第二章 第9話
事務所に戻った4人を含めて新たに報告がなされる。
「情報がある程度固まった。これにより依頼者含む2人にも開示すべきと言う判断になった」
芽衣は杏梨と雅を見つめると続ける。
「開示することはできるが聞くか聞かないかは君達の意思を尊重する。どうする?」
2人は顔を見合わせるとハッキリと芽衣に言う。
「聞くわ。何があったか知るのは依頼者の権利だもの」
「私も聞きます。中途半端なんて我慢できません」
「わかった……それなりに覚悟して聞いてくれ」
芽衣は一息入れると2人に言う。
「この事件の裏には人身売買組織が絡んでいる。それも世界規模のだ。如月杏梨さん。貴方はそのグループの商品とされている。SNSによる執拗な粘着はまた別の人物だった。つまり、君は今、組織と個人。両方から狙われている」
雅と杏梨は言葉が出なかった。あまりにも壮大な話すぎて頭が追いつかないのだ。芽衣は気にせず続ける。
「サーバーには次の取り引きの場所、時間、売買する人物の名前があった。それ以上も追求しようとしたが、外部アクセスが引き金になるプログラムによりログの削除が行われそれ以上はわからなかった。そのことに関しては申し訳ない」
「貴女が謝ることではありません。むしろ感謝しています」
頭を下げる芽衣にそう返す杏梨。夏輝はそのまま続ける。
「それにしても外部アクセスがキーになってログ削除か……じゃああのサーバーはもう使わねーだろうな」
「おそらくな……だが累が別の視点からヤツらに接触を図っている」
「別の視点?」
「あぁ……我々が買い手になる。既に取引はほぼ成立。後は売買現場に踏み込むだけだ。沙羅、場所の説明を」
沙羅は大きな地図と図面を並べると話す。最初に地図を指示棒で指す沙羅。
「取り引き場所はここ。南部にある貿易港だね。コンテナのヤード地帯で明かりもそこまで多くないよ。深夜になるとほぼ無人。泣こうが叫ぼうが助けが来ることはまず、ない。たぶん警備員も買われてるかもね」
沙羅は続ける。
「取り引き場所は第三倉庫。1番広い倉庫だね。1週間後、ここにコンテナが運び込まれるよ。おそらく"商品"が積まれてる」
「沙羅先輩。それたぶん"海外製"ですよね?」
「うん。主に欧州、米国の2つの地域からだね」
「以上が現在判明していることだ。本格的に我々は摘発に動く。世の中には存在しても良い悪と存在してはならない悪がある。これは後者だ。我々はヤツらに容赦をするつもりはない。取引は1週間後だ」
沙羅はそそくさと自分の位置に戻る。その時、累が言う。
「ただ、単独犯の方も見過ごすことはできません。近いうちに実力行使に出ると思われます。おそらく我々が摘発に動く日と同日……下校時刻あたりが本命ですわ」
累はノートPCの画面を見せる。
「ここ2、3日、学園から杏梨様宅への登下校ルートをなぞっています。今は我々の送迎により鉢合わせはしていませんが……取り引きの日は我々は動けません」
「俺だけ後から合流は?」
「無理だ。そもそも取り引き現場と距離がありすぎる。それに総力戦で挑みたい。その為にお前を外すことはできん」
「あの……警察は動いてくれないんですか……?」
おずおずと質問するのは雅。それに夏輝が答える。
「悲しいかな、現状警察は被害が出てからしか動かないんだ。精々パトロールの強化が限界じゃねぇかな……俺も個人的に刑事のおっさんに相談したけど、所属する凶悪犯罪課じゃ動けないし、管轄の生活安全課が似たような事案でパンク寸前だって言われちまった」
「そう……」
夏輝は淡々と言葉を紡ぐ。その時、夏輝の脳内にある案が閃く。
「累さん、SNSの方って単独ですよね?」
「えぇ」
「組織的な傾向は?」
「微塵もありませんわ」
「格闘技や武術歴は?」
「特には。その人物について色々と聞きましたが、大学卒業後に就職。その後、女性社員に対するセクハラで解雇された後はご実家に篭りきりだそうです」
それを聞いた夏輝は、顎に手を当てると考える。少しした後、夏輝が言う。
「たぶんいけるな。コイツも現行犯でしょっ引けるかもしれねぇぞ」
「だが依頼者を危険に晒すのは避けたいぞ」
「わかってる。だが如月を囮にするしか方法がない」
「やるわ。いいえ、私にやらせて」
杏梨が立ち上がると雅も同じく立ち上がる。2人の意志は固かった。
「雅と2人なら絶対に負けないわ。だからやらせて」
「私も。やられっぱなしじゃ悔しいもの。それに"友達"を助けたい。だから……」
「よし……これが依頼人の意向だが……どうする?ボス」
「………わかった。やれ」
「了解」
そう言うと夏輝はとある人物に電話をかける。
「よ。俺だ。少し頼みたいことがある。内容はだな……」
夏輝は二言、三言会話をすると通話を切る。
「引き受けてもらえたよ。一応刑事のおっさんに話は通しておいて、近くに私服警官を配置してもらう。2人を危険に晒すことについては先に詫びておく。だが成功すると確信している。頼むぞ。2人とも」
「えぇ」
「任せて。それで作戦は?」
夏輝は学校周辺の地図を取り出し述べる。
「ぶっちゃけ……ない」
「え?」
「どういうこと……?」
「そのままの意味だ。これと言って作戦はない。2人には普通に歩いて帰ってもらうだけだ。できれば人気の少ない場所におびき出してほしいが……少し厳しいかもしれんな。ただ犯人は必ず2人に手を出そうとする。そこを助っ人に取り押さえてもらう」
「その助っ人は、誰なの?」
「それは言えねぇ……ただ、俺が"信頼できるヤツ"とだけ」
そう言うと夏輝は芽衣に話の主導権を渡す。
「単独犯の方はなんとかなりそうか……問題は組織の方だな。沙羅、もう一度立地のおさらいだ」
「わかったよ。ボス。コンテナヤードの港湾地帯。付近に民家などはなし、警備員もグル、もしくは本当に何も知らされていないただの民間人のどちらか」
「ふむ……取り引きの際に敵が配置するであろうポジションは?」
沙羅は地図にペンを走らせながら言う。
「まずはヤード出入口。倉庫に向かうまでの道だね。たぶん表立って目立つようには立てない。コンテナの影が有力かな……おそらくツーマンセル。同時に処理しないと面倒だと思うよ」
次にペンを走らせたのはコンテナクレーン。
「それから、倉庫の出入口とそこを見下ろせるコンテナクレーン。スナイパーを置くならここ。外からの不審な動きも見えるからね。後は岸壁だね。積荷を下ろす時に配置すると思う。これくらいかな……間違ってたらごめんね」
「いや、沙羅による敵の配置予想が外れたことはない。おそらくこれが最適解だろう」
芽衣は腕を組み。全員に告げる。
「1週間後、我々は全てを終わらせる」
芽衣の言葉が事務所に響いた。




