6.四年。-奇しくも同盟連合と同じ歳から[教育]を始めているのだ-
全46話予定です
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ライラには淡い期待があった。[軍人にしてくれれば食べるのに困らなくなるのでは?]というものだ。実際、連れて行かれた施設では食事の奪い合いはなかった。その代わり厳しい教練が待っていた。体を動かす教練もそうだが、座学もまたなかなかに手強かった。
第一、第二言語は必須とされた。第一言語の方は道々覚えて、現在も訛ってはいるものの喋られる。なので第二言語を習得するところからスタートだったのだ。
ライラは元々頭の回転は良い方だ。まぁ、でなければとうの昔に人さらいに逢っているか、食事を横取りされてむくろになっているか、なのだが。第二言語もそんなに苦労せずに覚えることが出来た。
だが、もちろん教練で教えられるのは言語だけではない。数学、地質学、物理学、救護学、医学、体育、護身術、はては上の者に対する口の利き方や、全体行動の際の規律、銃や他の火器の扱い方、あげく、拷問の耐え方まで叩き込まれた。まさしく[叩き込まれた]のだ。それらに付いて来られないと平気でビンタやムチが飛んで来るし、酷ければその日の食事は絶望的であった。
四年。たった四年でパイロットを育成しないといけないのである。
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ではなぜ四年なのか。
同盟連合は十歳から集めて十八歳までの八年でものにするのだ。
理由は、帝国がレイドライバー技術に遅れをとっているからだろう。つまり、ある程度自我があり、自分たちでものを考えることが出来る年齢になってから[叩き込む]というスタイルを執っているのだ。
この辺りは脳科学の遅れとも関連している。同盟連合はまだ未熟な頃から繰り返し[刷り込んで]いくスタイルなのに対して、帝国は[詰め込み式]という訳だ。どちらがいいのかは明言は出来ないが、脳科学が進んでいる分、同盟連合の方にパイロットの育成の軍配が上がりそうだ。
しかしながら、今日の帝国の脳科学は持続的に発展を続けている。必然、その脳科学をパイロットに、という考えに帰結するのは至極当然だろう。なので現在では十歳まで年齢を引き下げている。奇しくも同盟連合と同じ歳から[教育]を始めているのだ。
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教育課程でのライラは、やはり上手く立ち回っていた。前述の通り、元々頭の回転がいい彼女だ[この場合はどうすべきか]が直ぐに導き出せるし、それを実行に移すのに時間をかけない。まさに[軍人向き]と呼べるだろう。
帝国でも軍事教練に連れて来られた人間が全員パイロットになる訳ではない。初期段階である程度振り落としをされ、大体半分くらいまで絞り込む。そしてもう一年ごとにまた振り落としをするのである。
では振り落とされた少女たちは? 秘密を知るまでは野に放たれる。まさに孤児院やキャンプへ戻されるのだ。それ以上の、具体的には三年を過ぎた辺りから振り落としをされた人間は研究所での人体実験が待っている。秘密を知ってはもうどうしようもない、帰す訳にはいかないといったところなのだろう。
そしてライラは振り落とされる事なく無事にレイドライバーのパイロットになった、という訳だ。
「他の人たちがどうなったか、興味はありマスが、知ってはいけない事なんでしょうな」
そう言って液体だけになったスープを少しずつすする。
「私は」
とまで出たシュエメイの言葉を、
「貴方の話は、またの機会にとっておきマス。その方が楽しみが増えるというもんだ」
そう返すライラの表情は暗いものではないように見える。
「そう、ですね。とにかくこの戦闘を乗り切りましょう」
シュエメイは言葉を飲み込んだ。
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