第二章 第1話
交流会での事件から数日後、これといった大きな事件もなく夏輝は平穏に過ごしていた。ある日の昼休み、いつものように謙也と昼食をとっていた時のこと。
「夏輝……交流会の時に晴黒先輩をフルボッコにしたって本当か?」
「……ノーコメントだ」
「やっぱり夏輝なんだな。俺も夜の部に行けば良かったぜ。見たかったなぁ、夏輝無双。見たか?SNSの動画。顔は暗くてよくわからなかったけど、あの服装は夏輝に間違いないだろ!」
「勝手に言ってろ」
謙也からの質問を適当に流していると、ポケットに入れてあるスマートフォンが震えた。取り出して画面を見てみるとメッセージの通知が。発信者は"情報屋"であった。
「如月か……なんの用だ……?」
メッセージをタップし内容を確認する。書かれていた内容は"今日の放課後、校舎裏に来て。伝えたいことがある"とのことであった。
「今日か……まぁバイトもないし行けるっちゃ行けるな」
夏輝は素早く"了解"と返信するとスマートフォンをしまった。
「なぁ、今誰と連絡取ってたんだ?」
「誰でもいいだろ。んなことより、もう時間がヤバいぞ。さっさと教室に戻ろう」
「え〜……教えてくれよ〜」
すがる謙也を無視して夏輝は教室へと戻るのであった。
時は流れて放課後。帰宅準備をする夏輝の元に1つの影が落ちた。影の主を見れば雅が立っていた。
「夏輝君、帰りましょ?」
「あ〜……悪い。ちょっと人に会う約束があってだな……先に帰っててくれ」
「ふ〜ん……それって私がいるとマズい?」
「う〜ん……マズくはねぇけど……」
どこか歯切れが悪い夏輝。雅はさらに畳み掛ける。
「もしかして女の子?」
「うん……まぁ……」
「どこで会うの?」
「校舎裏……」
その時、雅の脳内には電流が走った。"夏輝君は無自覚なだけでかなり整っている。ましてや前回の交流会の事件の時に夏輝君の良さに気づいた子がいてもおかしくない……!そして校舎裏への呼び出し!これは……告白……!"
この間僅か0.5秒である。
「私もついて行く」
「いや……ダメだって……」
「どうして?私がいてもマズくはないんでしょう?だったらいいじゃない」
「でも……」
尚も夏輝が食い下がっているとスマートフォンが震える。画面には1通のメッセージ。内容は"まだ?"の一言。夏輝は大きくため息を吐くと雅に言う。
「来てもいいけど何も言うな。誰にも言うな。いいな?」
「わかった」
夏輝は雅を連れて、芸能科の校舎裏へと歩みを進める。2人の間に会話はなかった。
夏輝は向かいながら情報屋にメッセージを飛ばす。
"悪い。余計なのがついてきた"
帰ってきたメッセージは、"件の幼馴染?別に構わない"とのことだった。夏輝は胸を撫で下ろす。
歩くこと数分。2人は芸能科の校舎裏へと到着した。
「来たぞ。それで、何かあったか」
夏輝は木にもたれかかっていたフードを被った女子生徒に話しかけた。女子生徒は夏輝に向かい合うとフードをとって告げる。
「遅いわ。前回会った時も遅刻したわね。貴方時間にルーズなタイプだったかしら」
「えっ……?」
雅が驚くのも無理はない。なぜなら今、目の前に立っているのは今をときめく売れっ子モデル。"如月 杏梨"であったからだ。雅はたまらず夏輝に聞く。
「夏輝君、如月さんとはどういう関係なの?」
「それはだな……」
答えようとする夏輝の言葉を杏梨が遮る。
「私が言うわ。私と彼は切っても切れない関係なの」
「えっ!?えっ!?」
「語弊のある言い方ヤメろ」
「事実でしょう?」
「そうだけど……!もっとこう……言い方あるだろ……!」
杏梨に苦言を呈する夏輝に対し雅は混乱していた。
「切っても切れない関係ってことは……お付き合いしてる……ってこと……?ウソ……だよね……?だって、そんな素振りなかったし……女の子の影なんて……」
「貴方、彼が仕事のことをどれだけ悟られずに過ごしていたのか覚えている?」
その言葉にハッとする雅。杏梨はさらに続ける。
「ねぇ"夏輝"、私達の間柄に"愛"はあるのかしら?」
「ねぇよ!ただの利害関係だろうが!ややこしくなるからお前はもう喋んな」
「あら、フラれちゃったわ」
「マジで黙ってろ。謙也にお前のこと全部バラすぞ」
「それはやめて」
ガチトーンの返答であった。
「じゃあちょっと静かにしてろ。いいか、雅。俺とコイツはそんな関係じゃない。ただの情報屋だ」
「情報……屋……?」
キョトンとする雅に夏輝が説明する。
「そうだ。仕事において必要な情報を依頼して調べてもらってる。芸能界は闇が深いからな。前の交流会の時もコイツの情報が随分役に立った」
「アッサリバラすのね。つまらないわ」
「うるせぇよ。それで何用だ?」
杏梨は夏輝と雅を交互にみると言う。
「端的に言うわ。近々、貴方達に依頼を出すわ。内容は……」
「内容は?」
「私の身辺警護よ」
夕暮れの日差しが校舎裏にいる3人を眩しく照らしていた。




