いざ航海! 海上都市の危機をスキルなしで救え!? 船酔いと魔獣と俺!
「無理無理無理無理無理!! 俺、船ダメなんですってばあああ!!」
海の青さがまぶしい港町、セレリオス。
その波止場で、ヒロトは地面にしがみついていた。
「大丈夫だよ、ヒロト君! ほら、これは普通の航海じゃない! 王都特命任務だからね!」
「その特命って言葉、最近ずっとロクな意味で出てこないんですけどおおおお!!」
数日前――
「君の活躍を聞いてね、ぜひセレリオスの問題を解決してほしいって依頼が来たんだ」
クラウスがそう語ったのは、ギルドでの一幕だった。
「問題ですか?」
「うん。海上都市で起きている怪現象。正体不明の魔獣が、夜になると海底から現れるらしい。被害はまだ少ないけど、探索隊も戻らない状況で……」
「……あの、俺、海に関しては、スキルなしどころか、スキルマイナスなんですが」
「安心して、今回は船に乗るだけだよ! 戦うのはあくまで調査チームと――あ、ルミナさんとレイナさんも同行ね!」
「……また俺だけ、主に振り回される村人枠じゃないですかコレ!!」
そして今に至る。
セレリオス港には、巨大な魔導帆船が停泊していた。
そのデカさは、ヒロトが思い描いていた観光用クルーズ船の三倍。戦艦のようなゴツさを併せ持っていた。
「すごいですね……この船、魔導で動くんですか?」
「ええ。この海域は潮の流れが不規則で、普通の帆では動けませんから」
と説明するのは、船の副艦長にして今回の依頼主――シルヴィア・ネリス。
銀髪に翡翠色の瞳、軍服風の制服が妙に似合っている凛とした女性だった。
「ヒロトさん、初めまして。スキルなしの冒険者にして問題解決請負人と聞きました」
「いやそれ、すっごい誤解と過大評価混ざってます!!」
出航――
「うぅ……船が……波が……俺の三半規管が……グッドバイ……」
ヒロトは早々にデッキの隅でダウンしていた。
「しっかりしてください、ヒロトさん。まだ波止場見えてますよ?」
ルミナが持ってきたミントティーを手渡す。
「ぐっ……この香り……ちょっと復活した……」
「船酔いにも勝てる地味力、さすがです!」
「俺の褒められ方、毎回バグってない!?」
だが、出航から2時間後――
事態は急変した。
「海底から、反応多数接近! 魔力濃度、高めです!!」
船員の叫びと同時に、海面が揺れる。
ズゴォォォォン!!!
巨大な水柱とともに、異形の魔獣が姿を現した。
「な、なんだあれ……!」
それは魚とも蛇ともつかないフォルムで、全身が鎧のような鱗に覆われていた。
まるで、海の中のドラゴン――海魔。
「全艦、迎撃準備! 魔導砲、装填急げ!」
船員たちが慌ただしく動く中、ヒロトはよろよろと起き上がる。
「なんで……俺が乗ったタイミングでこんなのが……」
「それは、フラグ回収スキルがあるからだと思うよ!」
「ないよ!! っていうかあってほしくないよ!!」
「魔導砲、発射!!」
ズゴォォン!!
だが、砲撃は海魔の鱗で弾かれ、かすり傷すら与えられなかった。
「駄目だ、硬すぎる……」
「物理も魔法も通らないのか!?」
ヒロトは立ち上がり、双眼鏡で海魔を観察する。
(この鱗の配置……あれ?)
「シルヴィアさん! 砲撃じゃなくて、あの口の横のえぐれた部分を狙えませんか!?」
「そこ? でもあそこ、狙うには船をかなり近づけないと……」
「近づけましょう! それ以外、効きそうな場所ありません!」
ヒロトは必死に訴えた。
(鱗がわずかに開いてる。潮の流れに逆らってる証拠。あそこは水圧調整のえらか何かだ……!)
「全速前進! 照準を左側えぐれに!」
「いけええええええええ!!」
ズドォォォォン!!
今度の砲撃は、海魔のえぐれに直撃した。
ギャアアアアアアアア!!
耳をつんざくような鳴き声を上げ、海魔は泡とともに海中へ逃げ去った。
船上は、一瞬の静寂の後――
「勝った……!」
「やったああああ!!」
歓声に包まれた。
その夜、ヒロトは船室でシルヴィアに呼ばれていた。
「君があの弱点を見抜いていなければ、今ごろ船は沈んでいたでしょう」
「いや、俺はただ、ちょっと見てて、あそこ怪しいなって思っただけで……」
「それができる人は少ないのよ。スキルで見えるものだけを信じる者には、たどり着けない観察眼だわ」
シルヴィアは微笑んで言った。
「――ありがとう。無スキルの英雄さん」
「やめてぇぇえええええ!! その呼び名、絶対黒歴史になるやつぅぅうう!!」
翌日――
「はあ……陸って最高だなあ……!」
「さすが、陸地型冒険者だね!」
「それちょっとバカにしてますよね!?」
ヒロトはまた一歩、異世界の英雄(?)への道を踏みしめていた――