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元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が死んだ私への初恋を拗らせていた〜  作者: 岡崎マサムネ


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23.球威では成人男性に勝てないので

 ボールを胸の前で抱えて、庭に出る。

 庭といっても周囲はほとんど森なので、暴投したら一瞬でボールが見えなくなってしまう。気を付けなくては。


 それにしても、森の朝の空気が心地いい。

 青い空とたくさんの木々、まだ白い朝日に、小鳥の鳴き声。目をつぶって深呼吸をして、陽の光のもとへと駆け出す。


 ノアも渋々と言った様子で私の後をついてきた。

 眩しそうに目を細める彼に、早く早くと手招きをする。

 家からある程度距離を取ったところで、ボールを両手に持って振りかぶった。


「せっかくなので、ゲームをしながらキャッチボールしましょう!」

「は? ゲーム?」

「好きなものを言いながらボールを投げましょう! 言えなくなったら負けです!」

「いる? そのルール」

「子どもは球威では成人男性に勝てないので……」

「勝つ気だったのか……」


 ノアが幻想生物でも見るような目で私を見ていた。

 キャッチボールに勝敗はないような気がするけれど、まぁあった方がきっと盛り上がるし、いいだろう。


 ただキャッチボールをしても、ノアが私と会話してくれるとは考えにくい。

 ここはゲームにかこつけて、ノアの好きなものを聞き出す算段だ。


 キャッチボールをしながらであれば、ある程度テンポよく答えなければならない。

 そういうときに不意に出てきた答えこそが、本人も強く意識していないけれど深層心理に根強くあるものだったりする。のかもしれない。

 とにかく精査は後でするとしても、情報を集めないことには始まらないのだ。何かヒントだけでも、見つけたい。


 気だるげに立つノアに、「では私から」と宣言して、ぽーんとボールを投げる。


「魔法!」


 ボールがノアの胸元に収まる。

 ノアはボールを受け止め、少しの間それを見つめていたが、やがて私に向かって投げ返した。


「……先生」


 ノアが投げたボールを受け止める。かなり気を使って投げてくれたようで、私でも無事キャッチできた。

 適当に森に向かって放り投げたりしないあたり、やっぱりそれなりに、面倒見がいいと思う。


 ノアの回答。これは予想の範囲内だ。

 逆に言えば、これ以外は予想が立たなかった。

 ここから先は未知の情報だ。進めば進むほど、情報を集められる。気合を入れてボールを投げよう。


 また両手でボールを持って、ノアに向かって放る。


「りんごのパイ!」

「……赤色」

「えんどう豆のスープ!」

「今日食べたものだろ、それ」


 ノアが呆れたような声を出す。

 私が好きなものなんて何だっていいだろう。今回の目的はノアの好きなものを引き出すことなのだ。

 あと実際おいしかったから嘘ではない。


 やれやれとため息をついたノアが、ぽんとボールを投げる。


「静かな場所」


 ボールを頭の上でキャッチした。

 静かな場所。これは初出の情報だ。


 赤色はまぁ、前世の私が「赤の大魔導士」だったからだろうなと推測できるけれど、私は前世も今世も「静か」とは縁がない人種だった。

 グレイスに関係のないノアの情報としては貴重だと思う。

 ……もしかしたらうるさくするなというメッセージかもしれないけど。


 ボールを握り直して、また放り投げる。


「フクロウ!」

「フクロウ?」


 ボールを受け止めて、ノアが首を傾げた。

 何故疑問ありげな顔をされるのだろう。フクロウ、ふわふわもこもこしていて可愛いと思うのだけれど。首も360度回るし。


「夜」

「家族!」


 私が放ったボールが、ノアの頭上を通過していった。


 手を伸ばせば余裕で届いたと思うのだけれど、ノアはそうしなかった。

 ぱちくりと目を瞬いて、私の顔をじっと見るばかりだ。

 私が投げた勢いのまま、てんてんとボールが転がって、森の中へと消えて行った。


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