第3話
悪夢なら毎晩見る。睡眠は小間切れだから眠る度、日に何度も。今夜も良く見る地元のスキー場の頂上に現実には無いレストハウスがあって、そこを潜った反対側にはもうひとつゲレンデが広がっている夢を見たが、今夜のそこに雪は無く、コンクリート敷きで半屋内の港湾倉庫みたいな雰囲気。そこにジョン・レノンが居てアブラボウズを捌いていた。彼はその脂肪部分を切り取り調理し、実際とは違う巨大マグロのそれの様な巨大な眼球や兜、アラなどは何かに使うからと、手早く誰かが台車に積んで運び去った。村の人であった様に思う。それからコンクリートの舟のような物に木製の仕切りをして水を貯め、仕切りを数人の男とともに外すとその水が吹き上がりながら溢れ出すも、水量が全然足りずに面罵された。そんな悪夢からの目醒めは、いつも違った不快な旋律とともにあって、最近は何らかの歌詞付きのメロディーも付いていて、それが醒めて尚苛烈な僕の悪夢たちを繋ぐようである。僕はずっと、その中に居る。
けれどもあの夢。あれは特別だ。多分幼い頃から見続けている。僕にはずっとそれが夢なのか、時々襲う現実の感覚なのかわからなかった。そうしてどうやら家族を持って、彼らの為に生きると云う明確な意思の中で精神が安定すると、すっかりそれを忘れていた。しかしこの1年間の段階的な喪失と生活の破綻の中で数多の悪夢に紛れて思い出させられたそれは、確実に夢であり、且つもっとも僕の現実そのままのものである事がわかった。
つまり、寝ても覚めても僕は同じその悪夢の中に暮らしていて、他の悪夢は単なるおまけみたいなものだったのである。