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元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が死んだ私への初恋を拗らせていた〜  作者: 岡崎マサムネ


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54.「アイシャに触るな」

「おい! 何やってんだ!」


 怒鳴り声に振り向けば、男がこちらに向かって立っていた。

 咄嗟にドアに向かって駆け出すが、私よりも早く走り出していた男に一瞬で捕まってしまう。


「だ、旦那さま!! 旦那さま!!」

「こら、騒ぐんじゃねぇ!」

「む~!!」


 悲鳴を上げると、手のひらで口を塞がれて抱え上げられた。

 それでもじたばたと暴れていると、地面に向かって勢いよく投げ出される。


 どしゃっとタイル敷きの床に倒れ込む。男が私の頭を地面に押さえつけた。

 痛い、じゃりじゃりする、砂が目に入る。さっきの木桶に入っていたのは、栽培用の土か。


「《解錠》」

「あ?」


 近くにあった古ぼけたドアが開いた。

 四角いドアの形に日が差し込んで、そこだけぽっかりと穴が空いたようだった。

 そこからゆらりと、影のような姿の人間が――ノアが、入ってきた。


「アイシャ、ここに――」

「《無効化》!」


 瞬間、ノアの足元に魔法陣が広がった。


 ぐっ!?


 ノアがべしゃりとその場に倒れ伏した。

 あの呪文と魔法陣の形、見覚えがある。要人が出入りするような場所には必ず配置されている魔法陣で、定義された空間では魔法が使えなくなるという効果を持つものだ。


 さらに、体から魔素を吸い取る。魔法陣に強烈に引き付けられ、魔力量が多い人間ほど受ける効果が大きい。

 ノアほどの魔力であれば、立つことすらままならないだろう。


「へっ、魔法使いか。念のため仕込んでおいて助かったぜ」


 私を地面に押し付けながら、男が言う。

 彼は解錠の魔法を使ったし、ノアのローブを見れば一目瞭然だろう。


 私を引き倒しているこの男も、まず間違いなく魔法使いだ。

 マンドラゴラの取り扱いには注意が必要だ。ある程度魔法と魔法薬学両方に精通していないと、精製する前に命の危険にさらされることになる。


 解錠の魔法を使ったノアに対して、即座に無効化の魔法陣を発動させる判断力。

 きっと熱心に魔法を勉強した、それなりに優秀な魔法使いだったはずだ。

 それがこんなところでマンドラゴラの違法栽培とは……もったいない。


「アイシャ!」


 ノアが私を呼んだ。

 顔を上げて彼の方を見ようとするけれど、あいにく頭を押さえつけられているので動けない。うぐうぐ呻くのが精いっぱいだ。


「動くなよ。お嬢ちゃんが怪我するぜ」


 男が私の頭をぐりぐりと地面に擦り付ける。

 痛い、痛い。

 砂が目に入ったのか――それとも、私の体が6歳児で、痛みに弱いからか。

 ぽろりと涙が零れた。タイルに落ちた涙が滲んで、色が変わる。

 ぎゅっと、地面についた手を握った。砂が手のひらを汚して、ざらざらする。


「やめ、ろ……!」

「……ずいぶん効いてるな。お前、どっかの雇われ魔導師か?」


 ノアが食いしばった歯の隙間から絞り出すような声で、男を制止する。

 男が一瞬、私ではなくノアに視線を向けた。


 わずかに男の力が緩んだ隙を、見逃さない。


 無力化の魔法を発動できたということは、この男のいる場所は無力化の定義外のはず。つまり、その下に倒れている私も――魔法が使える。

 魔力は解錠でも使ってしまった。このあとの魔法に全魔力をつぎ込まなければ、次はない。

 魔力で魔法陣を描いて、無駄遣いしている場合ではなかった。


 だけれど、魔法陣は何で描いてもよいのだ。

 インクでも、血でも、何で描いてもいい。

 つまり――涙でだって、描けるものだ。


 頬を伝う涙を使って地面に描いた魔法陣に、魔力を流す。


「《浮遊》!!」

「がっ!?」


 ものすごい勢いで射出されてきた木桶が、男の背中にクリーンヒットした。

 中に入っていた土――というかほとんど泥だった――が派手にぶちまけられて、地面に広がる。


「こ、のガキ!」


 一瞬で態勢を立て直した男が私に向かって足を振りかぶる。

 蹴られる、と思った。

 だが。


「《時間停止》」


 ノアの声がして、男の動きが止まった。


 男の動きだけではない。

 吹っ飛んで転がっている木桶も、地面に広がった土も、街の喧騒も、空気も。

 私とノア以外のすべてが、停止していた。


「アイシャに触るな」


 ノアがそう、低く唸るように言う。


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