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第16話

 累が北側渡り廊下で戦闘しているのと同時刻。南側渡り廊下には、同じく武装した黒ずくめの男達が廊下を進んでいた。北側と違うのは人数と所持武器。北側の人数が10人程だったのに対し、南側は20人程。これは北側が囮、南側が本隊の為である。また所持武器も北側部隊が小さく取り回しのしやすいSMGであるのに対し、南側部隊は口径の大きく威力の高いアサルトライフルを"全員"が所持していた。


 先頭を歩くリーダー格の男が、廊下に1つの影を見つける。


「止まれ」


 ハンドサインで散開、互いが互いをカバーできる様に配置させる。月明かりに照らされ、男達の目に映ったのはフレンチスタイルのメイド服に身を包んだ沙羅であった。


「子供か?どうしますか。このまま逃しますか?」


「いや……目撃された時点で厄介だ。せめて痛みを感じない様に葬ってやれ」


「わかりました」


 部隊の男の1人が、近づいていく。


「悪いな、お嬢ちゃん。俺もこんなことはしたくないんだが……こっちも仕事でな。恨まないでくれよ」


 男がそう言いながら、俯いている沙羅の正面に立つ。最後にどんな顔なのか見てやろうとしゃがんで視線を合わせると、沙羅の口が動く。


「…………ないで………ゃう………」


「うん?なんだ?お嬢ちゃん。最後の遺言かい?」


 耳を近づける男に沙羅は小さな声で、でもハッキリと告げる。


「近づかないで……!皆……皆、壊しちゃうから……!」


「は………?……うっ!」


 呻き声と共に男が崩れ落ちる。それを見ていたリーダーが言う。


「どうした!何があった!」


 男からの返答はない。代わりに聞こえるのは"ジャラジャラ"と鎖の様な音。


「全員!構えろ!」


 男達が銃を向ける先には、2挺の鎖に繋がれたSMGを持つ沙羅が立っていた。瞳孔は開き、破壊衝動が顕著していた。今度はハッキリと男達に言う。


「近づかないで……!これ以上……!でないと……全部…壊しちゃう……!」


「撃て!」


 その一言で廊下に銃声が響く。沙羅は素早く距離を詰めると左右のSMGで1人ずつ腹を撃ち抜く。そのまま正面の男に近づき、アサルトライフの銃口をギリギリで回避するとそのまま飛び上がり膝蹴りを相手の顎に喰らわせる。


「ぐっ……!」


 倒れる男を足場に壁に跳躍、壁を蹴り反対の壁側へと空中機動するとそのまま一気に4人の眉間を撃ち抜く。着地と同時に回転撃ちをし、更に着地点にいた4人を地に伏せさせた。


「安心して……死んではいないから……残りの人数は……9人……」


 その言葉に男達はたじろぐ。体のリミッターを解除した様なあり得ない動き、圧倒的な戦闘力。しかし男達も場数を踏んだプロである。


「2対1を維持しろ!同士討ちに注意するんだ!ペアごとに背後をカバーしろ!」


 その言葉と共にまたも沙羅に向けて銃口が火を吹く。沙羅は素早く回避すると、SMGを1挺、相手に投げつける。戦場において予想外の行動は非常に効果的である。男は突然の投擲に反応できず、モロに顔面で受けるとそのまま倒れる。


「自ら武器を手放すとはな……!舐められたものだ……ぜ!?」


 沙羅がSMGを鎖で引いて戻すタイミングで横から銃を掴むペアの男。しかし男はSMGの重量に耐えられなかった。


「な……!なんなんだ……!この銃!普通じゃねぇぞ!」


「気に入ってくれた……?特別製……だよ……」


 沙羅はゼロ距離で男の腹に弾を撃ち込む。男は何度か跳ねた後、静かになった。


「次は……?誰……?」


 沙羅が履くショートブーツが"カツカツ"と床を叩く。SMGに繋がれた鎖が"ジャラジャラ"と鳴る。男達にとってその音は"小さな死神と命を狩る鎖鎌"の音だった。


「リーダー……どうします……このままじゃ損害の方が大きいですよ……」


「やむを得ん……撤収だ。クライアントに連絡を取る。北側と合流し態勢を立て直す」


 男達は背を向け、撤収を始める。それぞれが引き撃ちをする事でカバーし合っているあたり、本当に手練れのようだ。だが沙羅には関係なかった。


「逃がさないよ……全部掃除して……綺麗にしないと……」


 沙羅はまたも壁を足場にし跳躍する。


「同じ手にかかると思うなよ!」


 1人の男が沙羅に照準を合わせ、引き金を引こうとすると何かが飛んでくる。顔に受けた男はそのままのけ反り後ろに倒れる。近くに転がっていたのはSMGのマガジンであった。


「マガジンを投げたのか……!小賢しい小娘め!」


「リロード……完了……」


 沙羅は空中で新しいマガジンを差し込み、特殊改造を施したワンタッチトリガーで装填。着地すると更に追撃を行う。男2人に狙いを付けると跳躍。頭上を飛び越し後頭部に銃撃する。


「ぐっ………!」


「がっ………!」


 男2人が倒れたのを確認した沙羅は呟く。


「もう片方もリロードしないと……」


 片方のSMGで軽く弾をばら撒きながら、もう片方のSMGからマガジンを抜くと本体を上に投げた。メイド服のスカート内から新しいマガジンを取り出し、そちらも投げる。先に投げた本体をキャッチし、マガジンを本体で受け止めると、ワンタッチトリガーで装填する。


「完璧……いくよ……!」


 残りは4人。もはや彼らは蛇に睨まれたカエルであった。沙羅は3人を素早く片付けるとリーダー格の男に肉薄する。


「終わらせるよ……!」


「舐めやがって……!」


 男は近接戦と判断するとアサルトライフを背に回し腰から特殊警棒を取り出すと、沙羅に向かって振り下ろす。沙羅はSMGで受け止めると、一旦距離を取る。


「面倒……だね……」


「聞いた事がある……メイド服を着た凄腕の集団がいると……お前達がそうか……!」


「貴方には関係ないよ……負けるから……」


 沙羅は男との距離を急速に詰める。男が横薙ぎに振るった警棒をスライディングで回避すると、ガラ空きになった土手っ腹にフルオートで弾を撃ち込んだ。男は声も出さずに倒れた。


「ふぅ……終わりかな……ちょっと疲れちゃった……そうだ……ボスに報告しないと……」


 沙羅は無線を芽衣に繋ぐ。


「こっちは終わったよ……次のお仕事はある……?」


『いや、北側も終わったようだ。累と合流してこちらに戻ってこい』


「わかった……すぐ向かうね……」


 沙羅は通信を切り、SMGをスカートの中にしまうと呟く。


「お掃除終了……頑張った……私」


 沙羅は累と合流する為にトテトテと走り去っていった。

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