1-2 若い戦場
「うっ、おぉっ!?」
正確無比の矢が周囲の仲間を同時に貫き、若い将軍は声を上げた。
どこからか放たれた魔力を纏った矢は、防御魔法を貫通し急所を貫いてくる。
矢は物質、そこに強靭な魔力がからみついている。こういうものを防ぐのは難しい。
しかも、その矢は曲線をえがき急所を狙ってくるのだ。
(ロッゼフィーレのやつ!)
とっとと退けと叱責を受けた、このフィーダ・イー・ザフ将軍は憎々しげに空を見上げた。
ガシャア、ドサリ
共に後退しつつあった仲間が貫かれ倒れていく。
「ぐっ、どこからだよっ!?」
(もう、こんな状態でわざわざ地上で戦ってられるか!!)
「あの魔導士の相手ばかりしやがって・・・」
だが、ロッゼフィーレがあの魔導士ことマリー・シャーティーを抑えているから、軍がまだ踏ん張れているのだ。
フィーダも頭では理解していた。
奇襲をかけたロッゼフィーレ軍は2万の兵士をほこる。
それに対して急遽参集した王都兵士は1万に届かなかった。にもかかわらず、賢者マリーの参戦により数の不利を撥ね返し始めたのであった。
戦場となった王都西側は朝までの静謐な街並みがウソの様な壊滅状態にあり、陽が傾きかけた現在では惨憺たる瓦礫の山となっていた。
「将軍なにをやってる・・・!」
一旦退いて陣形を立て直そうとしている自軍はなおも武者団に押し込まれていき、ロッゼフィーレは将軍への怒りの声が漏れた。
「うぅるあああ!」
マリーにより魔法防御を張られた鬼気迫る王都の武者団は魔法攻撃をものともせず、フィーダ達に雪崩を打って攻め込んでいく。
「ぎゃっ」
「ああっ!」
フィーダの背後で少年兵達は経験の浅さを露呈し狩られ始めていく。
「はぁっ、はっ・・・・」
迫りくる死に呼吸が早く、浅くなっていく。フィーダの頭の中はもみくちゃとなり、思考が遠のいていった。
「チッ」
「将軍! 殿を誰も務めないのなら、後方から狩られるばかりだろうが!」
(もう練兵などと言っていられない)
ロッゼフィーレは押し込まれるばかりの自軍に、腕に装着した通信機能も備えた多機能魔導端末を通じて声を荒げた。
「ヒュンク共が!」
少年元帥はその桃色の眼光の切っ先を迫りくる武者団へ向けた。
左手の小ぶりな杖を振りまわしながら右腕をふりかぶる。
「九つの悖理律!!」
「第六の律、反転覆嬲り達磨!」
呪文の詠唱とともにボールを投げるように右腕を振り切った。
と同時にロッゼフィーレが纏ったローブ、その長い袖口から巨大な黄金魔球が召喚射出された。
ドゥウウムンッ!
「ブルゥゥゥウウォゴォオオ!!」
獣の顔を持つこの獰猛な魔球は牙の間から唸りを上げ、自軍へ食いつかんとする地上の王都武者団先陣へと突っ込んだ。
ズダァアアン!!
鎖により制御され、いくつものトゲをあしらわれた魔球は上空よりアッという間に着弾し、周囲を粉砕した。
さらに、反転覆嬲り達磨の魔力に呼応し大地は猛烈に膨張していく。
ビシビシビシィッ
軋みをあげた大地は、その裂け目の内から破裂するかの如く瓦礫、土砂と共に武者団を上空へ巻き上げた。
パァアアアアン!!
壊れた玩具が宙を舞ったかのように、ヒュンクの身体はひとたまりもなくバラバラに砕け散っていく。
その轟然たる炸裂音は静寂を錯覚させ、空白の刻での一方的な殺戮をヒュンク達の目に写した。
それは、マリーが前線に到着する以前に王都兵士軍と街を散々嬲り蹂躙した攻撃であった。
その魔球を再び撃ち出したのだ。
マリーが武者団へ張った防御魔法も反転覆嬲り達磨の前では何の意味もなさなかった。
ロッゼフィーレによって爆散した王都兵達を見て、しめたとばかりフィーダ将軍は魔法で収納していた自身の翼を広げると空へと活路を求め、まわりの少年兵達も次々とそれに続いた。
「あの子達、皆ツノに翼って・・・・」
「セテオス族?」
飛び立つ敵少年兵士達を見ながらマリーは、この宇宙に伝わる神話を思い出していた。
ドラゴンによって暗い宇宙に閉じ込められた種族セテオス。ツノと翼、そして強大な魔力を持つ種族。 傲慢な彼らは闇の牢獄に永遠に囚われたという。
2026 2/26改定




