七章 次世代疑似神姫の開発に向けて
同年、四月十八日。
ローラはシゼルから受け取った一世代から八世代疑似神姫向けのシステムアップデートコードが入ったメモリーカードを紫羅陸軍大臣に渡した。
AZ series ver.8.3
システムUIを変更。
文字の大きさを変更する機能を追加。
エネルギー砲温度の表示、非表示機能を追加。
全疑似神姫外付けエネルギー砲に対応。
外付け武装の情報を追加(エネルギー砲)。
敵攻撃探知機能を追加(レーダー搭載機限定)。
爆撃照準を修正(爆撃センサー搭載機限定)。
このアップデートコードは次世代疑似神姫に搭載するシステムの試作品第三号である。
対応しているチップセットはSシリーズの2.0以降。
第一世代の疑似神姫は非対応となっている。
このアップデートコードは十リズで販売されるようだ。
同年、四月十九日。
アップデートコードの売り上げの一部がS.開発局に入って来た。
「はい、みんな臨時収入」
たくさんの封筒を抱えたシゼルは笑みながらそう言うと、台の上にたくさんの封筒を置いた。
「はい、パト」
シゼルは次々と封筒を渡していく。
「はい、リッド」
シゼルはそう言いながらローラに封筒を差し出した。
「リッド?」
ローラはシゼルを見てそう言うと、封筒を受け取った。
「君のあだ名」
シゼルはローラを見て笑みながらそう言った。
「変なあだ名だ」
ローラはシゼルを見てそう言った。
「ちゃんと意味があるんだからね?」
「そうか、今度調べてみよう」
ローラはそう言うと、封筒を開けて中を見た。
「どう?初めて得た給料は」
「あまり嬉しくはないな」
ローラは五十枚近い月浜リズを見てそう言った。
同年、四月二十日。
紫羅陸軍大臣がローラに大量の開発命令を出した。
外付けエネルギー砲、ジャイロスコープ、システム、チップセット。
一人に任せる量じゃないのは明らかだ。
「どうしてあんな量を?」
シゼルは紫羅陸軍大臣を見てそう言った。
「これは試練なんだよ。それに、全部できるなんて最初から思ってない」
紫羅陸軍大臣はシゼルを見てそう言った。
午後三時。
紫羅陸軍大臣を乗せた六式飛行艇がサンティラに向かって飛んだ。
護衛は十機の疑似神姫、護衛隊長はTT-42B-22 ヘンデクラークだ。
S.520試製二号機の試験走行が行われて以来、パトリシアたちは開発局に居ない。
多額の給料を消費するために長期休暇を取ったのだ。
「陸軍大臣を乗せた飛行艇がサンティラに向けて飛び立ったそうだな」
鉛筆を握ったローラは設計図を描きながら言った。
「うん」
シゼルはプログラムコードを入力しながらそう言った。
「この国は随分と自国の盗聴技術と情報管理能力を信じているようだ」
「そりゃ、今までの作戦は盗聴で成功したようなものだし、情報漏洩も一切ないからね」
「過信と言うのは愚かな行為だ。歴史書を一目見ればわかる事だろうに・・・」
「子供が権力を持ち、子供が権力を振るってきた国の末路だよ。四十年代にいたメンバーたちが月浜に残っていたら、今頃中立国になっていただろうね」
「後半の言葉にはいささか疑問が残る。中立諸国は疑似神姫を認めただろうか」
鉛筆を止めたローラはシゼルを見てそう言った。
「認めるしかない状況になっていた。それくらい口達者な大人が揃ってたんだ」
シゼルはローラを見て笑みながらそう言った。