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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の四・・・あさき夢見し
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第19話 ふたりだけの夜話

 確かに朱野と与助という親の目からも、おしろいを顔にはたいて紅をさしてタケルについてまわる娘っ子たちより、すっぴんのタケの方がよほどに美しい、そう思えるのでした。

 ふたりが成長するにつれのぞかせ始めた美しさの片鱗に、村の関心は田畑のことよりふたりの行く末に集まっていきました。そして日に日にお相手に名乗りを上げる者が増えていき、いつぞやは所帯持ちまで参戦してきて離縁騒ぎになったほどでした。

 ふたりが村にもたらす『作品群』が拍車をかけていることも事実のようです。ふたりの作り出す夢の世界に憧れ、目の前にいる本人の美しさ自体にも憧れてしまうのです。かといって、二人にこれ以上作るな、など言えるはずもなく、文庫の部屋に飾られる書物や器が増えていき、そこにいつも人だかりが絶えないのは、年頃の者たちが二人に夢中になる空気が止めようもないことであるのを伺わせます。他にももちろん、「匠」や「名人」と呼ばれる人たちもいるのですが、これほどの若さでこうまで人々を魅了する者が一度に二人も出たのは初めてのことでした。

 それが今のところ、村にとっての大問題でした。娘っ子も若い衆も年かさの者までも、独り身であれば誰がふたりを射止めるかで真剣になってしまい、他の者同士での縁談が出てこない、というのです。ふたりとも早く誰かとまとまって鎮まってくれ・・・それが村の大方の要望でした。

 タケルは無頓着でした。そうまでなっても自分が娘っ子たちの気を引いているとは本気では思っていないようで、どんな相手にも特にどうという態度は見せないのです。来れば世間話でも楽しげに相手をしますが、それだけです。あまりの手応えのなさに一度など年増の者に引きずり込まれそうになったこともあるのですが、タケが駆けつけて事なきを得たのでした。「無理無体は通らんぞ」と。

 囲炉裏に刺した鮎の塩焼きと鶏鍋を囲んで、家族四人でいつもより豊かな夕餉をとっていました。

 おとうが晩酌の酒盃(さかずき)を手に二人に聞きます。もちろん、タケルが作った酒盃です。

 「どうじゃ、もうええかげんに遊んでおらずに二人とも誰かに決めたらどうじゃ」

 二人をめぐる村の状況はもう二年近く続いています。つまり、その間、伴侶を失った年配の者同士の婚姻以外、若者で新たに婚姻を成立させる組が出ていないということなのです。

 「わしは・・・ようわからん」 タケルが串刺しの鮎にかぶりつきながら言います。

 「そうじゃ。若い衆が騒ぐんは勝手ぞ。何で村から文句言われにゃならんか」 タケも言います。

 美形の災い・・・確かに本人たちにはどうしようもないことではあります。

 「おまえらが煮え切らんからじゃぞ」 おとうが酒盃を囲炉裏のふちに音を立てて置きました。

 「ほんに、村ん中に気になる子はおらんのか? 今までたんと言い寄られとろうが」 おかあも溜息混じりに聞きました。

 タケとタケルはお互いに顔を見合わせました。タケルは串を横にかぶりながら、タケは箸で鶏肉にかぶりつきながら。娘っ子や若い衆が見たら・・・それでも彼らを諦めさせることはできないかもしれません。

 タケルはしばらくタケの顔を凝視すると、ぼそりと言いました。

 「・・・確かに、もの足らんわな」

 「もの足らん? 何が?」 おかあが聞き返します。

 「ほれ・・・夫婦(めおと)になったら家ば新しゅう構えるじゃろ」 タケルが食べながら話します。「わしゃ・・・小っさいときからずっとタケに飼い慣らされとるで・・・タケみたいなもんでないと、飽きっかも知れんわ」

 今度はタケがタケルを凝視しました。

 「タケは他におらんからのう」 タケルは完食した串を囲炉裏の火の中にくべると、軽く二度目の合掌をしてお椀を取り、鶏鍋に取りかかりました。

 おとうの顔色が変わりました。

 「タケル、おまえ、まさか・・・!」

 「わかっとるわ!」 タケルが柄にもなく声を荒げました。思わぬタケルの反撃に、おとうもおかあも、タケまでもが固まりました。

 「なんぼ村のためじゃからて・・・添いきらんもん無理して添うても・・・相手に申し訳が立たんじゃろ」 タケルが辛そうに言います。

 おとうもおかあも初めてタケルの本心を聞いたような気がしました。のほほんとしているように見えて、きっちり考えていたようです。

 「タケは?」 おとうがタケに矛先を向けました。

 「お・・・おら・・・は・・・」 タケルに気圧されて、逆に言葉が出なくなってしまいました。タケルの思うところが自分の思いと同じなのかどうか、まだ判然としませんでした。

 「タケはとっくにその気じゃ」 おかあが代わりのように言い放ちました。

 「!」

 タケはあっけにとられました。確かにタケルを守るためにそんなふうなことを言うこともありましたが、おかあには冗談でないことを見抜かれていたとは! ふたりが兄妹であることで誰にも本気にされなかったのに。

 タケルは・・・? もしかしたら自分がそうさせてるのか・・・? いくら何でも「飼い慣らされとる」なんて、本気で・・・?

