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第3話

 時は流れて昼休み。俺は謙也と共に昼食を取る為に屋上に来ていた。ウチの学校は休み時間と放課後に屋上が開放される。花壇やベンチ、ガゼボと呼ばれる東屋もあり休み時間と放課後は生徒で賑わっている。偶に生徒と先生がお茶会をやっている様子も見られる。

 俺と龍崎は、手近なベンチに腰掛けると昼飯を広げた。


「相変わらずデカい弁当だな……」


「そうか?高校生なら普通だろ」


「普通はそんな食わねぇよ。お重じゃねーか」


 1段目にはこれでもかと程に米が詰まっていた。2段目には大量のおかず。見てるだけで胸焼けしそうだ。


「そういうお前は愛妻弁当か?いいねぇ。妬けるぜ」


「そういうのじゃねーよ。交代制で作ってて偶々アイツの日だっただけ。前にも言ったろ」


「悪いな。タックルのしすぎですぐ忘れちまってな」


「くっだらねぇ」


 雑に返答しながら弁当を口にする。今日も美味いな。また腕を上げたようだ。負けてられないな。


「そういえばよ」


「なんだ」


「交流会あるじゃん」


「あぁ」


「今年は行くのか?俺は部活の新人勧誘のために昼は行くけど」


「ん〜、どうだろ。去年は強制だから行ったけどなぁ。今年はもういいかな。飯食い放題はありがたいけど、態々俺のことを異端視してる奴らにプライベートの時まで会いたくない」


「行かないのか。てっきり神崎さんと行くのかと」


「なんで?」


「いつも一緒にいるから」


「はぁ……俺にもアイツにもプライベートってものがある。それに今回は生徒会での参加だ。俺みたいに暇じゃないだろうさ」


 食べ終えた弁当箱を風呂敷に包んだ後、お茶で喉を潤す。龍崎を見ればまだ食べていた。無限の胃袋かよ。

 今のうちにボスに返信しておくか。スマホを取り出してボスとのチャットを開き、行くことを伝える。


「ご馳走様」


「よく食うねぇ」


「俺達は体が資本だからな。それに食わないとデカくなれない」


「それと筋トレだろ」


「その通り。神山は今もトレーニングしてるのか?」


「そこそこ。趣味程度にな」


「なぁ、ボール投げに行こうぜ」


「マジかよ。時間あるか?」


「いいから。行こうぜ」


 コイツは一度決めると中々意見を曲げない。仕方ない。久々に付き合ってやるとするか。2人で階段を降りていると1人の女子生徒とすれ違った。黒い髪に金のメッシュの入った生徒は電話をしながら何か話しているようだった。


「今の生徒見たか?」


「あぁ、見たけど。それが?」


「お前知らないのか?今の"如月 杏梨"だぞ!」


「誰だよ」


「モデルだよ!モデル!全国の高校生のファッションリーダーだよ。この学校にいるのは知ってたけど、生で見るのは初めてだ。サイン貰えるかな」


「無理だろ」


「そんなのわからないだろ?一か八か行ってみようぜ」


「俺はパス。なんかあの人性格キツそう」


「バッカお前。そこがいいんだろうが。人には簡単に媚びない性格。最高だ」


「俺はお前が心配だよ」


 感激している龍崎を放置して階段を降りる。そんなにいいかね、あの人。少なくとも俺は今日初めて名前を知ったし、雅の方が何倍もいいと思うが……ま、個人の好みだし口出しは辞めとくか。


「ボール触りに行かねーのか」


「行く行く。待ってくれよ」


踊り場で待っているとようやく龍崎が降りてきた。サインは……ダメそうだ。


「サインは?」


「それが見失っちまった。ちくしょー。折角のチャンスだったのに」


「それにしても、芸能科の人間がこっちに来るのは珍しくないか?」


「そう言われればそうだな。基本芸能科は、いざこざが起きないように別校舎だし……なんかあったのかもな」


「俺達が首を突っ込むことじゃないだろうよ」


 そう返答したタイミングで、チャイムが鳴った。鳴ってしまった。


「時間切れだな」


「そうだな。夏輝とのパス練はまた別の日か」


「やめろやめろ。ただのボール遊びだ。練習にすんな。それよりも早く戻らないとヤバいかも」


「それもそうだ。急ごう」


 俺達は、渡り廊下と階段をダッシュで移動し、なんとか授業に間に合ったのだった。


 最後の授業である6限目。俺は教師の話を聞く気にもなれず、ボーッと外を見ていた。ちょうど俺達の教室からは、屋上が見える。そこを見ていると1人の影が見えた。目を凝らして見てみれば、昼休みにすれ違った黒と金のメッシュの髪をした女生徒のようだった。何やらまた電話をしているようだ。サボりか?まぁ他人の成績がどうなろうか知ったこっちゃないが。

 机に視線を戻すと一枚のメモ用紙があった。中を見ると


『夏輝君、集中してください。またよそ見をしていたらおはなしですからね。栞』


 教壇に立っている教師を見ると、一瞬目が合った。少なくともその目は、実の弟に向ける目ではないと思うぞ。栞姉。今、俺達の教室で教鞭を取っているのは実の姉、長女の"神山 栞"である。そのおっとりした雰囲気と性格から生徒の人気は高い……が一つだけ表に見せない欠点がある。それはまぁまた追々。

 教務終了後、栞姉に呼び出された。


「なんでしょうか」


「さっきの授業ちゃんと聞いてた?」


「一応」


「それって聞いてなかったってことでしょう?」


「……」


「目を逸らさない。もうしょうがないわね。帰ったらもう一回説明してあげるから、今度はちゃんと聞いてね」


「わかりました」


「よろしい。じゃあ気をつけて帰ってね。今日はバイト?」


「どうだろう。伯母さんから呼ばれはしたけど具体的なことは何も」


「そう。玲ちゃんも雅ちゃんも遅くなるだろうし、私が夕食の用意しておくわね」


「助かる。それじゃあまた」


 栞姉に、軽く手を振って教室を出る。それにしてもボスはどうして呼び出しをしたのか。しばらく仕事はないって言ってんだけどな。そう思いながらアルバイト先への道のりを行くのだった。

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