1-1 あるべき理想か あるがままの自由か
轟音と爆炎に霞む大地。
それは死を直感させる。
この銀河の若き賢者、魔導士マリー・シャーティーを持ってしても。
マリーは今までになく死をはべらせている感覚だった
「おもしく、なってきたわね」
街は一面瓦礫とかしていた。
わずかに笑みをたたえ絶望にすっくと立った姿は、死の本能へ挑むかのように冴えわたる気を発していた。
身を包んだ黒い装束と肩にかかるブラウンの髪、肌は依然として全く塵を寄せ付けてはいない。
そして黄金に輝く武具を召喚し纏ったその姿は、魔法を超えた法を司るこれまでの境地の体現であった。
しかし、その境地を持ってしても目の前の壁は難くあつかった。
「なんだ、このっコイツ・・・」
「ぜんぜん効いてないのか」
その若き賢者と対峙したさらに若い少年魔導士は、放った魔法攻撃をことごとくいなされ苛立ちが口をついた。
街を破壊することは容易でも、この賢者を壊すことは単純にいかないらしい。
青空に翼を広げ、戦場を掌中にし指揮を振るうはずであった。
編みこんだ黄金色の毛髪は陽に輝き、その間からは純白のツノが二本ニョキリと生え、艶やかな新緑色の模様に彩られている。
華やかな容貌をたたえる少年は、自分より魔力が圧倒的に低いはずの相手に手こずらされている焦燥がにじんでいた。
「ロッゼフィーレ!!」
そう呼ばれた少年の桃色の瞳は、怒りによって呈色した光を宿したかのようにギラついた。
(気安く呼ぶな、オレの名を・・・)
無視を決め込んだが――
想定外の征野でロッゼフィーレの怒気は身の内でますます膨張した。
「げっ、元帥ー!」
同じく頭にツノを生やした年端も行かぬこの将軍は、目を泳がせ再びロッゼフィーレに向かい叫んた。
「将軍、じゃまだぞ、 そこをとっとと退け!」
(前進か後退かの判断もつかないのか、いつまでもウロチョロと・・・)
ロッゼフィーレは攻め込んだ王都の武者団、魔導士達の前に潰走しつつあった地上で戦う同胞の兵士達に声を張り上げると、空を背に自身の純白の翼をバサリと羽ばたかせた。
「じっ、陣形を維持しつつ退けー!」
若い将軍は苦渋の表情を浮かべ退却の指示を出し始める。
「馬鹿め・・・」
(陣形なんぞ、とうに維持できていないだろうが)
思いのほか強い敵兵がいる。それはロッゼフィーレにとっても正直な感触だった。
(だが、多少腕の立つ者が居たからどうだと言うのだ。)
(この戦局、オレ達の優位はかわらない。魔導戦闘機での制宙権はこちらにある!)
右往左往しながら王都兵に押し込まれていく同胞たちがロッゼフィーレの眼に写る。
(退くことには慣れないか・・・・)
(こいつが出てこなければ、我が兵士達ももっと戦えただろうに)
翼を広げ上空から檄をとばしながらも、ロッゼフィーレの眼は対する若き賢者を捉え続けている。
マリーは低位置で浮遊しつつ、翔ぶことはできぬ王都武者団に防御魔法を張りながら、退いていく敵兵達と上空のロッゼフィーレを見やった。
(このツノの生えた年少兵達は・・・・)
マリーは、ロッゼフィーレ達の軍がどのような生体の種族か、正確な情報が無いまま未知の前線へと馳せ至っていた。それは王都の兵士達にしても同様である。
ツノと同じく純白の翼をグンと伸ばし、空中でのバランスを取るように尾っぽをブンブンと振り回すロッゼフィーレは動かずにおれぬといった調子だ。
(ヤル気まんまんって感じ、ね。)
だが、マリーはそのイキイキとした生命力を感じながらも、思う様に攻めきれないこの少年元帥の焦燥を見逃してはいなかった。
小規模の銀河4つが隣接する宇宙、4つ銀河。
その一つ、マリー達ヒュンク族が広く分布する北銀河、その王都星。そこへ魔導宇宙戦艦3隻にもなる奇襲を受けていた。それも王城の目と鼻の先に。
そして、その戦艦全てに搭乗する若年の兵士達を率いるのが、少年元帥ロッゼフィーレなのである。
2025 8/29改定