創世
九
「話しは、卑弥呼さんから聴いています」
なんちゃって科学者は言って、顰めっ面を拵えた。
「腑に落ちないようですね?」
乙女がそれを訊いた。
「貴女方が介入した方は私の知り合いです。自害を収めたようですが、矯正力により殺されるでしょう」
「殺されるのか?」
「今を変えれば、未来は必ず変わりますからね」
「良くも悪くも、ですかね?」
「その関係性を読めないようでは、立ち入ることを勧められません」
「言いたいことは解りますが、予測に正解があったとしても、それを知るのは結果だけですよね?」
乙女は想いを吐き出した。
「善と悪、献身と欲。物事に二極性を重ねれば、ある程度の目先を狭められます」
「狭めたとして、選択肢が芽生えるとは想えぬ。だいたいという方向性で、命を値踏みして良いものか」
野口は、どんぶり勘定に受け取っていた。
「貴方はイレギュラーを、神々が定めると考えているようですね。私はそう考えません」
「ならば教えてたもれ」
野口に言われ、なんちゃって科学者が意味深に笑う。
「努力がもたらす効力は、本人の成長分です。眼に映らなくても、確実に育っているんです。まぁそれが、真っ直ぐなのか、捻ってしまっているかすら、人は知ることができないですけどね」
「みたような言い方ですね」
「私は千里眼の持ち主ですからね」
「千里眼?」
「貴方の時代では、鷹の眼と言ったようですがね」
なんちゃって科学者が、野口に見向いていた。
「僕の時代だと、神の眼ですね」
さきがけが口を挟んだ。
「私に言わせると、創世主が与える眼なんですがね」
「創世主?」
「神々を産み出した、万物の始祖です。神々は感性様と呼んでいますよ」
「感性様?」
「想いの総称としたのかも知れません。ペットが人に懐くから解りますよね」
「野鳥・野獣・海洋生物等も手懐けることができる、と言うのでしょうか」
「何かが繋がっている、とするならば、それは感性であって欲しいとは想いませんか」
「想います。花を見て感慨深くなりますから」
「海には海神が居ます。地上に神々が居ることも、人の記憶の中に刷り込まれているようですからね」
「神話ということか」
「想いに、男性・女性の隔たりはありません。自尊心というものに左右されなければ、ですがね」
「貴方はただ者じゃないですね」
「私はただの人です。だから死にました」
「?」✕三名
「縁は結ぶから強固になります。そのままにしておくと、距離という量子に阻まれて終いますよ」
「量子?」
「私がなんちゃって科学者なのは、自然科学に取り憑かれているからです。昔の方々が哲学に取り憑かれたようにです」
三名は言葉を失くしていた。
なんちゃって科学者が、「これから経緯を話しますが、それを予言と聴くか、妄想と聴くかは自由ですからね」と前置きして語り始めた。
私が元素に拘るのは、兵器として使われるからではありません。
米国に拉致紛いに連れていかれます。米国は実績のある方を冷凍保存して、薬や処置の可能な未来まで送ることを考えています。傷や病気を治す技術のある未来に託せば、完治するからという考え方なんでしょうね。
死を受け入れたくない気持ちは解りますが、風化・酸化の意味を誤解しているんです。空気中の元素割合は刻まれる時間に比例して変化し続けています。解凍された肉体が傷や病気を克服しても、機能がそれに追いつかずに腐敗に至るのです。
浦島太郎の物語では触れていませんが、老化の先があることが100%の事実なんです。卑弥呼さんに聴きましたよね。
恐竜が巨大化したのは、酸素濃度が高かったことが証明しています。
私は恐竜が祖先と言い続けていますが、氷河期でリセットしたのは、ある程度解明されていくはずです。
時間をかけて酸素濃度を下げたのも、理由付けになることでしょう。それが元素を可視化する理由と、私は仲間たちに教えます。そうしないと、私が公表した電磁籠を造り出せないからです。
作り出すには、地球上にない、まだ確認されてない元素が必要です。だからこそ可視化を希望しているんです。
元素の見えない人々が作り出せない以上、私が造ったものだけでは、万民が納得できません。私がほら吹き爺さんになることは厭いません。ですが可視化するまでには、500年以上かかるはずです。造り出すまでに人が生き残っていないと意味がなくなります。時間は刻まれ続けますので、足りないのはお分かり戴けますよね。
細菌やウイルスが変異しながら進化と退化を繰り返すのは、周知の事実になるでしょう。そういう経緯で抗体を造り出したのが人だからです。生命体が生き残りをかけて、人に取り込まれることを選択するのです。未曾有に狼狽えるのが、か弱い庶民であることだけが公然の事実なんです。
「風化して欲しくないのは、僕も同じです」
「流行り病も風化するのか、近代は?」
「懲りないのが人、ということでしょうね」
悪びれることもなく言うなんちゃって科学者に、三名が恐怖を抱いていた。




