魔導学園の転校生!? スキルなしの俺が特別講師にされました
「……えーっと、すみません。もう一度確認したいんですが、俺、今日から講師なんですか?」
「正確には、『特別技能観察指導官代理』だよ! ほら、ちゃんとした肩書きがあると、貴族社会でも箔がつくからね!」
クラウスはにこやかに言いながら、ヒロトに教師用ローブを渡してきた。
「重たい! なんで肩に鉄板入ってるんですか!? これ戦闘用!?」
「たぶん、魔導学園の伝統。威圧感が出るでしょ?」
「魔法使う学校で、教師が物理で威圧する必要ある!?」
事の発端は、王都からの帰還途中――
「君のスキルのない戦い方を、魔導学園の生徒にも見せてほしい」
と、突如依頼が舞い込んだのだ。
「異例中の異例だけど、最近の生徒はスキル頼りばかりで、地力が弱い。そこに君の地味力が求められているらしい」
「えっ、そんなピンポイント需要あったの俺!?」
しかも報酬は「3日間で金貨20枚、さらに学園内の食堂食べ放題つき」という破格の条件。
(これは……行くしかない!)
こうしてヒロトは、王都郊外の魔導学園《アルス=グラディア》へ向かったのだった。
「さて、今日の講義の内容は、スキルを使わずに罠を避ける方法です」
「……は?」
教室に集まった生徒たちは一様に困惑していた。
平均年齢は15〜17歳。いずれも貴族や有力商家の子息で、プライドの高い面々ばかり。
「トラップって、全部《罠看破》スキルで判別するものじゃないんですか?」
「えー、地味ー。スキルないと不安でしょ」
「先生スキルないってマジ? うちの使用人の方が強いんだけど」
「……ひっっっどい!!」
ヒロトは心の中で泣いた。
が、ここで退くわけにはいかない。
「よし。じゃあ、スキルなしで仕掛けられたトラップを、誰が早く見抜けるか対決してみよう。僕がやってみせるよ」
そう言って、模擬迷宮(学園内にある訓練用施設)での実演が始まった。
「ここが模擬迷宮・初級。仕掛けも基本的なものが多いが……」
ヒロトはひとつひとつのパネルを見ながら、小声でつぶやいた。
「……この床、わずかに摩耗が少ない。おそらく通られていない部分。罠の作動範囲外か……?」
そう考え、あえて埃のたまった部分を踏むと――ガシュン、と横から槍が飛び出した。
「なるほど、範囲トラップか……って、わぁああああっ!? 危なっ!?」
ギリギリで転がり避けたヒロト。
「い、今の……?」
「スキル使わずに避けた!?」
「ていうか回避力エグない!?」
騒然とする生徒たち。
「いや、避けたくて避けたんじゃない、ただ反射的にビビって転がっただけで……」
「それがすごいんだってば!!」
まさかの恐怖回避が称賛される展開に。
翌日から、生徒たちはヒロトの「凡人観察学」授業に熱中し始めた。
⚫︎足音で地雷トラップを察知する訓練
⚫︎周囲の空気の動きでワイヤー罠を見抜く訓練
⚫︎「直感力を鍛えるための、常に疑う心」講座(講師ヒロトのトラウマ語り含む)
中でも人気だったのが――
「先生! 地味だけど致命的な罠ってどれですか!?」
「それはやっぱり、生徒が置いた筆箱をうっかり踏んで滑るやつかな……」
「それ、異世界関係なくね!?」
だが、そんな中、事件が起きた。
「先生、実戦講義中に生徒が迷宮から戻りません!」
そう告げられたヒロトが向かったのは、学園裏手の旧型訓練迷宮。現在は使用禁止とされているエリアだった。
そこでは、優秀すぎて、授業に興味がないと言っていた少年――レオ=バルトレットが、独断で突入していたのだった。
「くっそ……まさかこんな仕掛けが……!」
レオは足を負傷し、動けない状態だった。
「バルトレット君!!」
ヒロトは即座に周囲を観察し、手を伸ばすが、床が軋んだ。
「ダメです! そこから先、罠があります!」
「わかってる。……でも、気づいたからこそ行ける」
慎重に踏み出すヒロト。
瓦礫、凹み、歪んだタイル。すべての情報を視覚と足裏で読み取り、罠を避けるのではなく、寄り添うように通過していく。
(この罠は怖がっている。自分に気づいてほしいと、そう言っている――)
ヒロトは、気づけばそんな風に、罠の気持ちさえ読もうとしていた。
そして、レオのもとにたどり着く。
「来たのか……スキルなしの、先生が……」
「先生はな、バカみたいに地味なことしかできない。でもその地味が、命を救う時もあるんだ」
ヒロトは肩を貸して言った。
「バルトレット君。気づくってのは、目立たないけど……すごく、大事なんだよ」
無事に救助されたレオは、その後、授業に真面目に出るようになった。
「……スキルなしの先生が、こんなにかっこいいなんて、思わなかった」
「うん、それな」
「俺、スキルあるけどヒロト先生の真似したい」
「俺も罠察知風ストレッチ続けるわ」
「それは普通に健康にいいだけだよ!!」
ヒロトは3日間の任務を終え、報酬を両手にギルドへ戻った。
「なんかもう……俺、冒険者っていうより、普通に講師として生きた方がよくない?」
「いやいや、ヒロト君の旅はまだまだこれからだよ! 次は海が君を待っている!」
「え、海!? いま伏線出た!? スキルないのに水没フラグ立てるのやめて!!」