封印された北の大地! スキル無効の結界と、俺の観察力が世界を救う!?
「さ、寒っ……なにこれ、冷蔵庫か冷凍庫かってレベル……!」
ヒロトはガタガタと震えながら、雪の積もる道を歩いていた。
ここは北方の封印地帯
大昔に世界を壊しかけたとされる古代兵器や魔物が封印された、立ち入り禁止区域。
にもかかわらず――
「よし! みんな、防寒バリア展開〜!」
勇者アキラが軽やかに手を振ると、彼らの周囲にぽかぽか陽気の気流が生まれた。
「おお〜快適ぃ!」
「ホットココアいけそうだな!」
「……俺だけポンチョとカイロなんですけど!? なにそのファンシースキル、ずるい!!」
ヒロトだけ、完全なる体力勝負だった。
「それで……ここに来る理由って、なんでしたっけ?」
「この先に、封印結界の異常反応があったらしいんだ。で、調査隊が全員戻ってこなかった」
アキラが真剣な表情で答える。
「スキル無効領域が発生してて、俺たちのチートスキルも使えない。だから、君の出番なんだよ、ヒロトさん」
「そもそも俺、最初から何も使えない人なんですけどね!!」
封印領域に到着すると、空気がガラリと変わった。
雪は止み、風すら吹かず、時間が止まったような静けさ。
古びた祭壇のようなものが地面に埋もれていた。
「スキル感知、ゼロ。魔力流入も停止。完全に……力を拒む空間ね」
と、ミレイがつぶやいた。
「魔力を拒むってことは、たぶんこの結界、物理の世界に逆戻りしてるってことだよな……」
「つまり、スキル頼りで生きてるやつには用無しってことか……!」
ガロウの仮面がギシリと軋んだ。
「いやいや、みんな! こここそ、無スキル冒険者ヒロトさんの本領発揮ですよ!」
ユイが目を輝かせる。
「いや、それ誇らしげに言われてもな!? スキルなしを武器にされるこの世界つらい!!」
ヒロトはひとり、結界の中心部へと歩み寄る。
「……ん? これ、地面に……数字?」
雪を払うと、そこには薄く刻まれた記号があった。
『3457-A-01』
その下に、矢印のような模様。さらに円形の石版。
(……座標? いや、ロックナンバーか……?)
そこに、何かがカチリと反応した。
「うわっ!? 地面が開いた――!」
ヒロトの足元が抜け、彼はそのまま地下空間へと転落した。
「うう……背中打った……」
そこは、石造りの古代施設のような空間だった。
壁一面に、見たこともない回路模様と装置。そして中央に、大きな球体。
『観測装置 状態:機能停止』
「……観測装置? あれ、これ……スキルじゃなくて、科学的なものじゃね?」
ヒロトは慎重に装置を調べる。
回路の接続、断線箇所、エネルギー源の流れ。
(これ、魔力じゃなくて熱伝導か? てことは――)
カバンから、非常用の魔導ヒーターを取り出し、装置の側に置いた。
「これで、熱が循環してくれれば――」
ジジ……ジジジ……
ゆっくりと、装置が明るく点灯した。
「うわああああああああ!!」
轟音と共に、結界が外側へ広がっていく。
「結界が……解除された!?」
ミレイが叫ぶと同時に、空間の重圧がふわりと軽くなった。
「スキル……戻った!」
「ヒロトさんが……やったの!?」
地下から這い出てくるヒロトは、顔をすすで真っ黒にしていた。
「ったく……完全に設備の故障じゃん……! 古代装置の温度センサーが冷えすぎて凍ってただけだぞ!?」
「なんという……文明レベルのズレが引き起こした未曾有の事態……!」
「技術職の悲鳴が聞こえるなこれは!!」
帰路の馬車の中。
「ヒロトさん、すごかったよ! まさか人力ヒーターで古代遺跡を直すなんて!」
「俺、もうヒューマン・デバッグ装置とか呼ばれそう……」
ヒロトは毛布に包まりながらぐったりしていた。
「でも、これでわかったね」
アキラがぽつりとつぶやく。
「この世界は、スキルだけじゃ測れない。だからこそ――君が必要なんだよ」
「それ、さらっと人材確保しようとしてるよね!?」
「来週、また南方の空中遺跡に行くから、よろしく!」
「いやいやいや、休ませてえええ!!」




