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5.これからどうやって生きて行けばいいか-なに、言葉など道々覚えればよいのだ-

全46話予定です


曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップします(例外あり)

※特に告知していなければ毎日投稿です

 ライラは孤児で難民をやっていただけあって、処世術にはある程度長けていた。自分からは目立たないように、それでいて集団になじむように。それは彼女の境遇が自然とそうさせたのだろう。


 ライラは、初めは両親と姉の四人家族だった。だが、内戦で両親を失くし、難民となって一緒に逃げていた姉は、ある日彼女が目覚めたら隣から消えていた。彼女がまだ十歳を超えたくらいの時だ。当然、彼女は泣いた。泣いて泣いて泣き散らかして瞼を真っ赤に腫らしたあと、考えた。


[これからどうやって生きて行けばいいか]


 もちろん姉の行方は是非とも掴みたい情報ではあるが、人さらいが関係しているなら恐らくもう追えないだろう。


 では黙ってその辺りに横たわっているむくろになるまで、無機質にただ惰性で朽ちていくのか。


 ライラの出した答えは違った。


 彼女は[生きる]道を選んだのだ。それからは[どうやったら生存確率が高いか]だけを考えて生きてきた。逆に言うと、たかだか十歳前後の頭でそこまで考えなければならないほど、孤児になった人間の末路は厳しいものなのだし、現在もそれはあまり変わってはいないのである。


 ライラはとにかく目立たないようにし、それでいて自分の行き先はきちんと把握して行動した。敢えて言葉の分からない大陸の国々を選んだのも、難民の間では比較的入国がしやすいという情報が出回っていたのと、中東出身の人間への[アタリ]があまり厳しくない、というのが決め手になった。なに、言葉などまだ若い頭には十分な余裕がある。それこそ、道々覚えればよいのだ。それにイスラム世界では孤児は、女児が一人で生きていくのは相当に過酷なのである。


 そうやって大陸の国々へと渡ったライラだが、数年そこで暮らしていた。いわゆる難民キャンプという奴だ。


 そのキャンプにはいろんな人種が入り混じっていた。彼女のように中東近辺から流れてきた者、元々この大陸の地にいたが食うに困った者、中には英語圏の人間もいたという。


 そこで大人たちに交じって何とか生活をしているうちに言葉は覚えた。


「私の喋り方がおかしく聞こえるのは正しいと思うのだ。独学だし、軍事教練でも特に指摘されなかったからデス」


 スープをすすりながらレーションを食べる。


「このスープもレーションも、皆はマズいと言うデス。でも私からすればとても美味いものだし、文句を言うくらいなら私にくれ、とも思うよ」


 それほど孤児として生活してきたライラの生活環境は良くなかった。彼女は女性だ。しかも今でこそ十八歳になったが、その当時は十歳ちょっと過ぎである。目立つ行動をとれば自分の首を絞める結果になる、それが分かっているから配給にも文句をつけた事は無いし、食事は目立たないところで、急いで食べたものだ。チビリチビリやっていては横取りされかねない。決して美味しくない配給食を誰にも取られないように急いで食べるのである。


 なので、シュエメイがまだ食べている間にライラはスープの具まで食べてあとはスープのみというところまで進んでいた。


「その……その食べ方も?」


 シュエメイは聞きにくそうにしている。それはそうだ、捉え方によっては[お行儀がなってない]と言わんばかりだから。だからこそ一区切り置いたのだ。


 ライラは[気にしてませんヨ]と言い、


「こうでもしないと生きていけなかったのデス。だから軍には感謝していマす。こんな私を拾ってくれたんだから」


 ライラが十四歳の時だった。


 それよりも前に定期的に軍人が訪れるようになっていた。難民キャンプに初めて来たときも軍人が[十四歳の女子はいないか]と声をかけたらしい。その当時、彼女は十三歳だった。なので手を挙げたりはしなかったし、初めての経験だ、何があるか知りたいという好奇心が先行した。隠れて見ているとどうやら何事か問答をいくつかして、その時は一人女の子を連れて行った。


[何をしに来たのか]と周りの大人に聞いたが[年頃の少女を連れて行って軍人にするらしいよ]という情報まで仕入れられた。


 ライラは[これだ!]と思った。そして一年が過ぎ、同じく春ごろに軍人が訪れた際、名乗りを上げたのだ。

全46話予定です



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