ワンパクガール、井ノ上遥
僕、【松原誠一】は陰キャ?らしい。
確かに人と関わるのは苦手だし、女子と話すなんてもってのほかであるが、陰キャまでは行かないと思う。
でも、周りの人がそう言っているのなら、そうなのかも、しれない。
認めたくはないが。
ガシャン!
「あっぶない、遅刻するとこだった。」
と、大きな扉を開ける音と共に教室に、同じクラスの女子生徒が入ってくる。
井ノ上 遥 。
学校では、ハナサトの3大美女と言われているらしい。
が、僕は正直彼女に好意を抱かない。
なぜなら、僕は彼女のある秘密を知っているからである。
3ヶ月くらい前のことだった。
学校から少し離れたファミレスでひとり新作の漫画を読み浸っていた時のことだった。
「いっただっきまーす」
自分の席から見て右斜め前の席からそう聞こえてきた。
その声の主は、井ノ上 遥である。
彼女の前には超巨大なハンバーグが3つ重なっている。
この店のチャレンジメニュー
【激盛りハンバーグタワー】
である。
食べたらチャレンジメニューはもちろん、他に頼んだ商品が全て無料になるらしい。
あれを食べてから他のものが食べれるとは思わないがなんのためにチャレンジするのだろうと考えていると、彼女の前に置かれたハンバーグがもうひとつになってしまっている。
そして今、最後のひとつを3口程度で平らげている。
そう、彼女は学校での様子とは全く違い大食い女子らしいのだ。
正直彼女のことを知ったところで僕にはメリットがないので漫画を見直そうとしたとき、ふと視線を感じた。
彼女がこちらをキョトンとした目で見ているのだ。
彼女は学校では清楚系な落ち着いた子として通っており、大食いとバレないように学校から離れたファミレスに来ていたのだろう。
奇遇なことに僕も学校では真面目なキャラで通っており(個人的な思想)漫画好きとバレないためにこのファミレスに来ていたのだ。
キョトンとした目から睨むような目に変わりこちらに向かって歩いてくる。
「同じ学校だよね・・・?」
と、話しかけてきた。
はい、同じ学校です。
なんなら同じクラスです。
「う、うん、多分そうだと思うよ。制服同じだし。」
何を言うでもなくジッとこっちを睨みつけてくる。
「た、確か、、井ノ上さん、だよね・・・?」
「うん、そう、、だよ。」
沈黙が続く。
ただただ静かなファミレスの環境音だけが鼓膜に響いてくる。
正直、今すぐ逃げ出したい。
「何年生?」
と、痺れを切らした井ノ上さんが聞いてくる。
「2年生だけど、、というか同じクラスです。」
「えっ!そうだったの?ごめんね、私人の名前覚えるの苦手なんだよね。」
分かりやすい嘘だ。
井ノ上さんは毎日教室に入るとクラスメイト全員に挨拶しに行っている、、もちろん僕以外だ。
「さっきの、見てた?」
「いや、その〜、少しだけ、なら」
睨みつける目がもっと鋭くなった。
これは、人と関わるのが苦手な僕でもわかる。
井ノ上さんは怒っている。
「さっき見たことは秘密にしてくれないかな。同じクラスならわかると思うけど、というか男子な全員わかってると思う。私ね、学校では清楚系キャラでやらせてもらってるの。」
なるほど、やっぱりキャラだったのか。
「だから、こんなことバレると私の学校での好感度が下がっちゃうの。わかるかな。」
多分、下がらないと思う。
むしろギャップがあって好感度上がるんじゃないか。
まあ、本人が望んでないならダメなのか。
「分かった。秘密にしておくよ。だから、僕が漫画読んでたことも忘れてくれないかな?」
「え?別にいいけど。そんなに気にすること?」
「まあ、一応?」
その後、井ノ上さんは何も言わずに僕の頼んだポテトとチキンナゲットをひとりで勝手に平らげてしまった。
井ノ上 遥、まるで正ヒロインのように振舞っているが裏表が激しくキャラ作りをしているらしい。
しかも相当、慎重に作り上げて来ているらしい。
まあ、僕には関係の無いことか。