九章 フィトミア博士、故郷に帰る
疑似神気・・・人類が生み出した物質の中で最も汎用性が高く利便性がある。
しかし、この物質は人類に扱えるものではない。
この小さなアンプルに入った液状疑似神気で二十万人近い人間が動く焼死体となった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
防護ヘルメットと防護服を身につけた女性は防護ヘルメットから浄化フィルターを外して少女の防護ヘルメットにつけた。
「ママ・・・」
防護ヘルメットと防護服を身につけた少女は泣きながらそう言った。
「この資料を・・・この資料を持っていつも通りに祈りなさい・・・きっと、助けてくれるから」
複雑色の綺麗な結晶が女性の防護服を内部からじわじわと突き破る。
「・・・」
防護ヘルメットと防護服を身につけた少女は震えながらファイルを抱きしめる。
「怖くない。怖くない」
防護ヘルメットと防護服を身につけた女性は防護ヘルメットと防護服を身につけた少女を撫でながら優しくそう言った。
怖くない。怖くない。これはおまじないのような言葉だった。
きっと、一番怖かったのは母だった。
私はジェットパックで空高く打ち上げられる。
母が、研究所が、とても遠くなっていく。
ジェットパックの燃料が切れると同時に私とジェットパックを繋ぐ固定ベルトを誰かが掴んだ。
朱色の髪で、晴れ渡る空が映ってるようなとてもとても綺麗な瞳の人。
千蘭宮皇国。天陽万象教からできた文化が広がった美しくも荘厳でどこか不思議なこの国はシゼルの故郷である。
同年、四月二十二日。
次の陸軍大臣が決まるまで休暇を得たシゼルはローラを連れて故郷に帰って来た。
「・・・この辺・・・この辺に私の実家が・・・」
シゼルは地図をジッと睨みながらそう言った。
「覚えていないのか?」
ローラはシゼルを見てそう言った。
「私が最後に帰った時はこんな都会じゃなかったんだよ・・・」
シゼルは困ったようにそう言った。
「二十年ちょっとで変わり過ぎでしょ・・・」
シゼルは地図をジッと睨みながら文句を言うと足を止めた。
「まだあった・・・私の実家・・・」
シゼルは國氷製作所とかかれた看板がついた小さな平屋を見て笑みながらそう言った。
「兵器を造る場所には見えんな」
ローラは國氷製作所を見てそう言った。
「昔はおもちゃ屋だったんだよ」
シゼルは笑みながらそう言うと國氷製作所に入る。
「・・・」
ローラはシゼルを見ると、國氷製作所に入った。
目についたのは一台の古い工作機械と超精密な部品を生産するための電子工作機械だ。
何に使うかわからないとても古い工作機械は現在使われているだろう機械よりも丁寧に整備されている。
「陛下、ただいま戻りました」
シゼルは梨々香を見てそう言った。
「いらっしゃい。お帰りと言った方が良いかな?」
電子工作機を止めた梨々香はシゼルを見て笑みながらそう言った。
「ここ、めちゃめちゃ田舎だった気がするんですけど」
シゼルは立ち上がる梨々香を見てそう言った。
「私がこの製作所を拠点にしてから急に発展したんですよ」
梨々香はシゼルを見て笑みながらそう言った。
「関係あるのか?」
ローラは梨々香を見てそう言った。
「まぁ一応」
梨々香はローラを見て笑みながらそう言った。
「一応どころかガッツリ関係あるでしょう?」
シゼルは梨々香を見て呆れたように言った。
「陛下が主神の天陽万象教はこの国の国教として定められてるの。派閥は少しずつ違うけどね」
シゼルはローラを見てそう言った。
「信仰率は?」
ローラはシゼルと梨々香を見てそう言った。
「ほぼ百パーセントです」
梨々香は笑みながらそう言うと、電気ケトルのスイッチを押した。
「異常だな」
ローラは梨々香を見てそう言った。
「この国のトップが天陽万象教西楓連の開祖ですからね」
梨々香はローラを見て笑いながらそう言った。
「そんなこと関係ありませんよ。陛下が有能すぎるからです」
シゼルは梨々香を見てそう言った。
「世の主と六柱の魔神が解決できなかったことを全部解決しちゃうから信仰されるんです」
シゼルはそう言うと、二つの荷物を台に置いた。
「有能なのか」
ローラは梨々香を見てそう言った。
「無能ではないでしょうね」
梨々香はマグカップにティーパックを入れながらそう言った。
「ディールズとか今でこそ世界経済の中心だけど、昔は違ったんだよ」
シゼルはローラを見てそう言った。
「紅雷・グイードリヒもガキっぽくて嫌なヤツだった」
シゼルは工作機械を見てそう言った。
「まるで見たことがあるような言い方だな」
ローラはシゼルを見てそう言った。
「青白炎が蓄えた記憶と言う名の記録を見せられたからね」
「青白炎・・・フィトミア博士は世の大権を持った魔神だったのか」
ローラはシゼルを見て驚きながらそう言った。
「そうだよ」
シゼルはローラを見てそう言った。
「はい、どうぞ」
梨々香は二つのマグカップを机の上に置きながらそう言った。
「いただきます」
シゼルはマグカップを見て笑みながらそう言うとお茶を飲んだ。
「・・・」
ローラは黙ってシゼルを見るとマグカップを持ってお茶を飲んだ。