十三章 納花町を観光しよう
公共交通機関を利用して西海岸の町、納花町まで移動したシゼルとローラは納花町を歩く。
納花町はモバムラサキという二枚貝がたくさん獲れる藻場が多い海に面している。
柚子の果汁と甘酢に漬け込まれたモバムラサキは貝スナックとして親しまれている。
「はい、毎度」
店員は二枚の硬貨を受け取ってそう言った。
「はい」
シゼルはローラに貝スナックが入ったカップを差し出してそう言った。
「安いのか?」
ローラは貝スナックが入ったカップを受け取ってそう言った。
「激安だよ。学生とか子供が買って食べれるくらい」
シゼルはローラを見て笑みながらそう言うと、貝スナックを食べた。
「そうか」
ローラはシゼルを見てそう言うと、カップから一つ貝スナックを出して食べた。
「貝の旨味は消えているような気がするが・・・中々に美味いな」
ローラは貝殻を見て笑みながらそう言った。
「学生の頃、特定外来生物を食べて減らそうみたいな!みたいな流行りがあってさ」
シゼルは貝スナックを食べながらそう言った。
「面白い流行りだな」
ローラはシゼルを見てそう言った。
「食べ過ぎて晩ご飯が食べられなくなって友達と一緒によく怒られたな~」
シゼルは貝殻を見て笑みながらそう言った。
「フィトミア博士にも友達がいるのだな。てっきりいないと思っていた」
「いるよ!めちゃめちゃいるんだから!」
シゼルは少し怒りながら貝スナックを食べた。
午後五時ごろになると、店が万陽学園の制服を着た学生たちで賑わい始めた。
「・・・楽しそうだな」
ローラは楽しそうに話す小学生たちを見て少し羨ましそうに言った。
「楽しいよ。学校」
シゼルは小学生たちを見て笑みながらそう言った。
「経験したことあるのか?」
ローラはシゼルを見てそう言った。
「そりゃあるよ。この国の国民だったんだから」
シゼルはローラを見て笑みながらそう言った。
「学校と言うのは何をする場所なんだ?」
「豊な生活を送るために必要な術を学ぶ場所」
「また宗教か?」
「基本的には読み書き計算を学ぶだけ。たま歴史資料館に行って勉強したりとかもあったけど」
「千蘭宮皇国の識字率が異常に高いのは教育の水準が高いからか」
「そうだね」
「月浜は到底中立陣営に勝てそうにないな・・・」
ローラはそう言うと、辺りの匂いを嗅ぎ始めた。
「もう晩御飯の時間だね」
シゼルは店を見て笑みながらそう言った。
「これは何の匂いだ?」
ローラはシゼルを見てそう言った。
「しじみの赤鍋だよ。句道湖のしじみがたっぷり入ったトマト鍋」
シゼルはローラを見て笑みながらそう言った。
「句道湖?橘花国のか?」
「そう。橘花国の」
「橘花国はこの鍋で儲けているのか」
「残念ながら儲けてない。西楓連が句道湖と周辺の土地権を持ってるからね」
「抜け目ないな」
「食べてみる?」
「あぁ」
ローラがそう言うと、シゼルが立ち上がった。
しじみの赤鍋は句道湖で獲れるしじみと千蘭宮皇国南部の太陽農場で栽培されているトマトを使わないと詐欺商品として摘発されてしまう。
燦水天狐族のこだわりが詰まったこの料理は一生に一度は食べるべき絶品料理と言われることが多い。
「美味い・・・とにかく美味い!貝スナックを生み出した民族が作ったとは思えない・・・」
レンゲを持ったローラはしじみの赤鍋を見て酷く驚きながらそう言った。
「美味しいよね」
杯を持ったシゼルは嬉しそうに笑みながらそう言うと、焼酎の出汁割を飲んだ。
「・・・この国の国民は余裕で満ち溢れているな。公に宗教を語る者も誰かの悪口を言う者も自分の思想をバラ撒く者もいない」
ローラは食事を楽しむ客たちを見てそう言った。
「弱く小さな国ばかりが争っているのだな・・・」
ローラはレンゲを持ってしみじみとそう言うと、しじみの赤鍋を食べた。