二章 程々に強い陸上戦姫を目指して
月浜基地から出たシゼルは金城大都の貧困街へ行き、個人営業の定食屋に入った。
シゼルの目的は、ここにいる客だ。
「陛下、お久しぶりです」
シゼルはお茶を飲む赫色が混ぜられた炭色の髪を後ろで一つに束ねた青年を見てそう言うとお辞儀した。
「久しぶり。元気そうだね」
青年はこの世のものとは思えないほど綺麗な空色の瞳を見せて笑みながらそう言うと、湯飲みを机の上に置いた。
青年の名は梨々香。
神々から陛下と呼ばれる偉大なる神様である。
「ようがあると言ったのは私なのにわざわざこちらまで来ていただいて」
シゼルは梨々香の隣に座りながらそう言った。
「構わないよ」
梨々香はシゼルを見て笑みながらそう言った。
「実は、軍部から無茶なことを言われましてね」
両膝にポンと手を置いたシゼルは梨々香を見てそう言った。
「大変ですね」
「疑似神姫をサポートできて、L-51を撃墜できて、広範囲に移動が可能でステルス性能がある・・・そんな兵器を運用コスト二十七万月浜リズで作れますか?」
シゼルは手汗を拭くようにタイツを両手で擦りながらそう言った。
「二十七万月浜リズで・・・こんな無茶な話は中々ありませんね」
梨々香はドン引きしながらそう言った。
「・・・低出力の携帯式エネルギー砲を持たせればいいと思いますよ。これなら月浜連合内で完結できるでしょうから」
少し考えた梨々香はシゼルを見てそう言った。
「高出力じゃなきゃダメらしいです」
「それは無茶ですよ・・・」
梨々香は苦笑いしながらそう言った。
「はぁ~・・・」
シゼルはため息をつきながら机に突っ伏した。
「また無理やり動かすしかないのか・・・」
シゼルはそう言いながら前に置かれた餡子菓子とお茶を見た。
「そちらはどうですか?計画は上手くいっていますか?」
シゼルは梨々香を見てそう言うと、黒文字を持って餡子菓子を切った。
「えぇ、上手くいっていますよ。もうお金も価値がある文化財もありませんから、土地で払うことになります」
梨々香は餡子菓子を食べるシゼルを見て笑みながら言った。
「と言うことは、やはりL-51も撃墜されているんですね」
シゼルは梨々香を見てそう言うと、湯飲みを持ってお茶を飲んだ。
「もうすぐ三世代前になる装備ですよ?それに、コスト的に色々な装備を省いていた所謂廉価装備です」
梨々香はシゼルを見て笑みながらそう言うと、湯飲みを持った。
「本当によくモクブク族に挑んでくれたものだ・・・」
梨々香は呆れたようにそう呟く。
シゼルは梨々香を見てさらに深いため息をつく。
「橘花国は何を省いたんですか?やはり防火膜ですか?」
シゼルは梨々香に気になっていることを尋ねた。
「防火膜と耐刃膜だね。他にも燃料タンクと一部エネルギー砲が変わっています」
梨々香は湯飲みを置くシゼルを見て笑みながらそう言った。
「そこまでいくとL-51じゃなくてもいい気がしますけどね」
湯飲みを触るシゼルは梨々香を見て笑みながら言った。
「こんな廉価装備でもアーヴァン製の装備より遥かに強いんですよ」
梨々香はシゼルを見て笑みながらそう言った。
「橘花国のL-51の弱点をどう話したら軍部に理解してもらえるでしょうか」
手を組み合わせたシゼルは梨々香を見てそう言った。
「理解してもらう必要なんてないんですよ。なんとなく伝わってしまえばそれで良い」
梨々香はシゼルを見て笑みながらそう言った。
午前十一時七分。
お茶を終えたシゼルがS.開発局に戻って来た。
「おかえりなさい・・・」
ティーカップを持ったちょっと不服そうなパトリシアはシゼルを見てそう言った。
「ただいま」
シゼルはそう言いながらコートをかけた。
「休憩行っておいで」
シゼルはパトリシアを見てそう言うと椅子に座った。
「やった!」
パトリシアは見て笑みながらそう言うと、急いで立ち上がり、ジャンバーを着て外に出た。
再び鉛筆を握ったシゼルはサラサラと設計図を描いていく。
理解してもらう必要はない。なんとなく伝わってしまえばそれでいい。
鉛筆と定規を持ったシゼルは疑似神姫の設計図を描いていく。
「すごいですね」
ジャネット・フィッツジェラルド=ド・リッターは設計書を見て嬉しそうに笑みながら言った。
その時、血相を変えた紫羅陸軍大臣が開発局に入って来た。
「どうしたの?そんなに血相変えて」
シゼルは紫羅陸軍大臣を見てそう言うと鉛筆を置いた。
「ロウロシャトラが煌桜にやられた!!」
紫羅陸軍大臣はシゼルを見て大声でそう言った。
TT-42B-17 ロウロシャトラが秋谷 明子という橘花国の戦姫操縦士に撃墜された。
秋谷 明子はこの一ヶ月の間にL-51を使って計十一機の疑似神姫を撃破し、四機の疑似神姫を撃退したエースパイロットである。
「良いか!?奴らを許すな!!皆殺しだ!!」
紫羅陸軍大臣は机を叩きながら怒鳴った。