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第二章 第4話

「呼ばれたから来たぞ!夏輝!」


 数分後、中庭には夏輝と雅、杏梨、それから謙也の姿があった。


「悪いな。ちょっと仕事で立て込んでててな」


「いいよいいよ。それで?夏輝の後ろにいる人は?」


 謙也は、夏輝の後ろでフードを深く被った杏梨を指差す。夏輝は無理矢理、杏梨を前に押し出すと言う。


「俺の知り合い。お前に会ってみたいって」


「へぇ〜……どうも。俺、龍崎 謙也って言います。よろしく」


 自己紹介と共に右手を差し出す謙也。しかし杏梨が動くとはない。夏輝は杏梨に耳打ちする。


「おい……なんか返事してやれよ……アイツ困ってるだろ」


「………」


「夏輝……俺この人になんかしたかなぁ……」


「いや、お前は100%悪くない」


 固まる杏梨に豪を煮やした夏輝は、フードを下ろすと正体を明かす。


「コイツが今回の依頼人。如月杏梨さん」


「は?」


 次は謙也が固まる番であった。それもそのはず。なぜなら友人が紹介した人物が、今中高生の間で最も人気のある芸能人なのだから。


「は?え……?ちょっと待ってくれ夏輝。頭が追いついてない」


「じゃあ飯食いながら追いつかせろ。俺はもう腹が減って限界だ」


 夏輝はガゼボへ向かうと椅子に座りテーブルに弁当を広げた。


「龍崎君。私達も行きましょう?説明はそこでするから……」


「……わかった」


「杏梨ちゃんもとりあえず行きましょう」


 雅は杏梨の手を引きガゼボへ向かう。その後ろを謙也がついて行く。3人はガゼボに着くと各々座る。夏輝の隣に謙也。向かいに雅、杏梨と並んでいた。

 謙也が夏輝に詰め寄る傍、杏梨は内心パニックであった。それもそのはず。いくらクールビューティーともてはやされても所詮は年頃の女子高生。恋愛の一つや二つ、好きな人の1人や2人できるものである。一つ計算が違ったのは、仕事仲間が好きな人との関係を密接に持っていたこと。ギブアンドテイクの関係としては良かったものの、こんな状況は想定外である。杏梨は嬉しさ半分恨み半分の感情を夏輝に向けていた。


「ってのが今回の内容。まぁ、守秘義務とかあるから結構簡略化したけど……コレ誰にも言うなよ」


「わかってるよ。それにしても大変なんだな……芸能人も……」


「まぁ不特定多数に見られるからなぁ……」


「でも今回の件はやりすぎだな。如月さんが可哀想だ」


 謙也は杏梨を見るが、返答はなかった。


「それにしても、なんで如月さんは態々、俺に会いたいなんて言ったんだ?」


「それは……本人から聞いた方がいいんじゃね?」


 その言葉に杏梨はわかりやすく動揺していた。"そもそも会いたいなど言っていない。お前が勝手に呼んだだけだろう"と言いたい気分であった。


「如月さん……」


「な……何……?」


 顔を背けて返事をする杏梨。雅はその様子を温かい目で見ていた。


「無理に言わなくていいんだけど……どうして俺に会いたいって言ってくれたの……」


「!」


 杏梨の頭の中で、謙也の言葉が反芻する。理由?理由とは?そもそも目で追いかけることしか出来ずにいたのにいきなり鉢合わせになるなんて……あぁ……でもちゃんと答えないと失礼だろうし……なんて言えば……好きだから……?直球すぎるし恥ずかしすぎて死ぬ……一目惚れしたから……もっとダメ……!あぁ……どうしようどうしよう……

 錯乱した杏梨は衝撃の一言を放ったのだった。


「貴方に……一目惚れしたから……」


「え?」


 杏梨の顔はリンゴのように真っ赤であった。夏輝はどうでも良さそうな顔だったが、雅は口に手を当て目をキラキラさせていた。年頃の少女である。


「はっ……!今……私……」


 杏梨が恐る恐る謙也の顔を見ると、謙也も固まっていた。


「わ……私!教室に戻るから!」


 杏梨は顔を赤くし、目に涙を浮かべながら走り去っていった。


「あっ!待って!杏梨ちゃん!どうしよう夏輝君!」


「どのみち昼休みは終わりだ。今はそっとしておいてやれ。俺は謙也をいじめる方が楽しい」


 夏輝は謙也を見て告げる。


「良かったな。色男。憧れの如月杏梨に惚れられてるぞ?」


「いや……えっと……理解が追いつかない……」


「喜べよ。悪いことじゃないんだからさ。もう一度よく考えるといい。それからアイツの言葉に向き合ってやれ」


 夏輝は謙也の肩を叩くと続ける。


「とりあえず戻ろうぜ。もう時間もねぇし……遅刻して怒られるのは勘弁だしな」


「お……おう……そうだな……」


「ちゃんと考えろよ」


 夏輝達は連れ立って、校舎の昇降口へ向かう。謙也は未だ何やら考え込んでいるようであった。


「あ。わりぃ……俺、中庭に忘れ物した。先に戻ってくれ。もし先生になんか言われたら……うまく誤魔化してくれ」


「え?ちょっと!夏輝君!」


 雅の呼びかけも無視して中庭に戻る夏輝。中庭に到着すると、ガゼボの向かいにある茂みに向かって歩く。夏輝は茂みに手を突っ込むと中にあるものを無理矢理引っ張り出した。


「よぉ、盗撮犯。ようやくお目にかかれたな」


「ひぃっ……!」


 夏輝が引き摺り出したのは、中年の男であった。


「さっきから気になっててよ。風なんて吹いてねーのにやけに茂みが動いてるなって。それになんか光ってたからな。わかりやすいぜ?アンタ。とりあえず来てもらおうか」


 夏輝は男の襟首を掴むと乱雑に引きずって行く。本来なら目立つところではあるが、昼休みも終わり5限目が始まる直前である為、夏輝を見る者はいなかった。旧体育倉庫に向かう途中、芽衣に盗撮犯を捕まえたことを報告する。


"盗撮犯捕縛したけどどうする?"


『尋問し、情報を引き出せ。データやカメラ類は私が押さえる』


"了解"

 

 夏輝は 男をマットの上に乱雑に投げると、扉を閉める。夏輝の目つきは鋭い。


「さてと……なんであんなことしてたのか全部吐いてもらおーか。生憎、人の口を割らせるのは仕事で慣れてるんでな。ちゃんと正直に答えた方がアンタの為だぞ?」


 夏輝は倉庫内にある木製バットを素振りすると男に言う。


「俺もなるべくアンタには自分の口で言ってほしくてさ。手加減とか苦手なんだよ」


 夏輝は震える男の肩にバットを載せると告げる。


「だからさ……とっとと知ってること全部吐け」


 その声は冷たく男を更に震え上がらせるには十分であった。夏輝による男の尋問が5限目を知らせるチャイムと共に始まろうとしていた。

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