 「どうする気じゃ?」 おとうがふたりを代わる代わるに睨むようにして聞きました。

 タケは思わず自分の斜めで胡座をかいているタケルの膝頭をつかみました。 

 「ずっと今のまんまがええ・・・それだけじゃ。それしかなかろ」 タケルが言います。「おらもじゃ!」 タケも間髪を入れずに叫びました。

 「兄妹のままか⁉︎」

 「もうええ! そこまでじゃ!」

 おかあがおとうに割り込むように声を張り上げました。そして、おとうに向かって、

 「なあ、おとう・・・もう潮時じゃろ・・・まさかこんなことになろうとは夢にも思わなんだが・・・じゃからこそ、もう教えてやってもええんでないか?」

 「え・・・?」 ふたりは同時におかあを見つめ、「何を?・・・何かおらの知らんことがあるんか?」 タケが不安げに聞き返しました。

 おとうは何かを考えるかのように、じりじりとした感じで自分の胡座の膝に何度も拳を打ちつけています。そして意を決したかのように打ちつける拳を途中で下ろすと、

 「あした、村の墓地へ行く。そうじゃな・・・夜明けどきの、まだ誰も来ん頃合いがええじゃろ」と言いました。

 「そうじゃな、早い方がええじゃろが、今日はもう遅いでな」 おかあが賛成しました。

 「墓地て・・・墓参りの時期でもないぞ?」 タケルが緊張したのか背をピンと伸ばしてみんなを見まわしました。

 「一体・・・墓に何があるんじゃ・・・?」 タケは助けを求めるかのようにタケルを見上げました。

 「行ったらわかることじゃ。決まったからにゃ早う食って早う寝れ。あしたは叩き起こすぞ」

 おかあは自分のお椀をガサガサとかき込みました。


 「タケル・・・タケルぅ・・・」

 色んな妄想が頭に渦巻いてなかなか寝つくことができないでいるタケが、とうとう隣のタケルの布団の中に潜り込んできました。

 「タケル・・・寝たか?」

 「ん・・・寝れんのか?・・・わしもじゃ・・・今日はあかん・・・」 タケルが布団の中で伸びをしながらタケの方に寝返りを打ちました。

 「何じゃろなあ、墓で聞く話て」

 タケが体を縮め、前で両の拳を合わせるようにしてひそひそ声で言いました。タケルも同じようなかっこうになり、両の拳をタケの拳にくっつけました。

 「わからん・・・わしもなんか恐ろしゅうて・・・変なことじゃったらどうするべて・・・」 震えるような声で言います。

 「もう、いつまでたっても頼りにならんあに様じゃのう」 タケが足を伸ばしてタケルの足を蹴飛ばしました。「いて!」「フガ!」

 タケはびっくりして思わず手でタケルの口を塞ぎました。タケルもびっくりしてタケの手の上から両手で自分の口を抑えました。タケの布団の向こう側にはおとうとおかあが休んでいます。小さく流れていたおとうのいびきがタケルの声で一瞬乱れました。が、すぐに元のいびきに戻ったようです。そっちの様子を開けたままの窓から差し込む月明かりの中で二人して少し身を伸ばして確かめると、

 「変なことって?」 元のかっこうに戻ったタケが聞きました。

 「・・・お祓いでもするんでないか? 憑きもんが落ちたら、わしらほんまは不細工じゃったりして」

 「・・・なんじゃ、そりゃ?」

 自分の妄想の端にも浮かばなかったタケルの妄想にタケはツボにはまってしまい、大笑いしそうになるのを両の拳で口を抑えて必死で堪えました。なるほど、そんなら村の問題はあっさり片付くかも・・・。そう思いながら。

 「大体、あの家にこんな麗しゅうもんが生まれるはずないって、よう言われとるが」

 「タケルは・・・おとう似じゃが」 タケが笑いの隙間に言います。確かにおとうは「わしの若い時分にそっくりじゃ」とタケルを自慢しました。おかあは横で笑っているだけでしたが。それを認めてくれる村人もいないことはないのです。

 「笑いごっちゃねえわ」 タケルが口をとがらせます。それでもタケは笑いから抜け出せずにクックッと肩を震わせていました。

 タケルは自分がそんなに面白いことを言ったと思ってないのか、ぷいっと背中を向けてしまいました。

 タケはようやく鎮まってきた笑いの中でタケルの背中に身を預けました。こんな時がいつまでも、いつまでも続きますように・・・。

 「おまえ・・・どっこも行くなよな・・・」 タケルが向こうを向いたままぽつりとつぶやきました。

 それを最後にふたりに眠りが訪れました。


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