表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/12

いざ航海! 海上都市の危機をスキルなしで救え!? 船酔いと魔獣と俺!

「無理無理無理無理無理!! 俺、船ダメなんですってばあああ!!」


海の青さがまぶしい港町、セレリオス。

その波止場で、ヒロトは地面にしがみついていた。


「大丈夫だよ、ヒロト君! ほら、これは普通の航海じゃない! 王都特命任務だからね!」


「その特命って言葉、最近ずっとロクな意味で出てこないんですけどおおおお!!」




数日前――


「君の活躍を聞いてね、ぜひセレリオスの問題を解決してほしいって依頼が来たんだ」


クラウスがそう語ったのは、ギルドでの一幕だった。


「問題ですか?」


「うん。海上都市で起きている怪現象。正体不明の魔獣が、夜になると海底から現れるらしい。被害はまだ少ないけど、探索隊も戻らない状況で……」


「……あの、俺、海に関しては、スキルなしどころか、スキルマイナスなんですが」


「安心して、今回は船に乗るだけだよ! 戦うのはあくまで調査チームと――あ、ルミナさんとレイナさんも同行ね!」


「……また俺だけ、主に振り回される村人枠じゃないですかコレ!!」




そして今に至る。


セレリオス港には、巨大な魔導帆船アクア・プリメーラが停泊していた。


そのデカさは、ヒロトが思い描いていた観光用クルーズ船の三倍。戦艦のようなゴツさを併せ持っていた。


「すごいですね……この船、魔導で動くんですか?」


「ええ。この海域は潮の流れが不規則で、普通の帆では動けませんから」


と説明するのは、船の副艦長にして今回の依頼主――シルヴィア・ネリス。


銀髪に翡翠色の瞳、軍服風の制服が妙に似合っている凛とした女性だった。


「ヒロトさん、初めまして。スキルなしの冒険者にして問題解決請負人と聞きました」


「いやそれ、すっごい誤解と過大評価混ざってます!!」




出航――


「うぅ……船が……波が……俺の三半規管が……グッドバイ……」


ヒロトは早々にデッキの隅でダウンしていた。


「しっかりしてください、ヒロトさん。まだ波止場見えてますよ?」


ルミナが持ってきたミントティーを手渡す。


「ぐっ……この香り……ちょっと復活した……」


「船酔いにも勝てる地味力、さすがです!」


「俺の褒められ方、毎回バグってない!?」




だが、出航から2時間後――


事態は急変した。


「海底から、反応多数接近! 魔力濃度、高めです!!」


船員の叫びと同時に、海面が揺れる。


ズゴォォォォン!!!


巨大な水柱とともに、異形の魔獣が姿を現した。


「な、なんだあれ……!」


それは魚とも蛇ともつかないフォルムで、全身が鎧のような鱗に覆われていた。

まるで、海の中のドラゴン――海魔セイレーン・ドレイク


「全艦、迎撃準備! 魔導砲、装填急げ!」


船員たちが慌ただしく動く中、ヒロトはよろよろと起き上がる。


「なんで……俺が乗ったタイミングでこんなのが……」


「それは、フラグ回収スキルがあるからだと思うよ!」


「ないよ!! っていうかあってほしくないよ!!」




「魔導砲、発射!!」


ズゴォォン!!


だが、砲撃は海魔の鱗で弾かれ、かすり傷すら与えられなかった。


「駄目だ、硬すぎる……」


「物理も魔法も通らないのか!?」


ヒロトは立ち上がり、双眼鏡で海魔を観察する。


(この鱗の配置……あれ?)


「シルヴィアさん! 砲撃じゃなくて、あの口の横のえぐれた部分を狙えませんか!?」


「そこ? でもあそこ、狙うには船をかなり近づけないと……」


「近づけましょう! それ以外、効きそうな場所ありません!」


ヒロトは必死に訴えた。


(鱗がわずかに開いてる。潮の流れに逆らってる証拠。あそこは水圧調整のえらか何かだ……!)




「全速前進! 照準を左側えぐれに!」


「いけええええええええ!!」


ズドォォォォン!!


今度の砲撃は、海魔のえぐれに直撃した。


ギャアアアアアアアア!!


耳をつんざくような鳴き声を上げ、海魔は泡とともに海中へ逃げ去った。


船上は、一瞬の静寂の後――


「勝った……!」


「やったああああ!!」


歓声に包まれた。




その夜、ヒロトは船室でシルヴィアに呼ばれていた。


「君があの弱点を見抜いていなければ、今ごろ船は沈んでいたでしょう」


「いや、俺はただ、ちょっと見てて、あそこ怪しいなって思っただけで……」


「それができる人は少ないのよ。スキルで見えるものだけを信じる者には、たどり着けない観察眼だわ」


シルヴィアは微笑んで言った。


「――ありがとう。無スキルの英雄さん」


「やめてぇぇえええええ!! その呼び名、絶対黒歴史になるやつぅぅうう!!」




翌日――


「はあ……陸って最高だなあ……!」


「さすが、陸地型冒険者だね!」


「それちょっとバカにしてますよね!?」


ヒロトはまた一歩、異世界の英雄(?)への道を踏みしめていた――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