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4話 永遠に続く夜


夜が続いていた。


館の外に出ようとすれば、扉は開かない。

窓を覗けば、そこに映るのはただの影だけ。

月の光さえ届かないこの場所は、まるで世界から切り離された箱庭のようだった。


リオンは静かに、館の大広間を見渡した。

古びた絨毯、燭台の揺れる炎、壁に掛けられた肖像画。


そのすべてが、どこか夢の中の景色のように思えた。


——まるで、この館そのものが、一つの物語の中に閉じ込められているようだ。


「外へ出ようと?」


背後から、低い声がした。


振り向くと、黒衣の執事がそこに立っていた。

いつからそこにいたのかもわからないほど、静かな存在だった。


「扉が開かないのは、そういうものだからです」


「……どういう意味だ?」


「あなたはまだ、ここを去るつもりがないのでしょう?」


リオンは、言葉を失った。


確かに、館を出ようとしながらも、心のどこかでは躊躇していた。


この館にある「何か」を知りたかった。

それが何なのかは、まだはっきりしない。

けれど、この場所に足を踏み入れてしまった時から、何かに囚われているような気がしていた。


「ここは、過去に囚われた者たちの館です」


執事は静かに言った。


「あなたも、そうなのではありませんか?」


「……俺が?」


「あなたは、何を探しています?」


リオンは目を伏せた。


何を探しているのか、自分でもはっきりとはわからなかった。


けれど、ずっと歩き続けていた。

季節が巡る中で、詩を詠みながら、誰かを探していた気がする。


——誰かを。


執事は静かに微笑んだ。


「この館は、そういう人たちが訪れる場所なのです」


その言葉に、リオンは微かな寒気を覚えた。


館のどこかで、ノクターンが鳴っている。

静かで、切なく、どこか寂しげな旋律。


リオンは、一歩、廊下を歩いた。

執事は、何も言わず、ただ静かに見送る。


館の奥のサロン。

そこに、エレーナはいた。


揺れる燭台の光の中で、彼女はじっと座っていた。

黒いドレスを纏い、長い髪がゆるやかに波を描いている。

 

窓の外を見つめるその瞳は、深く、静かだった。


「……外に出ようとしたのね」


彼女の言葉は、まるですべてを知っていたかのようだった。


リオンは、ソファに腰を下ろした。


「扉が開かない。まるで、この館の時間だけが止まっているようだ」


「そうね」


エレーナは、ゆっくりと頷く。


「この館に朝は来ないわ」


その言葉に、リオンは息をのんだ。


「お前は、どれくらいここにいる?」


「……わからないの」


エレーナは、かすかに微笑む。


「でも、私はずっとここにいた気がする。ずっと、黄昏の中にいた」


リオンは、窓の外を見た。

暗闇の中で、湖が静かに揺れている。

水面には、わずかに星の光が滲んでいた。


「待っているのか?」


「ええ」


エレーナは、目を伏せた。


「誰を?」


彼女は答えなかった。


ノクターンの旋律が流れている。

ピアノの音は、相変わらず切なく、寂しげだった。


リオンは、そっと瞼を閉じた。


彼もまた、誰かを待っているのかもしれない。

記憶の奥深く、遠く霞んだ誰かの影を——。


夜が続いている。


黄昏の館は、決して夜を終わらせない。

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