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第18話

 後日、晴黒達と侵入者の末路が知らされた。


 まず晴黒一味。取り巻きの4人は退学処分。それから過去にも色々と犯罪に加担していたようで少年院は免れないらしい。主犯格の晴黒は退学処分の上、少年刑務所行きとなった。集団犯罪の主犯格だったのもあるが、銃刀法違反、恐喝、売春斡旋なんかもやってたからなぁ……ま、自業自得だろう。

 次に武装集団。彼らは晴黒の親が自身の子会社を通じて密入国させた暗殺者グループだった。もちろん密入国だからパスポートなんてないわ、銃火器持ってるわで、1発アウト。即刻強制送還か日本の法で裁くらしい。『外交問題に発展するかもな』とはボスの談である。

 それから晴黒の会社だが……子会社含めて、警察に踏み込まれた。そしたら出てくるわ出てくるわ。政治賄賂に密輸した薬物、武器、脱税の証拠もあったらしい。『国税局も忙しくなるなぁ』とはボスの談である。

 ボスはどんなパイプ持ってんだか……雅にこのことを話しながら歩くこと20分。到着したのは"Perfect Clearing"の事務所であった。なぜここに来たのか。理由は簡単で芽衣が連れてくるように言ったからである。


「ここが、俺のバイト先」


「失礼します……」


 俺がドアを開けるとおずおずと事務所に入る雅。そんなに怖がらなくても……お化け屋敷じゃないんだからさぁ……


 中に入れば、いつもの3人が待っていた。


「ようこそ。Perfect Clearing へ。私が執行責任者兼夏輝の上司の柏木 芽衣だ。よろしく頼む」


 芽衣が差し出した右手を握り返す雅。少し緊張しているようだった。


「神崎 雅 です。よろしくお願いします」


「こちらこそ、そしてこっちが……」


「この会社の経営補佐をしております。赤城 累と申します。よろしくお願いいたしますわ」


 累さんは優雅にカーテシーを行う。やっぱり、上流階級出身ってだけあって動作の一つ一つが丁寧だ。


「それからこっちが……」


「雨宮……沙羅です……あの……よろしくお願いします……!」


 沙羅先輩は、大きく頭を下げる。頭取れそうなくらいの勢いだったんだけど……大丈夫かな……


「そして最後に……」


 ボスは俺を指差す。俺もやるのか……


「俺いるぅ?」


「ここの従業員だろう?お客様に挨拶するのは当然だといつも言っているはずだが?」


 腕を組み俺を見つめるボスの目は鋭い。


「わかったよ……」


 俺は雅に向き直ると改めて告げる。


「Perfect Clearing 所属。現地特派員兼フィールドエージェント。暴力担当の神山 夏輝 です。以後、お見知り置きを」


「ふふっ……よろしくお願いします」


「なんか小っ恥ずかしいな……コレ……」


 俺がなんとも言えない感情になっているとボスが言う。


「とりあえず座るといい。立ち話もなんだからな」


 応接用のテーブルを見れば既に湯気の立つ紅茶が用意されていた。おそらく累さんだな……いつの間に……雅の対面に座るとボスが告げた。


「以上がウチの従業員だ。ウチの信念は3つ。1つ、手は主人に仕える為のものであり、汚すものではないこと。2つ、どんな依頼にも手を抜かないこと。3つ、不殺を必ず守ること。以上だ。何か聞きたいことは?」


 雅は少しだけ首をかしげ、質問する。


「でも……あの、どうして私をここに……?」


 芽衣は紅茶を口にしてから、穏やかに微笑んだ。


「簡単さ。理由は三つある。ひとつは――君が当事者だから。晴黒の一件で、君も戦いの現場に居合わせた。ならば我々の活動について、もう少し深く知っておく必要がある。君が知りたいのならば……だが」


 「……はい」


「ふたつめ。君は夏輝にとって特別な存在だからだ」


 その一言に、雅の目がわずかに見開かれるが……夏輝は依然、飄々としていた。


「あの……私は別にそんなんじゃ――」


「本人が気づいてるかどうかは関係ありませんわ」


 累が優雅に紅茶を口に運びながら、穏やかに微笑んだ。


「神崎さん。貴女は、これからも夏輝君と関わっていくことになるのでしょう?ならば――貴女が、私たちの信念や覚悟を知ることは重要なことですわ。もちろん、そんなもの知らないと突っぱねるのも1つの手です。ですがそれが良くないことだと1番わかっているのは貴方様だと思いますわ」


 沙羅も、控えめながら頷いた。


「……私も……知っててほしいです……私たちのこと。それに……私は……貴女の事も知りたい……です」


「……ありがとう、ございます……」


 雅の表情が少しだけ緩む。紅茶に視線を落とし、ほんの一口だけ口をつけた。


「……美味しいです」


「当然だ。我々のおもてなしに手抜きなどない」


 芽衣が軽く頷き、最後に視線を夏輝に向けた。夏輝は依然つまらなそうに欠伸をしている。


「そして三つめ。これは私の独断だが――」


 芽衣は、まっすぐ雅を見つめる。


「もし君が、夏輝の隣にいる未来を望むのであれば。君にも、それなりの覚悟が必要だ。私たちは――決して、平穏無事な世界に生きているわけではない」


 重い言葉だった。けれど、雅は逃げなかった。むしろその言葉を、まっすぐ受け止めるように頷く。


「私は……もう隠し事をされるのは嫌です……ましてや以前のような状況で夏輝君が知らずに死ぬのはもっと嫌です……だから……教えてほしいです。皆さんのこと、夏輝君のことも」


 その言葉に、芽衣は一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。


「……いいだろう。神崎雅、君を“外部協力者”として認めよう」


「え……あの、協力者……ですか?」


「夏輝の仕事に関わることは、当然ながら機密事項も含む。許可なき関与は危険も多い。だが……信頼できる者に対しては、最低限の情報共有は必要となる。そういう立場だ」


「俺は反対なんだけどな……」


 そう告げる夏輝に芽衣が詰める。


「誰のせいでこうなったと思ってるんだ?誰かさんが隠し事なんてしなければこうはならなかったと思うがねぇ?」


「えぇ……でも普通言えなくね?命のやり取りしてますって」


「お黙り。良くも悪くも彼女が目の届く範囲にいるのは、お前にとってもプラスだろう?」


「まぁ……な」


「ならば彼女は我々にとって必要な人物だ。神崎 雅。我々は君を歓迎するよ」


「……ありがとうございます。これから、よろしくお願いします」


 その時、累と沙羅、そして夏輝が芽衣の後ろに立つ。

芽衣は立ち上がり、雅に目を合わせて礼をすると告げる。


「では改めて……我々、《Perfect Clearing》と申します。掃除から護衛まで、なんなりとご用命を」


 静かな事務所に、その言葉が凛と響いた。

 そして神崎雅は――その言葉に、ゆっくりと頭を下げた。


「……はい。よろしくお願いします」


 俺は雅がこちらの世界に踏み込もうとしたことで彼女に危険が迫るのではないかと複雑な心境であった。それでも――彼女をこの世界に引き込んだのは、俺なのだ。ならば彼女を守るべきなのは……俺しかいない……例えこの"命"と引き換えになろうとも……俺は雅の顔を見ると新たに誓うのであった。

これにて第一章が完結いたしました。この後、幕間を挟んだのち第二章へと続きます。

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