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転生者、暴走中!? ギルドに現れた最強の『元・声優』

ギルドの朝は、今日も賑やかだった。


「おはよう、ヒロト君! 今日も元気?」


受付嬢アリスの明るい声に、ヒロトは目をこすりながら手を振る。


「うーん……筋肉痛で全然元気じゃないけど、おはようございます」


昨日のスライム戦で、普段使わない筋肉が悲鳴を上げていた。


(くっそ……運動部の連中が「基礎体力大事」とか言ってた意味が今さらわかった……)


そんな自虐的な思考に沈んでいたヒロトの背後で、ギルドの扉がバァン! と勢いよく開かれた。


「やぁあああっほおおおおおぉぉぉおおおう!! 今日も絶好調ぉおおおおおおおお!!」


「「うるせぇえええええ!!」」


ギルド全体が総ツッコミで応じる。それくらいの爆音だった。


現れたのは、背中にマントをひるがえした金髪の青年。見た目はやたらとキラキラしている。


「こ、こいつは……誰?」


「ヒロト君、気をつけて。あれが、あの転生者……」


アリスが小声で囁く。


「あれって?」


「元・声優。異世界転生者の中でも、最強にうるさい存在よ」


「……声優!? しかも、うるさいが最強ってどういうこと!?」


ヒロトが戸惑っていると、青年がぬっと近づいてきた。


「初対面のキミィ! 初々しさと無知さと不安をまとった新人の匂いがプンプンするよォ!」


「うわ、圧が強い!!」


「自己紹介しよう! 我が名はクラウス=ウィンド=ヴォイスアーツ! 異世界最強のボイスマスターにして、『元・声優』だ!」


「え? 本当に声優だったんですか?」


「うむ、地球では、超絶カリスマ声優として女性ファンから神と呼ばれていたのだ!」


「うわぁ、めんどくさそうだこの人……」


「何か言ったかい?」


「いえ、別に……」


クラウスはにっこり笑っているが、その目は全く笑っていない。声がよく通るだけに、無言のプレッシャーも強烈だ。


「で、なんでまたギルドに?」


「ふふ、今日は、新人スカウト活動の日なんだ。キミ、ちょっと訓練場まで付き合ってもらおうか!」


「へっ?」




ギルドの裏手にある訓練場。


クラウスはキラキラとオーラを放ちながら、木剣を振り回していた。


「この世界では声が力になる! 僕のスキル『超声域発動ボイス・アンリーシュ』は、技名を叫ぶことで現実をねじ曲げるッ!」


「え、厨二かよ!」


「見せてやろう! この世界で最も美しい詠唱バトルを!!」


クラウスは構えをとった。


「必殺! 雷迅斬閃ッ!!!(サンダー・ストリーム・スラッシュ)」


叫んだ瞬間、剣から雷がバチバチと発生し、訓練場の木人をまとめて真っ黒に焼き尽くした。


「うわああああああああ!! 本当に出たああああああ!!」


「どうだい? これが声優スキルの真髄だ!」


「いや、詠唱力で物理法則ねじ曲げるとかヤバすぎるでしょ……」


「ヒロト君も試してみたらどうだい? 叫べば何か起きるかもしれないよ!」


「ないよ!? スキルなしだし!」


だが、クラウスは勝手に木の棒を渡してきた。


「ほら! 叫べ! 魂を込めて! 自分の奥底にある熱を解き放つんだ!!」


「ムチャ振りすぎるだろおおおおおおおおおお!!」


ヒロトは覚悟を決め、棒を構えた。


「ええい、やけだ! いっけえええええ!! 正義のチョップスティック斬りぃぃぃぃぃ!!」


ビュッ


……風が吹いただけだった。


「…………」


「…………」


「………あれ、ちょっと風、気持ち強くなった?」


「才能の片鱗を感じたよ、キミ」


「いや無理矢理ほめなくていいです!」




クラウスとの修行(?)はなんだかんだで半日続いた。


その後ギルドに戻ると、他の転生者たちが集まっていた。


「お、ヒロト。クラウスに絡まれてたな」


筋肉武将エドワードが、苦笑しながら肩を叩いた。


「絡まれるっていうか……吸収されそうだった」


「まあ、あれで悪いヤツじゃねぇ。強さも本物だ」


「ですね。実際、ちょっと憧れたかも……」


「お前も少しずつ慣れてきたな」


「……そうですかね」


ふと、ギルドの掲示板に目をやると、ひときわ大きなクエストが貼り出されていた。




【緊急依頼】

近郊の村でゴブリンの群れが出現! 討伐者急募!


報酬:金貨30枚+ランクボーナス

危険度:Cランク以上推奨




「おお、ついに中級クエストか……!」


「ヒロト、お前……行くのか?」


「……悩みますね。でも、スキルがなくても、やってやれないことはない、ですよね?」


その言葉に、ギルド内の転生者たちが一瞬沈黙した後――


「おおっ!」


「言ったぞこいつ!」


「ノースキルでCランク行く気か!?」


「ちょっとカッコいい……!」


ヒロトの中で、何かが少しずつ芽生えていた。


スキルはない。能力もない。チートももちろんない。


でも、仲間がいる。世界は広い。可能性だって――ゼロじゃない。


「よし……行ってみよう」


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