第一章幕間 第5話
社用車納車から数日後、事務所に全員が揃ったタイミングで芽衣が告げた。
「あの社用車の愛称を考えたい」
「愛称……愛称か」
「そうだ名前があった方が愛着湧くだろう?」
「まぁな。でも急に言われても難しいぞ」
「そうだろう。だから全員で考えてもらう。ちなみに私はもう考えてあるぞ」
自信満々にそう告げる芽衣だが他のメンバーは冷たかった。
「却下だな」
「却下ですわね」
「却下……かな……」
「どうしてだ!?」
思わず机を叩き立ち上がる芽衣。夏輝は歯に衣着せぬ物言いで芽衣に告げる。
「ボスはネーミングセンスねーじゃん」
「そんなのわからんだろう?」
「ならば一度聞かせてもらえますか?」
累がそう聞くと芽衣は待ってましたとばかりに腕を組み、自信満々に言う。
「ふふん。聞いて驚け、『黒豹丸』だ」
「ほらみろ」
「センス……ないね……」
「前衛的すぎますわね……」
他のメンバーからの評価は散々である。豪を煮やした芽衣は他のメンバーを見て叫ぶ。
「そういうお前達はどうなんだ!累!」
指を指さされた累は顎に手を当てて少し考える素振りを見せると、紅茶を一口飲んで告げた。
「そうですわね……ブラック・スワン……なんてのはいかがでしょう?」
「なんかバレエの演目にありそうだな」
「それに……優雅……だね……」
「私の時と反応違いすぎないか?」
芽衣は不服そうな物言いだ。続けて夏輝は沙羅に問う。
「なら沙羅先輩は?」
「難しい……ね……」
沙羅はしばらく考え込むとおずおずと言う。
「バーサーCARとか?」
「まさかの洒落」
「お客様からのウケは良さそうですわね」
「私はお前達の判断基準がわからん」
またも芽衣の嘆きが響く。芽衣は最後のターゲットである夏輝の方を向き言った。
「最後はお前の番だぞ。夏輝」
「俺ぇ?普通に思いつかねぇな……」
「逃がしはせんぞ」
そう告げる芽衣は典型的なパワハラ上司のようだった。
「いや語気強。ん〜……とりあえず助っ人呼んでいい?」
「助っ人?」
「うん。たぶん俺達より圧倒的に感性がまとも」
「ほぅ……呼んでみろ」
腕を組み、顎を上げた状態で見下したように告げる芽衣。そんなものお構いなしに夏輝はある人物にコンタクトをとった。数分後、事務所に雅が召喚された。
「何があったの?夏輝君。力を貸して欲しいって」
「実は……」
夏輝は先ほどまでの流れをかい摘んで説明する。もちろん芽衣のセンスの無さも合わせて。それを聞いた雅は少し考え込むと言った。
「はい!思いつきました!」
「ほう。言ってみろ」
「言い方と顔つきがパワハラすぎる。無惨様かよ。関係あるとは言え一応"民間人"だぞ」
そんな芽衣の態度もお構いなしに雅は言った。
「ブラック・ベティーなんてのはどうでしょう」
「この詰められ方で堂々と言える度胸よ……でもいいんじゃね。ソレ」
「なんだかしっくりきますわね」
「ベティー……可愛い……」
「満場一致だな。じゃ、コレで」
「クソぅ……何故私の美学を誰もわかってくれないんだ……」
芽衣は四つん這いになると床を叩く。
「いや……だってボスは、地下のトレーニング用ドロイドの命名の時も却下されてたじゃん?」
「今のネーミングが夏輝君のものですわね……確かあの時に芽衣さんが発案したのが……」
「なんだったっけ……crazy fighter だっけ……?」
「それですわ」
「やっぱボスはネーミングセンスねーよ」
「そこまでハッキリ言わなくてもいいだろう!?」
「わ……私は個性的でいいと思いますよ……?」
夏輝は雅の肩に手を置くと首を横に振りながら言う。
「雅……心にもないフォローはやめとけ。余計に相手が傷つく」
「えっ……?」
「事実を言ってくれてありがとうね!夏輝!それはそれとして減給だからな!」
「解せぬ……」
その日は珍しく芽衣の悲痛な叫びが事務所に響くのであった。なお夏輝の時給は一定期間、本当に減額された
第一章の幕間が完結いたしました。明日より第二章が始まります。お楽しみに……




