8.全方位警戒システム-つまり人の脳みそである-
全46話予定です
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全方位警戒システム、と彼女たちが呼ぶもの。それは生体コンピューター、つまり人の脳みそである。
帝国の脳科学は、同盟連合に比べてまだ遅れを取っている。最近になって、やっと意識がある生体コンピューターの一部成功にまでこぎつけはしたものの、未だに二例しか成功していない。その二例にしても一部の人格が破綻しているので、どうにかクスリを使って正気を保たせている、といった具合なのだ。
だが、今回派兵されたレイドライバーには生体コンピューターが二個搭載されている、とされている。一つは従来型のコンピューターで、パイロットが機能を呼び出して使う形をとっている。もちろん全方位警戒システムというだけあって、特定の、例えばロケット弾が飛んで来た、等というのは直ぐにアラートでパイロットに知らせる仕組みが出来ている。だが、同盟連合のような子宮リンクシステムのようなものは存在しない。あくまで、スタンドアロンで動くコンピューターなのである。
一方、もう一つの生体コンピューターである。これが今回レイドライバーの増産にあたって初期段階から搭載されているものになる。前に[ある生体コンピューター]と呼称していたものがそれにあたる。
それはパイロットの脳波を計測し、その波形と活性化している部位を特定する事で[何を考えているか]までは正確には分からないものの[何かを考えている、その緊急度]までは知る事に成功したのである。
例えば恐怖を感じているなら、相手の脅威度を測定して警告を出す。何かを感じているならその予測結果を一覧で出す。そうした、言ってみれば同盟連合の子宮リンクシステムに似た機能を付加させたのだ。パイロットは余分な思考をしないように訓練された。具体的に、どの部位がどの思考を司っているかは分かっている。なので、それを強く意識できるように訓練を受けたのである。
当然ながらパイロットたちはヘルメットをかぶって作戦行動をしている。そしてそのヘルメットで脳波を測定、というのと、ヘルメット本体は視界を遮らないように極力透明な部分を増やしてある。
彼女たちの機体に搭載されている生体コンピューターというのは、何も死んだ人間の脳を使って作られている訳ではない。意識がない、自我がない、というだけで生体コンピューターとしての[思考]というものはもちろん可能なのだ。この辺りは同盟連合の第一世代型に積まれていたサブプロセッサーと似ている。あくまで意識がない、自分からの意思疎通が不可能なだけなのである。
クロイツェル参謀からは[お前たちがデータをしっかり取って来るように。これはいずれ意識のある状態の生体コンピューターを積む際の試金石になるものなのだから]と言われて送り出されている。
[どうして先輩たちは派兵されないのか]
シュエメイは一時、そう考えた事がある。
だが、相手はあの同盟連合だ、そしてアルカテイル基地は元々帝国のものだったのだ。参謀はそれを奪還する機会を伺っていのだろう。そして、自分たちは世界各地で侵攻する事で、敵レイドライバーの引きはがしを担う、彼女の考えはそう帰結した。
その思考の中に[自分たちは使い捨て]というのは入っていない。あくまでも、作戦行動を任じられた、そう言われているし、思っているのである。
――我々が頑張らないと。
シュエメイは強くそう思うのだ。
あの日本作戦のあと、戦場は明らかに拡大した。それはシュエメイが改めて思わなくともこの状況を知っている人間なら分かる事である。それは同盟連合が望んだ結果なのだ。[休んでいる暇はないぞ]と。[何処でも戦闘になり得るぞ]と。それに呼応するかのように帝国はレイドライバーの増産に踏み切ったのだから。
そしてシュエメイ、ライラはパイロットになった。もしも同盟連合がまだ予定調和のような[戦闘ごっこ]をしていたら、おそらくは帝国のレイドライバー技術はもっと遅れていたかもしれない。ある意味同盟連合が焚きつけてくれたからこそこれだけのレイドライバーを生産できた、とも言えるだろう。
――確かに、命令は[南米を、旧アルゼンチンを占領してこい。その先は追って指示する]というものだった。でも占領したそのあとはどうするのだろうか? それにクラウディア少佐が言った言葉……。
シュエメイは、ふとそう考える。空母も来ているという事は、ここを拠点化しようという考えなのだろうか。
それはシュエメイには分からない事なのだ。
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