第10話
会場が開かれると、新入生を含む参加者が続々と入ってくる。周りを見回している新入生が初々しい。俺達も去年はあんな感じだったな。
現在俺達は会場の壁際に並んでいる。一年生の頃から異端児を見るように見られていたがやっぱりジロジロ見られるのは慣れないモノだ。
そう思っていると食堂内に設置された簡易的なステージの上に学園長がいた。というか進行姉貴かよ。大丈夫か?
「それでは、学園長より挨拶をいただきます」
「皆様。本日はよく来てくれました。長い挨拶は抜きにして簡単な挨拶のみ行います。新入生の皆さん、本日は大いに交友を深めるように。交友が広がればそれだけ自分の選択肢が増えます。上級生の皆さん、決して新しい芽を威圧しないように。貴方達もまたここで新たな繋がりを得られますように。以上を挨拶とします」
会場から拍手が起こる。
「続いて生徒会長より挨拶です」
続いて壇上に上がってきたのは爽やかフェイスの男子生徒。ウチの生徒会長だ。姉貴からよく話は聞くし実際に話したこともあるけど、どうも押しに弱く生徒会長ではあるものの裁量権は気の強い姉貴のほうが大きいらしい。それでいいのか生徒会長。
「え〜っと、生徒会長の"親鸞 司"です。皆僕の長い話なんて聞きたくないだろうから簡潔に。皆、楽しんで。今回から夜の部があるらしいから、参加できる人は参加してほしいです。以上」
またも大きな拍手が起こる。あ、姉貴にシャンとしろってどつかれてる。それでいいのか生徒会長。(2回目)
「それではそれぞれ自由に行動してください。友達と話すも良し、何か食べるも良し、先輩方から学園生活のことを聞くも良し。交流会のスタートです」
姉貴の掛け声でそれぞれ動き始める。新入生はどうしていいのかわかっていないようだが、1人また1人と動くと1人で或いは友人や先輩と共に会場内に散らばっていった。
『よし。仕事を始めろ』
インカムからボスの指示が飛ぶ。俺達も別れて会場内を動き回る。最初は、あまり仕事がないから生徒の観察からになる。会場を歩き回っていると、後ろから肩を叩かれた。振り向けばそこには玲が立っていた。親指で会場の裏に来いと言っている。
「ボス、少し外す」
『何があった』
「姉貴から呼び出し」
『ククク、行ってこい』
どこか姉貴に連れられ会場の裏へ。
「それで?それが仕事着?」
「まぁ、一応」
「ふ〜ん……」
そういうと姉貴は、ジロジロと全身を見てくる。俺は少し姿勢を動かし、警棒とホルスターを隠す。
「サマになってるじゃん」
「そりゃどーも。で、こっちなんとかしてくれんか?」
俺が指差す先にはスマホでシャッター音を鳴らす栞の姿があった。
「仕事着の夏輝君カッコいいー!目線下さーい!」
「撮影会じゃねーんだぞ!」
「諦めろ。本来なら一眼レフ持ってこようとしてたくらいだから。なんとか説得してスマホに留めさせた私を褒めてほしい。いや褒めろ。そして尽くせ」
「理不尽……そろそろ仕事に戻らないとダメなんだけど」
「じゃ、最後に私らとツーショ撮ってよ」
「なんで……」
「いいじゃない。滅多に見られないんだから。雅ちゃんも来ればよかったのに」
「来てないのか」
「お昼の部はね。ご両親と少し出かけるって。夜の部には参加するって聞いてる」
「そうか」
「アンタ。この前私が言ったこと覚えてる?」
「ちゃんと話せってヤツだろ」
「覚えてるならヨシ。じゃ写真撮るよ」
「どうしてこんな目に……」
どうにかこうにか2人と別れた後、仕事に戻る。
「戻った」
『お疲れ。なんか言われたか?』
「特には。写真撮られたけど」
『そうか。大方栞が解放してくれなかったってところか』
「ご名答」
しまった。姉貴に宗森さんと晴黒のこと聞けば良かった。
「ちょっともう一回姉貴のとこ行ってきてもいいか?」
『なんだ?もう一度見せに行くのか?』
「ちげーよ。護衛対象と危険人物について聞きにいく」
『わかった。現在護衛対象は累が見てる。危険人物に関しては今のところ目撃情報なし』
「了解」
返答を受けつつ、スマホで姉貴にメッセージを飛ばす。するとすぐに返事がきた。知らされた場所で再び姉貴と再会した。
「どしたん。聞きたいことがあるって」
「いや。ある生徒2人について聞きたくて」
「生徒?」
「そ。今年の新入生に宗森っていただろ?」
「あぁ。三笠ちゃん?彼女がどうかしたの?」
「えらく親しげだな」
「まぁね。生徒会志望らしいからね。特に雅ちゃんが気に入ってたよ」
「なるほどね。じゃあ3年にいる晴黒ってヤツについては?」
「あのクソ野郎?」
「そこまでなのか」
「まぁね。黒い噂が絶えないのもあるけど、気安く口説いてくるのがホントにムカつく。親の力をあたかも自分の力のように誇示するところとかね。アタシもしつこく言い寄られてた時期があったよ」
「そりゃ初耳だな」
「初めて言ったからね。3年に相手にされないってわかったら次は下の学年を狙い初めたよ。雅ちゃんもしつこく言い寄られてたみたい。私ら生徒会が釘を刺したら現れなくなったけどね」
それを聞いてモヤモヤ感情と言いようのない不安が感じられた。この感情はダメなヤツだ。仕事において私情を持ち込むのは厳禁である。重大な場面で決断が鈍る可能性があるからだ。ましてや下手すれば依頼人の命に関わる可能性もある。
「了解。情報ありがとな。それじゃ仕事に戻るわ」
「はいよ。気をつけなね」
戻りつつある人物に連絡しておく。まだ晴黒本人の姿を見ていないのが気になる。数秒後に震えたスマホの画面には『少し待ってて。昼までには教える』とあった。俺はスマホをポケットに突っ込むと仕事に戻るのだった。




