三十章 ジェマノ島へ
同年、六月一日。
第五期政権が始まるまでシゼルたちは休暇を得た。
シゼルはこの休暇をジェマノ島で使うことにするのだった。
「すごいね。みんな島民?」
シゼルは島を整備する人たちを見てそう言った。
「そうです」
グラディスはシゼルを見てそう言った。
「あれは・・・コンクリート製の軍艦・・・?」
シゼルは港に停泊する記念艦を見て困惑しながらそう言った。
「唯一融解することなく残ったダミー船です」
「ダミー?」
シゼルはグラディスを見てそう言った。
「はい」
「このダミーを攻撃するために奴らは何の躊躇もなく高度を下げた。古典的だが今一番有効な作戦だと陛下は言っていました」
グラディスはダミー軍艦を見てそう言った。
「全ては陛下の手の中ってわけね・・・」
冷や汗をかいたシゼルはグラディスを見てそう言った。
グラディスと別れたシゼルはホテルにチェックインした。
シゼルが滞在するホテルはホテル・クラディカ。
南側の窓からは海が見え、北側の窓からは整備が進められる町が見えるジェマノ島の中で最も外見が綺麗なホテルである。
「・・・」
シゼルは窓を開けて海を見る。
潮風が部屋にスーッと入り込む。
「ヘドロ臭・・・」
シゼルは笑みながらそう言うと勢いよく窓を閉めた。
同年、六月二日。
十月に梨々香がジェマノ島へ訪問することが決定したことで万象教各連の聖職者たちがジェマノ島に訪れた。
聖職者たちは島に近づくまでは笑顔だったが島に近づいた瞬間般若のような怖い顔になった。
般若のような怖い顔をする聖職者たちはヘドロ臭を問題視して浚渫工事を行うように資金を提供。
その日のうちに浚渫工事が行われることになった。
投入された資金は二百八十億ディールズリズ。
この資金で購入された最新鋭の設備が大量に投入されヘドロの回収作業が進められる。
同年、六月三日。
シゼルはバーレカ自動車の社長を務める昔の技術者仲間、ハイ・長谷川・イリュミラー・バーレカに呼ばれてバーレカ自動車の工場に来た。
梨々香を乗せる御神車を作るよう北蘭連から受注を受けたのだが、全然納得してもらえないらしい。
「色々な意味を込めて色々なことを考えてこの見た目にしたんだよ!でも首を横に振るんだ!」
怒るハイはシゼルを見てそう言った。
「紅雷・グイードリヒの衰退が想像より早いからね・・・陛下への愛と故郷愛と民族愛が爆発してるんだと思う」
シゼルは完成予想絵を見てそう言った。
「紅雷・グイードリヒの衰退と燦水天狐族の愛って関係あるの?」
ハイはそう言うと、駒を動かした。
「あるよ。紅雷・グイードリヒが居なくなったらディールズは絶対的な統治者を失うわけだ」
シゼルはボードの戦況を見てそう言うと、駒を動かしてハイの駒を取った。
「そうなったら、ディールズ政府は絶対的な地位を維持するために新しい神を求める」
シゼルはハイを見てそう言った。
「むー・・・」
ハイは悩みながらハイを動かして将軍の駒を取ると、嬉しそうに笑んだ。
「そうなったら渋々でも陛下は動くってお狐様たちは予想してる」
シゼルはそう言うと、王の駒を動かした。
「あッ!!動けない・・・」
ハイはボードを見て小声でそう言った。
「実際、今取れる選択肢は二択・・・ディールズ政府をそのままに陛下自身が統治者になるか、千織さんを統治者にするか」
シゼルは駒を動かしながらそう言った。
「陛下が統治者になればこの大陸は間違いなく一つの国になる。万象教各連は万象教を国の宗教として大々的に広めることができる」
シゼルは次々と駒を取りながらそう言った。
「千織さんがディールズの統治者になっても万象教は美里吾へ進出できる」
シゼルは考え込むハイを見てそう言った。
「降参!!もう!勝てない!!」
ハイは不貞腐れながらそう言った。
「・・・つまり、紅雷様不在の時を狙ってこの大陸を燦水大島にしようと必死って考えでオケ?」
ハイはシゼルを見てそう言った。
「そう。だから、苦労してるのはどこの企業も同じだと思う」
「最悪!!超いい迷惑なんですけど!」
ハイは頭をくしゃくしゃとかきむしりながらそう言った。
「というか、今の紅雷様って六柱の魔神の中で二番目に若いんじゃなかったっけ?」
ハイはシゼルを見てそう言った。
「そうだよ」
「じゃあ、どうして他の古い神様より早く衰退してるの?」
「ストレスを受けてるから」
シゼルはハイを見てそう言った。
「ストレス?」
「そう」
「他の神様はストレス受けてないってこと?」
「ないわけじゃない。でも、少ないだろうね」
シゼルはボードを片付けながらそう言った。
「それぞれ誰に就き従ってどう生きていこうっていう一生涯の計画がはっきりとあるからね」
シゼルは駒を見てそう言った。
「シゼルにもあるの?」
「そりゃあるよ。少なくとも、師匠と同じような生活はしない」
シゼルはハイを見て笑みながらそう言った。
「その割には白衣をしっかりと着るよね」
ハイはシゼルを見て笑みながらそう言った。
「尊敬はしてるんだよ」
シゼルは笑みながらそう言うと、ボードを箱の中にしまった。
バーレカ自動車
中立陣営マキハト国に本社を構える中規模企業。
親が経営する大企業、長谷川機関から支援を受けながら経営を続けている
主な生産品
P-921対空車両




