俺だけ転生してない!? それでも世界を救っちゃった件について本気で考える
「――というわけで、また遺跡調査、ですね」
ヒロトはどこか悟った顔で、遠くに浮かぶ南方空中遺跡を見つめていた。
「ヒロトさん、元気出して! 今回は浮遊島だし、あったかいし、眺めも最高だよ!」
「だからって空飛ぶ魔法船に乗せられて、命綱一本で空中作業はやめてぇぇぇ!!」
今日も今日とて、転生してない俺だけがアナログ作業担当である。
空中遺跡の中心部には、謎の水晶塔が立っていた。
勇者アキラの【聖剣】も、ユイの【メカスパナ】も、まるで歯が立たない。
「どうも、この遺跡、文明の境目らしいんだよね。魔法と科学が共存してたっていうか……」
「つまり、また機械ってことですね、ええ、わかってましたよ……!」
ヒロトはげんなりした表情で水晶塔を観察し、すぐ気づいた。
「これ、スキル入力じゃなくて、言葉で動作するタイプだ」
「言葉? 古代語?」
「いや、たぶん……これ、日本語だ」
一同「「「えっ」」」
ヒロトはゆっくりと、塔に触れながらつぶやいた。
「起動……」
カチリ――
水晶塔が震え、天を突く光が放たれた。
同時に、周囲に巨大な映像が投影された。
それは――かつてこの世界に転生した無数の日本人たちの記録だった。
【――我々は、数千年に渡り、異世界に転生者を送り込んできた】
【これは、文明と文明をつなぐ実験であり、進化の観測である】
【最後の鍵は、スキルを持たぬ者。魔法にも祝福にも頼らぬ、ただの人間だ】
【彼/彼女が真の継承者である――】
「……なにこれ、俺って仕組まれてた存在?」
ヒロトは呆然とつぶやいた。
アキラが言った。
「ヒロトさん……まさか、君が世界の起動キーだったってこと?」
「いやいやいやいや、そんな美味しい役割、主人公すぎるでしょ!? 俺ずっと地味ポジだったよ!? なぜ今さら主役待遇!?」
ミレイがつぶやく。
「でも、腑に落ちるわ。スキルを持たない者が、世界の根幹に触れられるって、ある意味一番純粋よ」
「ちょっと待って、これ絶対フラグ立ったやつじゃん。転生者が世界の主導権を持っていいのか問題、始まるやつじゃん!」
ユイが興奮しながら叫んだ。
「つまり、ヒロトさんがこの世界のマスターキー!? どっかのメカが喋り出したらもう確定演出だよ!」
直後、水晶塔が語り始めた。
『……マスターキー認証完了。文明連結計画、最終フェーズに移行します』
『統合ネットワークを開放します――』
風が吹き、空が色を変え、世界のレイヤーが入れ替わっていくような感覚。
(ああ……本当に、俺だけが転生してないのに――)
(なんで、俺がこの世界の扉を開けちゃってるんだろうな……)
目を覚ましたとき、ヒロトは街の病院のベッドにいた。
ルミナが涙目で駆け寄る。
「よかった……意識、戻った!」
「……俺、死んでない?」
「ギリギリです。光の過負荷で意識だけ飛んだらしいです。で……あなたが世界の鍵だったって、いま世界中が大騒ぎですよ?」
「うわぁ……こりゃ、当分目立つなぁ……」
「でもね、ヒロトさん。みんな、スキルがなくても世界を救えるって証明してくれて、すっごく希望になってるんです」
「そうかな……だったら――」
ヒロトは、ゆっくりと笑った。
「俺は、転生してないただの人として、もうちょっと、この世界にいてやるよ」
【その後】
・ヒロト、《無スキルの英雄》として教科書に載る
・転生勇者アキラたちと共に世界復興プロジェクトに参加
・ルミナとレイナがヒロトを取り合って修羅場が日常化
・スピンオフで『転生勇者ガロウの鍋探訪記』が始まる




