後ろには、武装した警官隊と装甲車が突入の時を待っていた。




