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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の三・・・誘惑
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第53話 五人の貴族

 貴族たちのひと騒動が落ち着くと、近衛隊長が丸太の段を頼りに一人をこの先の道を調べに走らせました。

 「えらいことでござりまする!」

 程なく、走った者が声を上げながら駆け登ってきました。全員がその方を振り返ります。

 頂上にまで戻ると、片膝をついて報告しました。

 「道を閉ざす大岩が立ちはだかっており、その隙間を通った先は如何ともし難き崖となっておりまする!」

 「何と⁉︎ 先遣隊は崖から落ちたと申すか⁉︎」 金持の皇子が叫びました。

 とりあえず我が目で確かめねば、と全員がその場所まで下りていきます。確かにその大岩までの道はできているようです。

 目の前に現れた二つの岩の隙間を見て、「ここを通るのでおじゃるか?」と先頭にいた石尽の皇子が、嘘じゃろ?と言わんばかりに一行を振り返りました。

 「他にはなさそうでおじゃる」 誰かが言いました。

 皇子は渋々、身を細めるようにして、大事な(たもと)を身にたくし込むようにしつつ隙間に入って行きました。五、六歩は長さのある隙間を抜け出ようとして、

 「あやぁ〜〜〜!」

 突如として目の前に現れた断崖絶壁に悲鳴を上げ、思わず目を背けました。隙間を出た二、三歩先が断崖です。その二、三歩も急坂でとても踏みとどまれそうにはありません。

 「おお押すでない押すでない」 皇子は必死で両側の岩に縮めた両腕を突っ張ります。

 巨岩の隙間に後から次々と入ってくるので、押し出さんばかりにぎゅう詰めになります。皆、恐々ながら崖の様子を見たいがために前の者をついつい押すようにしてしまいます。

 「押すなと申すに!」

 そう言う間もなく石尽の皇子は押し出されてしまいました。

 「あやぁ〜〜〜!」

 またも悲鳴を上げて、それでも石尽の皇子は後ろにいた大納言大珠御行の袂の口を咄嗟につかみました。大納言は突然のことに支えることもできず足を滑らせ、続いて金持の皇子の袂の裾をつかみ、金持の皇子は中納言石貝麻呂足の絞り袴の膨らみを、中納言は最後尾にいた右大臣阿布御主人の足首を何とかつかむと、右大臣はまだ少し奥にいる近衛兵のどこをつかむこともできないまま、五人はひと繋がりになって隙間から引っ張り出され、数珠玉がばらけるように、つかんだままでいることもできずに崖を転がり落ちていきました。

 あとに残った近衛兵や従者たちは岩の隙間を通して主人たちの長い悲鳴を聞きながら、呆然と見えない姿を見送っていました。

 

 もとより、遥か下の木々の靄の中に姿を消してしまった彼らをのぞき見て行く末を確かめられるわけでもなく、命令者を失った近衛隊は隊長判断で内裏に現状を報告すべく、とって返すことにしました。誰かを残したところで、この崖をここまで登って生還する者がいるとも思えません。

 これが本当に例の『伝説の村』であるなら、この見渡す限りの景色通りの村なら、悪いようにはせんであろう。

 『村』に任せた。煮るなと焼くなと―――。

 それが全員を撤収させる隊長の判断でした。

 いずれまた京から別の隊が送られるかもしれない。が、この崖をどうにかしない限り、まともに村に入ることは叶わないのではないか。

 そう報告するつもりでした。


 新たな侵入者が崖から落ちるのを見張っていた村人たちは、早速麓の木々の間に救護対象を見つけました。十人の男たちを収容してから新たな侵入者をずっと警戒していたのです。

 「ひの、ふの・・・ちょうど五人おるべ」

 「すると、こやつらが例の・・・じゃな?」

 「らしいな、格好もそれらしいわ」

 さっさとそれぞれのケガの具合を確かめながらも、小声でそう言い合います。全員完全に気を失っているようです。新たにできた崖がさらに崖落ちを厳しいものにしているのかもしれません。

 予定して用意していた戸板の上に一人ずつを乗せると、えっほ、えっほと列を成して薬草庭園へと向かいました。


 もう何度も何度も姫に無視され続けて、いいかげん心が萎えてきた男たちの寝床が、いきなり騒がしくなりました。まだ、半分ほどの広さが残っている病室の残った方の敷居戸が慌ただしく開かれると、大急ぎで新たに五つの床が並べられ、そこにわたわたと戸板が運び込まれてきました。

 何の騒ぎかと呆気に取られて見ている男たちの前で、新たなケガ人たちが、自分たちと同じような麻の袖なしの単衣ものを着せられ、同じように烏帽子も取られて腕や足を麻布で巻かれて寝床に移されていきました。手当てはどこか別の場所でなされたのか、自分たちもそんな状態だったのかと、男たちは息を呑んでいました。

 息を呑む理由がもう一つ。

 運ばれてきたのが、壮々たる宮中の重鎮たちだったからです。まさかこんな面々がやってくるとは!

 「わしらが何も知らせんから、痺れを切らして出て来られたのか・・・?」 隊長が不安げにつぶやきました。

 何も知らせんから、何もわからんままやって来て、同じように崖から落ちた・・・。

 気がつかれたら、わしらを見てさぞかし驚かれるであろうし、どんなお叱りを受けるか・・・。

 全員が縮こまってかぐや姫どころではなくなってきました。できることなら、この方々が気がつかれる前にせめてどこか別な場所へ移らせてもらうことは叶わぬのか。せめて幾ばくかの間を置かねば、気がついていきなりそこに全員おるというのも・・・どうにも間が悪すぎる!

 自分たちが身につけていた武器の類も全て村人の『預かり』の元にあり、まだ傷は誰も完治した状態ではなく、村人たちに何かを要求することなどできる状況でもありません。不思議なことに、もう何日も過ごしているのに村人の誰一人として自分たちの素性のことは何も聞いてこないのです。弥作が無事に戻って知らせたのかも知れませんが・・・それにしてもこの親切な面倒見は何とも不気味です。何を考えているのか雲をつかむようです。

 隊長はがっくりと寝床に腰を落としました。成り行きに任せるしかなさそうです。


 一晩がたち、夜が明けると、五人の貴族のうちの一人が目を覚ましました。五人の中では一番若い中納言石貝麻呂足でした。

 五人のことが気になって寝つくに寝つけなかった先遣隊の面々は、夜明け前からひとつ所に固まって身を寄せ合い、五人の寝床に背中を向けていました。できれば目を合わせたくないのです。

 中納言はいきなり起き上がりました。途端に「いてて!」と横っ腹のあたりを抑えて身を折り曲げようとしました。しかしうまくいきません。どうやらあばら骨のどこかをやられているようです。胴体は添え木こそないものの麻布で固く締め上げるようにぐるぐる巻きにされています。息もしづらいほど。

 その声を聞いて先遣隊は、来た!とばかりに更に縮こまりました。

 しばらく痛みをなだめすかしていた中納言はやがてゆっくりと顔を上げました。自分の格好を見、ついであたりを見まわします。「ここはどこじゃ?」という独り言をつぶやく前に他の摘発隊の面々と、男たちの塊りが目に入りました。皆、自分と同じ格好をさせられているようです。

 「その(ほう)ら・・・」 中納言は男たちの背中に声をかけました。

 皆、真ん中にいる隊長の方を見ます。隊長はその視線を浴びて観念したようにじわじわと中納言の方に向き直りました。

 そしてきっちりと衣服の乱れを直して、うやうやしく斜め前に両の(こぶし)をつき、礼をした状態で言葉を発しました。

 「我ら内裏の命を受けたる先遣隊十名、一人として欠けることなくここに揃いおりまする!」

 とりあえずそう言いました。

 隊長にそう言われると、全員が同じように向き直って頭を下げました。

 「無事でおじゃったか。それは何よりでおじゃるが、何で第二報をよこさんかったのでおじゃるか? ここは一体どこじゃ? 何で我らはこんなことになったのでおじゃるか?」

 中納言はあわてたように質問を繰り出してきます。

 「まあ、そう()かされますな。実のところ、最後の下りの道を確かめるべく、邪魔な木の根を掘り起こすうち、その先が崖になっておることに気づく間もなく全員崖から落ちるという体たらくにより、あいなった次第にござりまする」

 隊長は正直に言いました。こういう状況である以上、すぐさまどうにかされるということもなさそうです。

 「第二報は、道の完成を遂げてから、と考えておりましたゆえ」 隊長は何か言われる前にと言葉を続けました。

 「伝令を出す前に全員崖から落ちたと申すか」 中納言は不機嫌そうにそっぽを向きながら言いました。そして、いてて、とまた横っ腹を押さえます。

 「で、何の知らせも受けぬまま出てきた我らも・・・揃いも揃うて崖から落ちた、というわけでおじゃ・・・」 耐えながら無理やりしゃべっているようです。

 「中納言殿、無理はなされんで下され」 隊長は思わず腰を浮かせました。

 「何のこれしき・・・肝心なことを聞かねば・・・ここは『伝説の村』でおじゃるのか?」 横っ腹を押さえたまま隊長を見上げます。

 「・・・さあ・・・それがしには、そうであるとお決めすることはできませぬ」 そう答えるしかありませんでした。

 「う〜〜いてててて!」 中納言は寝床の上に潰れてじわじわともがき始めました。

 先遣隊の一人があわてたように立って敷居戸をガラリと開け、「誰かあ!」と叫びました。

 救いの村人が二人、すぐに駆けつけて中納言の痛みを鎮め、再びしばしの眠りにつかせました。骨折の回復は動かないに限るのです。

 村人たちの鮮やかな手際に、それを見た全員がまさに『伝説の村』を感じていました。

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