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元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が死んだ私への初恋を拗らせていた〜  作者: 岡崎マサムネ


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19.「シッ、見ちゃいけません」

 ぱちりと目を覚ました。

 リビングのソファで寝てしまっていたようだ。肩にはブランケットが掛けられている。


 ノアも言っていたけれど、子どもの身体というのは本当に不自由だ。生きづらいことこの上ない。

 こんなに不自由な生き物が、よくもまぁあそこまで大きく育つものだ。親というものは……子どもを育てる大人というものは、偉大だ。


 目をこすりながら、身体を起こす。

 まだ頭が完全には覚醒していない。ぼーっとしながら時計を見ると、時間はもう夜に差し掛かっていた。

 しまった。寝過ぎた。このままだと夜にきちんと眠れないかもしれない。


 気を抜くとまた眠ってしまいそうな身体に鞭打ちながら、のそのそとソファを降りる。寝るにしてもせめてベッドで寝たほうがいいだろう。

 ブランケットを持ったまま、廊下に出る。廊下は暗かったが、ダイニングに灯りがついていた。

 ノアがそこにいるのだろうか。ジェイドはもう帰ってしまったか、まだそこにいるのか。


 そうだ、パイ。私のパイはちゃんと残っているだろうか。


「あら、起きたの?」


 ダイニングを覗き込むと、ノアとジェイドがテーブルを囲んで腰掛けていた。ジェイドはこちらを向いて座っていて、ノアはこちらに背を向けている。


 ノアの肩の向こう、テーブルの上のバスケットが目に留まる。よかった、まだある。

 甘いものは良い。思考には十分な糖分が必要なのだ。


 パイを目指してテーブルに近寄ると、大人しく座っていたノアが急に声を上げた。


「先生……ひどい……僕を置いていくなんて!」


 机に勢いよくグラスを置いて、ワッと叫ぶように言ったかと思えば、今度は机に突っ伏してぐすぐす泣き始めた。


 どうしよう。成人男性が泣いてる。

 あんまり見たことのない光景に、ついしげしげとその様子を眺めてしまう。

 自分が成人してからあまり泣かなかったので、何とも不思議なものを見ている気分だった。最後に泣いたのは……箪笥の角に小指をぶつけた時とか?


 ジェイドは慣れているようで、完全に無視して机を回ってこちらに来ると、私の肩にそっと手を置いた。


「先生が魔法好きなのは知ってた。知ってたけど! でも、だからって……何も魔法と心中しなくったっていいじゃないかぁ!!」

「魔法と心中」

「シッ、見ちゃいけません」


 ジェイドがそっと私の肩を押して、椅子に座るように促す。言い得て妙だと感心したのだけど。

 椅子によいしょと登って腰掛けた。

 まだノアの様子に釘付けの私に、ジェイドは苦笑いする。


「酔うとずっとこの調子なのよ。いい加減吹っ切りなさいって言ってるんだけど」


 ジェイドのため息に、机に突っ伏しているノアのつむじを見つめた。机の上のグラスはお酒のようだ。


 ノアがどうしてそんなに、私の……グレイスのことを慕ってくれているのか、それが不思議だった。

 魔法の面白さを知ってほしくて、熱心なノアにどんどん新しい魔法を教えるのが楽しくて。ノアが魔法学園に行くと言ってくれた時は嬉しくて。

 私はもちろん楽しかったけれど、そんなに思ってもらえるほどいい先生だったかと言われると、自信がない。


 思わず、疑問が口をついて出た。


「あの……『先生』のどこがそんなに……?」

「は?」


 私の言葉に、ノアがドスの効いた低い声を出した。

 彼がゆらりと顔を上げる。酔っているからか頬が赤いし、どことなく目も据わっているが、それだけでなく……並々ならぬ威圧感を放っていた。


「まずはその明晰な頭脳」


 ノアが口を開いた。

 明晰だなんて、そんなそんな。

 と、内心で照れていたのは一瞬だった。


「史上最年少で、魔法学園と魔法大学を飛級で卒業するという我が国の魔法史に残る偉業は単に魔法の才能や魔力量だけでは成し得ないことだ。先生自身がきちんと基礎から学んでそれを応用するための知識と理論を身につけていたからこそで、それは自分の力に慢心せず常に向上心を持って魔法と向き合い続けられる高潔さとも言えるだろう。自身の研究だけじゃなく僕みたいな教え子や魔法局の後進の育成にも熱心だった点にも先生の魔法の発展をまっすぐに願う高い志と権益を独占しようとしない公共の利益なんかを俯瞰して大局を見極められる冷静さが現れていて、知識と実績に基づく先見の明が発揮されているところも先生の素晴らしいところだ」


 立板に水が如くつらつらと語り出したノアの言葉が、右耳から入って左耳からつーっとそのまま通り過ぎていった。


 うん、えっと。

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